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ラブレター:イツコアヤノにときめいて

ド田舎に住んでいた。
家から見えるのはドでかい山々、家の裏にはカブトムシのいる林があり、空気がきれいで水が美味いところだったが、車がないと生活するのに不便な地域だった。

近所にはかろうじて本屋がひとつ。最寄りのコンビニは15分以上歩いた先で、そこにたどり着くまでには茶畑が広がった一帯を横切って進むような田舎だ。

そんな地元にも、車で30分ほど行ったところに路面店の雑貨屋があった。

車でしか行くことができないため、たまにしか連れて行ってもらえなかったが、当時の自分にとってどれほどテーマパークのようできらきらした楽しい場所であったことか。
小学生の私は、数百円のメモ帳やシャープペン、ビニールや缶でできたペンケース、いいにおいのするカラフルなボールペンや消しゴム、ラメの入った小さいシールたちに目を輝かせ、熱い視線を注いでいた。

自分のほしいものは全部そこにある気がした。

それは小さくてこちゃこちゃしている物が持つ独特の可愛らしさに初めて触れた歴史的瞬間であり、私がヴィレッジヴァンガードで働いていたのもきっとこういった原体験が影響したのだろう。
世間的には「プリント倶楽部」が流行り始めたような時代で、ギャルがルーズソックスを履き、ケータイにはじゃらじゃらとストラップをつけ、絵でいうと昔のポップンミュージックとか主線の太いイラストが流行っていたように思う。ワッペンを散らしたようなデザインも多かった。当時のZipperを読み返すとカラフルでごちゃごちゃしててめちゃくちゃかわいいのだ。

実家から持ってきたZipperのニットブック。1998年刊行当時母が購入したもの。

そんな90年代後半以降の雑貨屋で、私がひときわ目を輝かせ買い集めていたのが「イツコアヤノ」さんのイラストがデザインされている文房具だった。

検索してもフリマサイトしか出てこないため画像が載せられず申し訳ないが、「itsuko ayano」や「イツコアヤノ」で検索してみてほしい。
見たことがある、持っていたという方も多いのではないかと思う。
缶バッジや手帳、メモ帳、ステッカーなど、出すもの全てがかわいくて、ひたすらに買い集めていた記憶がある。鮮やかな色づかいで媚びない、強めでスタイリッシュな女の子たちの絵が描かれた文房具をランドセルに詰めて、私は小学校に通っていた。
今思えば学校はそれなりに地獄だったけれど、好きな物に囲まれていれば、それが私をいろいろから守ってくれている気がした。

イツコアヤノさんが現在どうされているのかは不明だ。
当時雑貨を発売された会社にまだいらっしゃるのだろうか。

私は現在、雑貨を作る側の仕事をしている。
漫画やアニメ、ゲームなど幅広いタイトルを取り扱わせていただいているが、業界の端っこにいる人間として、またただの一人のファンとしてメーカー様にお伝えしたい。

イツコアヤノさんのグッズ、復刻してくれませんか。

デザインから製造まで自社で作られていると思うから、私にできることなんてつらつらと文章を書くことだけだなのだが、どこかで届けばよいなと思う。ネット上では今でも根強いファンの熱い声も多くみられ、私はその度に仲間を見つけたようなうれしい気持ちになる。

イツコアヤノにときめいていた私たちはすっかり大人になってしまったけれど、かわいいものに対しての感動や衝動はいくつになっても忘れずに生きていきたい。

皆、いつまでもときめいていようね。

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