共通言語があることで多様なアートの楽しみ方が生まれるのかもしれない。
○が3つ、こんな感じで並んでいると「あ、ミッキーだ」って思う人、結構多いのではないでしょうか。(人にもよるとは思いますが)
隠れミッキーという概念がさまざまな国にあることを考えると、これを見てミッキーを思い浮かべる人が沢山いるのだろうと思います。
また、それは見方を変えると、ミッキーマウスというキャラクター自体が一種の共通言語として国を超えてシェアできるものになっているということですよね。
「ミッキーマウス展 THE TRUE ORIGINAL & BEYOND」に先日行ってきたのですが、ミッキーの共通言語的な側面、そして各々のアーティストによる表現やアートの楽しみ方について改めて考えさせられる展示だったので、備忘録的に今回思ったことを書いていこうと思います。
ミッキーマウスという共通言語
書道家 万美 さんのとても素敵な作品《ZEN Mickey》に印象的なキャプションがついていました。
世界のアイコンである彼自身を「共通言語」と認識することで、書道だと越えることが困難な「言葉の壁」を超える、新たな漢字が完成したように思います。(一部抜粋)
このミッキーマウスの「共通言語」的な側面が、この展覧会通して一貫して示されていたように感じました。
展覧会の構成は、ミッキーマウスの原点である『蒸気船ウィリー』関連の展示やファンタズミックの再表現を含む「原点=THE ORIGIN」、様々な現代アーティストのミッキーマウスにインスピレーションを得た作品で構成される「現代=THE TRUE ORIGINAL」、そして未来のミッキーマウスというテーマで制作された作品で構成される「未来=& BEYOND」という3部構成です。
その中でも、特に「現代=THE TRUE ORIGINAL」「未来=& BEYOND」のパートでは、様々なバックグラウンドをもつアーティストたちが、ミッキーマウスというキャラクターを通して、それぞれの解釈と表現を魅せるという要素が強い展示でした。
現代アートということもあり、まさに多種多様、中には難解とも感じる作品もありましたが、鑑賞する側にとってもミッキーマウスが共通言語となっているため、少し敷居の高い現代アートも自分ごと化しやすく、気軽に楽しめるような構成になっていると感じました。
このバックグラウンドや属性関係なく、アーティストと鑑賞者がミッキーマウスというユニバーサルな共通言語で繋がり、誰もが自分にとっての作品の解釈を発見し楽しむことができる様子は、まさに誰にでも開かれているアートの形のようでとても感銘を受けました。
この展覧会の中でも、私のお気に入りの作品をいくつかピックアップしてご紹介したいと思います。
お気に入り作品の紹介(個人的な感想)
Oliver Payne, “Untitled”, 2018
ディズニーランドにインスピレーションを受けたというこの作品は、テーマパークの写真を背景にミッキーマウスの絵がたくさん並んでいる作品です。
レトロでノスタルジックな雰囲気が素敵な作品ですが、パッと見たときの印象はアンディ・ウォーホルの《マリリン・モンロー》のように、ディズニーの大衆文化的な側面を示しているような印象を受けました。
一方で細かく観てみると、ミッキーの絵はコマ撮りのアニメーションの1枚1枚を切り出したように少しずつポーズが異なっており、アニメーションシーンを代表するキャラクターであるミッキーマウスへの強いリスペクトを感じました。
ちなみに個人的にこの絵がとても好みだったので絶対にポストカードや図版を買おうと思っていたのですが、そもそもグッズがなかったのが残念です。。。
Paul Felix, “The Promise Ahead” / “Pie-Eyed Wonder”, 2020
「未来=& BEYOND」のセクションで、未来への扉を開けるミッキーマウスを描いた2枚の作品です。
作者であるPaul Felix氏は、ミッキーの興味津々に扉を開ける姿とおそるおそる扉を開ける姿、どちらかには決められなかったので両方描いたとコメントを寄せていたのですが、このコメントがまあなんともわかりみが深かったので、そのコメントとセットでお気に入りの作品です。
私は彼の純粋で根っからの前向きな性格を愛しています。だからおそるおそる、でも楽しい冒険への期待感で、未来への扉を開いている彼の姿を描くのはとても自然なことでした。どちらかに決められなかったので、両方やってみたんです。(一部抜粋)
どこに共感ポイントがあったのかというと、ここに描かれたミッキーをみるだけで、ミッキーがここに切り出された一瞬の前にどんな動きをしていたのか、この一瞬の後、どんな表情をして動いていくのかが、観ている私にもとても自然にイメージができたという点です。
このアーティストの方とは、ミッキーとの関わり方もバックグラウンドも違いますが、この作品やコメントを通じてそのイメージが自然に流れ込んでくるという点に、展覧会を通じて感じていたミッキーマウスの共通言語的な側面をより一層強く感じました。
共通言語はアート体験をより楽しくする
今回でいうミッキーマウスのような共通言語は、自然にクリエイターや作品、鑑賞者との距離を縮め、多様なアートの楽しみ方を生む可能性があると今回の展覧会を通じて感じました。
これまではキリスト教をはじめとする宗教や、西洋圏を中心とする人々の文化がその共通言語的な役割を担っていたのかと思います。
ただ、現代では作り手も鑑賞者も多様化する中で、既存の共通言語が担い切れないユーザーも多いと思います。
そんな今だからこそ、今回のような、より多くの人にとって身近な、新しい共通言語をベースとしたアートの展示が増えていくと、アート自体がもっと身近なものになっていくきっかけになるのかなと思いました。
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