老いて思いだすのは、いつのどんな夜ですか?(小原信治)
喪失感と目が合う夜
誰もがきっと喪失感を抱えて生きている。郵便配達のおじさんも、店先で世間話しているおばさんも、ぼくも、藤村くんも、そしてこれを読んで下さっているあなたも。それなりに長く人間をやっていると人は大切なものを失った哀しみをひとつやふたつは抱えている。底無し沼のようなその深い穴は何かに没頭することで忘れることはあっても、決して別の何かで埋めることはできない。たとえ同じ喪失感を抱えた者同士であっても。「×0」は「0」にしかならない。その間違いと痛みを若い時分に何度