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腕時計の針はあえて修正しない


 まだスマートフォンなどなく、インターネットもこんなに発達していなかった時代。海外の空港に降りたって最初にすることは、腕時計を現地時間に合わせることだった。
 リューズをいじって針を進ませたり遅らせたり、あるいはデジタル時計の表示を修正したり。デジタル時計の中にはボタン一つで日本時間と現地時間の表示を切り替えられる便利ものがあり、あの頃の私には画期的で魅力的であり、それを手に入れた時は旅行に欠かせない相棒になった。

 今は現地に着き、インターネットに繋がった途端、スマートフォンやスマートウォッチは勝手に現地時間に切り替わる。
 便利な世の中。うっかり一時間間違えて修正したなんてトラブルはもう起きない。

 現在、私が愛用しているのは、ゼニスの自動巻き腕時計。長針と短針で時を現すアナログ時計だ。
 そして私は外国にいてもゼニスを現地時間に修正しない。左手首はずっと日本時間を刻んでいる。
 異国情緒漂う街を歩きながらふと左手首を見て、今頃は夜型作家の筆が進んでいるんだろうなとか、酒好き作家が相変わらず酩酊しているんだろうなとか想う。左手だけでも日本時間に繋がっていると、帰国してから時差を埋めるのが楽な気がするのだ。体内時計を戻す準備をずっとしているというか。
 規則正しい生活をしているわけではないので、あまりごたいそうなことは言えないけど……。

 腕時計を修正することから海外旅行が始まる時代は終わった。

 スマートフォンは一画面で数カ国の時間を同時表示できる。
 私は株取引をしているので、ニューヨーク時間は必須だ。それと次に行く国、行きたい国の時間。削除し忘れた行った国の時間。私のスマホは常時、五、六ヵ国の時間を表示している。

 スマートフォンは私に関わる多くの国の時を刻み、左手首の腕時計は頑なに日本の時だけを刻み続ける。
 きっとこれからも。

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