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老いての再会、触れて欲しくない話題はありますか?(小原信治)

衝動

 不倫の是非について話したかったわけじゃない。
 そもそもホン・サンス監督と「正しい日間違えた日」以降、彼の映画に出演し続けている俳優キム・ミニ氏の私生活における関係など観客のひとりであるぼくには無関係だ。なのにあえて二人の不倫という無粋な話題を持ち出したのは放送では言い足りていない理由がある。それは表現活動において〈衝動〉とは何かということについて鑑賞中ずっと考えていたからだ。劇中の主人公が創作者だからでもある。本作の主人公、執筆から遠ざかった小説家は〈衝動〉を失っている(ようにぼくには見えた)。そして、第一線から退いていたキム・ミニ演じる俳優に〈衝動〉を覚え「映画」を撮る。小説家として。いや、小説家であるにも関わらず。しかしながら主人公が紡ぎ出すのは小説ではなく映画でなければならなかった。なぜならそのシークエンスはホン・サンス監督がキム・ミニという俳優を〈衝動〉に映画を撮り続けていることとイコールだからだ。同時に不倫によるバッシングにより韓国では第一線から退かざるを得なくなった彼女を「君は俳優として表現者の衝動を駆り立てる魅力があるんだよ」と元気づけるためでもあるからだ(というのは観客のひとりに過ぎないぼくの憶測だ)。だからこそぼくはラジオであえて監督と俳優の不倫という無粋な話題を持ち出さなければならなかったのである。

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