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「社外取締役」について

いろいろな企業で不祥事があると、ガバナンスの強化が叫ばれる。こういう場合、金融庁のお役人は、会社の「カタチ」を改めたら、ガバナンスの強化が図られるといった方向に話を持っていこうとするようである。

その結果なのか、従来の日本企業の多くは、「監査役会設置会社」であったが、米国企業を参照しつつ、「指名委員会等設置会社」制度なるものがつくられて、さらにこれら両者の折衷案みたいな格好で、日本独自の「監査等委員会設置会社」制度がつくられた。各制度の具体的な内容については、専門的な話になるので省略するが、日本企業の多くは、これら3つの機関設計のいずれかを選択している。

ちなみに、22年7月時点で、東証プライム、スタンダード、グロース全市場の企業3,770社中、「監査役会設置会社」は2,290社(60.7%)、「監査等委員会設置会社」が1,392社(36.9%)、「指名委員会等設置会社」が88社(2.3%)という割合である。

ちょっと余談であるが、「指名委員会等設置会社」が明らかに不人気なのは、明らかに日本企業には合わないからである。終身雇用制の下、取締役の大半は社内で立身出世したサラリーマンであることから、社外取締役(=部外者)が過半数を占める「指名委員会」「報酬委員会」ような場で、誰を取締役にするのかとか、個々の取締役の報酬をいくらにするのかとか決められることには心情的に抵抗があるのだろう。

ちなみに興味深いことであるが、みずほフィナンシャルグループ、東芝、日産自動車、三菱電機、三菱自動車といったガバナンスに問題があって、昨今、世間を騒がせた企業が揃いも揃って「指名委員会等設置会社」であるのはとても面白い。理由は謎である。こういう企業に限って、外観をモダンな印象に整えることには如才がないのであろうか。

いずれにせよ、世の中の空気としては、社外取締役を増やす、あるいは全取締役に占める社外取締役の割合を高めれば、企業のガバナンスの健全化あるいは強化に資すると考える風潮があるようだが、それは考えものであろう。

社外取締役というのは、だいたいにおいて、月に1回ほどの取締役会に出席するだけである。業務執行取締役と異なり、社内の具体的な業務運営についてしっかりと理解できているわけではない。

また社外取締役の人選は、多くの場合、経営トップ主導で行われる。はっきり言えば、人畜無害な「お友だち」であったり、「見映え」重視で、大学教授とか元キャスター、経営コンサルタント等が選ばれることが多い。そもそも日本では、社外取締役の適任者の絶対数自体があまり多くないから、あちこちの企業の社外取締役とか社外監査役を兼務する現象が起きてしまう。

どれだけ優秀な人物でも、時間的・体力的に制約のある中で、企業の実態を把握して、経営トップ以下の業務執行取締役に対して適切な牽制機能を発揮するなんてことは、口で言うのは容易かもしれないが、実際にはきわめて難しい。

つまるところ、会社のガバナンスというのは、「カタチ」のような機関設計の問題というよりも、「人」の問題ということになる。社外取締役に選任されたメンバーが、ちゃんと必要に応じて経営トップに対して「NO」と言えるかどうか。余計なことは言わずに、黙って座っているだけで結構な「不労所得」が得られる美味しいポジションを放り出してでも、経営トップに諫言をする勇気があるかどうか。要は、そういう適任者を得られるかどうかにかかっている。それだけである。

社外取締役の頭数の問題でもないし、社外取締役の占める割合の問題でもない。モノ言わないポンコツばかりならば、たとえ何十人いたとしても無駄である。


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