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チープな恋愛ドラマのようで、そんな生ぬるいものではなかった

寂しいと言えば抱きしめてくれて、楽しいと言えば一緒に笑ってくれて。いつもどこかで見守ってくれていた。
貴方といられて、私は幸せ。なんだと思う。
きっとおそらく世間では、これを幸せというのだろう。そのくらいのことは、これまで生きていれば勘づいている。



本当は貴方とずっと一緒にいたかった。恋とか愛とかそういう感情じゃなくて、同じ時間を過ごすことがとても居心地がよかった。

でも。だから。



すこし空が白んできた頃、私は彼の部屋から出ていく。

貴方が誕生日にくれた時計は、ここに置いていこうと思う。
思い出だけは置いていけないから、大切に心の奥にしまっておくわ。
出会ったとき緊張しながら交換したLINEも、もう消してしまうね。
お揃いで買ったマグカップはとりあえず置いていくから好きにして。



本当に伝えたかった思いは、息に混ざって空に消えていった。吐いた息は白くて、いつの間にか季節が進んでいたことに気づく。
何かに躓いて思いがけず地面を見る。その時初めて、私は泣いていたことに気づいた。


すぐ目の前にあった貴方との幸せに怖気づいて、逃げたと思われてもいい。
ただ貴方には、ずっと笑っていてほしいから。何も言わず私のことを忘れて。存在をなかったことにして。



そしてもう一度、貴方の大切な人の前で笑ってみせて。



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