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「二度あることは三度ある」について

「二度あることは三度ある」というコトワザがあるが、ある意味、ENEOSという会社は、すごい会社である。

今回の場合は、グループのトップではなくて、子会社の話であるが、経営トップが、3代続けて、セクハラによる不祥事を起こして、辞任するというような不祥事は、過去に前例を知らない。

僕も、長年、銀行員をしていたが、大銀行でもセクハラ事案はたいして珍しくはなかった。支店長とか部長とか、そういう責任のあるポストに就いている人でも、問題を起こす人は起こすし、起こさない人は起こさない。

「下半身に人格はない」という言葉がある。たしかに人間には性欲がある。社会的な規範やルール、あるいは相手の意向や人格を無視しても構わないのであれば、自分の欲望のままに行動すれば良いのだろうが、そんなことが許されないのは言うまでもない。

にもかかわらず、世の中からセクハラ事案がなくならないのは、多くの場合、「勘違い」から起きる。高い地位に昇ると、自分は何をやっても許されるんだと勘違いするような人が一定数出てくることになる。昨今、起きているセクハラ事案の多くは、そういう勘違いから来ていると思う。

ENEOSのような著名企業で、責任ある立場にはおよそ相応しくない残念な人物が3代も続けてトップに就任してしまった原因についての詳細は不明ながら、「企業風土の問題」、「社長選考プロセスのバグ」、「ボードメンバーの機能不全」といったところに問題があったのだろうかと思う。

1つめの「企業風土の問題」であるが、もともとENEOSという企業の体質として、コンプライアンス全般に対する感覚が甘くて、セクハラを含めたハラスメントに対してユルユルだったということが考えられる。

昨今、まともな企業であれば、社員に対するコンプライアンス教育が徹底しており、昭和の頃と比べれば、社員の意識はかなりアップデートされているはずである。どちらかと言えば、やや神経過敏というか、ナーバスすぎて疲弊気味なくらいであろう。しかしながら、ENEOSの場合、その辺りの取り組みが緩くて、あまりアップデートされないまま、旧態依然とした役職員が令和の時代まで生き残ってしまっている可能性はある。世間の非常識が、社内では非常識と認識されないようでは、自浄作用は期待できない。

2つめの「社長選考プロセスのバグ」であるが、要すれば、社長を選考するにあたり、ちゃんとチェック機能が働くような仕組みになっていなかったということである。

HPを見ると、「ENEOSホールディングス」という持ち株会社は、「監査等委員会設置会社」になっている。「監査等委員会設置会社」というのは、「監査役会設置会社」と「指名委員会等設置会社」の折衷案みたいな会社形態で、上場会社の間で急速に広まりつつある。

22年7月時点で、東証プライム、スタンダード、グロース全市場の企業3,770社中、「監査役会設置会社」は2,290社(60.7%)、「監査等委員会設置会社」が1,392社(36.9%)、「指名委員会等設置会社」が88社(2.3%)という割合なので、ざっと4割が、「監査等委員会設置会社」であり、ENEOSもその中に含まれる。

「監査等委員会」というのは、「監査役会」に代わって、取締役の職務執行の組織的監査を担うというものであり、過半数の社外取締役を含む取締役3名以上で構成される。「監査等委員」が「監査役」と大きく違うところは、取締役会で議決権を有することで、ガバナンス強化に資するとされているところにあるが、いくら制度を変えてたところで、本当にチェック機能が働くかどうかは別物である。

HPに掲載されている、「ENEOSホールディングス」の「コーポレートガバナンス体制」を見ると、取締役会に諮問・答申するべき機関として、「指名諮問委員会」と「報酬諮問委員会」が設置されており、構成は、「社内2、社外3 議長:社外」となっているが、この社外取締役3人が、ちゃんと社長候補者の適性や資質までチェックしていなかったから、3代も続けて問題銘柄を看過してしまったのだと断定せざるを得ない。まさにバグである。

3つめが、「ボードメンバーの機能不全」ということであるが、取締役には、他の取締役に対する監視義務が課せられている。要するに、何か問題がないか、相互に監視しなければならないということであり、その監視対象としては、代表取締役も含まれている。したがって、ENEOSの場合、選考プロセスだけでなく、その後のチェック&フォローも正常に機能していたとは言いがたい。

ENEOSは、昨年12月に解任した前社長の後任として、副社長を昇格させるという発表をしたが、内部昇格で大丈夫なのかどうか、他人事ながら少なからず心配をしてしまう。

今回、改めて外部の専門家に委託し、再発防止策や、コンプライアンス改善に向けた各制度について分析・評価を行ったところによれば、内部通報制度や、役員の処分プロセスの明確化は有効だった一方で、取締役の選任方法などはさらなる見直しが必要とのことである。

また、新たな再発防止策として、「取締役選任時の第三者機関によるインタビューやウェブテストの実施」、「会食に参加する際の取締役や同行する者のルールの策定」、「取締役の緊張感を維持するための取締役どうしの監督強化」といったものが打ち出されているが、果たして、こういう対策が実効性を発揮できるのだろうか。

取締役候補者に対して、インタビューとか適性テストをしたとして、著しい問題が検知されたら、取締役に就任させるのを思いとどまるのであろうか。

あるいは、取締役が参加する会食に部下が同行したとして、何か問題行動があったら、同行した部下は、上司たる取締役を、ちゃんと止められるのだろうか。

取締役の緊張感を維持するための取締役どうしの監督強化というのも、よくわからない。もともと、取締役には相互監視義務が課せられている。今までは、その義務をまるで果たしていませんでしたと白状しているのだろか。

何か問題があると、社外取締役の人数を増やすとか、比率を上げるという話になるのだが、社内の情報に疎い社外取締役を増やしたところで、今回のような社内の不祥事を大事になる前に察知したり、抑止したりすることが可能になるとは思えない。

じゃあ、どうするんだという話になるが、はっきり言って、「ウルトラC」みたいな妙案はない。

とりあえず有効と思われるのは、「内部監査部門の強化」である。内部監査部門のスタッフを増強して、「監査等委員会」との連携を強める。監査等委員会を構成する取締役は過半数が社外であるから、彼らに代わって社内の情報を吸い上げる役割を果たす実働部隊が必要だからである。その際に、社外ではない社内の常勤性のある監査等委員の役割が重要になってくる。

あとは、「内部通報窓口の強化」であろうか。ENEOSでも、内部通報制度はある程度は機能していたようだが、何かあれば即座に「報告・連絡・相談」が行くような窓口を用意しておくべきであろう。

その際に重要なのは、社員の心理的安全性に対する配慮である。社内だけではなく、弁護士事務所等と提携して、社外窓口も併設しておくことが望ましい。その場合の弁護士事務所は、会社の顧問弁護士とは別の事務所にした方が良い。社内窓口も、人事部門とかコンプライアンス部門ではなく、常勤監査等委員にアサインするのも、1つのやり方として有効であろう。

サラリーマン社会で、経営トップにモノ申すというのは、無茶苦茶にハードルが高い。特に大企業の場合、まだまだ終身雇用、年功序列的な人事制度が温存されている。したがって、少しでもハードルを下げるような仕組みを講じないと、「内部通報制度」自体が、「絵に描いた餅」みたいになってしまって、「開店休業」ということになりかねない。

おそらく、ENEOSの場合、問題になった人たちも含めて、セクハラに該当するような事案は、それこそ日常的にもっと頻繁に起きていたはずである。小さな兆候も見逃さず、リスクは小さいうちに摘むという姿勢が、組織を防衛するためには重要であろう。

こういう考え方を、「息苦しい」、「窮屈だ」と言う人もいるかもしれないが、仕方がないと割り切るしかない。責任ある立場に就いた以上、「公人」なのである。一挙手一投足、日頃のちょっとしたふるまいもチェックされる立場にあるし、それがイヤならば、辞めるしかない。


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