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第六話 あき

 

 

ゆきはある夜、ソファでだらりと倒れ込み、悩む様に言った。

「なんか、個展今のままじゃ物足りない気がする」

「何で? 良い作品ばかりだと思うよ」

「なんていうか、パンチが足りない。良いとは思うけれど普通かなぁ。って、思ってて。せっかくやるならもっと面白くしたいなぁ。自分ももっと楽しめる様な」

「君の作品はメッセージ性が強いから大丈夫だよ」

「……」

 

 

ゆきは少し沈黙した後、飛び起き、目を輝かせながら言った。

 

 

「そうだね! メッセージ! 大事だね!! あきもそう思うよね?」

 

あきは不思議な顔をしながら、ゆきの隣に座った。

「……? うん。そう思う」

「じゃあ、決まりね!」

「何が決まったの?」

「発表いたします! ジャジャンッ!……詩の掲載が決まりました!」

そう言って、ゆきは一人拍手した。

 

「詩?」

「うん! あきの書いた詩!」

その言葉に、思わず目を見開いてあきは驚いた。

「僕が描いた詩?!」

ゆきは、うんうんと頷いて、

「思ったの! メッセージも一緒に展示するの! あきと一緒に個展を開いたらすごく楽しそう!」

「僕は、詩なんて書かないよ。書いたことなんてない」

「でも、詩は好きで読むって前に言ってたじゃない!」

「読むのと書くのは全然別物だよ」

「でも、あきなら素敵な詩が書けると思うの! ねぇ、一緒にしようよ!」

「僕は……そんな個展に出すようなものを作れないよ」

「作れるよ! あきなら!」

ゆきは隣に座ったあきの腕を揺さぶりながら説得した。

 

「……」

「あきの作品と、私の作品が並んだらすごく素敵な空間になると思うの!」

尚も真剣な顔であきの腕を掴んでいた。

 

「良いものを書けなかったら? ……がっかりしない?」

あきの前向きな発言に、ゆきの顔は一気に明るくなった。

「がっかりなんてしないわ!」

 

 

ゆきがこうなったら食い下がらない事をあきは知っていた。

 

「じゃあ……試しに書いてみるから、展示するかどうかは君が決めて」

「わーい!! 嬉しい! 楽しみにしてるね!」

「あまり期待しないでよ。……どんなテーマで書いたらいい?」

「う〜ん。やっぱり恋愛ものじゃない? 愛は永遠のテーマだし!」

「……。分かった。でも、恋愛もの書けるかな」

「一緒に沢山恋愛ものの映画も観たじゃない。それでも参考にしてみたらどうかな?」

「……そうだね」

 

 

 

 

その日からあきは時間ができると、思いついた詩を紙に書き留める様にした。

 

 

 

いくつか書き溜めた詩の中から、一つを選んでゆきへと見せた。

 

 

 

 

 

 

 

『絵空事』

 

吸い込まれる 虚な瞳

 

味気ない 曖昧な返事

視線の合わない 君を見つめて

 

絡み合わない 事柄

ずっと眺めてる 横顔

視界に入らない いつもね

 

くだらない 絵空事

憧れるだけ 焦がれて

諦めて 笑うね

 

気づかない 変化に

いつものようにね

空回りに 投げかけ

 

悲しく 俯いた

手は 伸ばせない

くだらない 絵空事

 

 

 

本当は気付いてた

 

 

 

美しい瞳に

気取らない言葉に

高く見つめる 目標の先

 

引っ張り留めていた 君の腕

ずっと憧れてた 真剣な顔

邪魔はしたくない いつもね

 

くだらない やきもち

憧れていた はずなのに

拗ねていて 笑うね

 

気付いて欲しいだけ

ちょっとした変化に

髪を切ったよと投げかけ

 

似合うねと言って欲しい

手を繋ぎたい

邪魔はしないから 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆきは感動して、その詩を胸に当てた。

「すごく切ないけれど、素敵!」

あきは鼻を触りながら、いつもより小さな声で言った。

「……この間観た映画を参考に書いたよ」

「そうなんだ〜。あっ! すごく良いこと思いついた! この詩を展示スペースの最初に飾って、最後に空を描いた絵を飾るの。そうだ、そうしよう! ありがとう!」

「展示……するんだ」

「うん! またさらに想像が膨らんだ! ちょっと、絵が描きたくなってきちゃった! アトリエに行って来てもいい?」

「えっ? 今から? 今日は家でゆっくり映画観るんじゃなかったの?」

「こういうのは、湧き出た日に描くのが一番良いの! 今日は雨も降ってないし!」

「でも、今日は曇りだよ」

「大丈夫! もし雨が降り出したら帰るから!」

「そっか」

「……一緒に行く?」

「良いよ。邪魔になったら悪いし。僕は家で何か映画でも観てるよ」

「分かった。じゃあ、行ってくるね」

 

ゆきは出かける準備を始めた。

 

あきはソファに座り、少し俯いていた。

それから、

 

「……やっぱり、行っても良い? 僕は本でも読んでるから」

「もちろん! 嬉しい。一緒に行こう」

 

 

 

 

 


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