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老いという第二の思春期どう乗り越える?(小原信治)

具体から抽象の時代へ

 ロシア南西部の辺境。乾いた風が吹きつける険しい山道を錆びた赤いバンが走っていく。車内には無愛想な目をした16歳の娘と寡黙な父親。移動映画館で野外上映をしながら北を目指す旅暮らし。2023年のカンヌ国際映画祭で上映された唯一のロシア映画「グレース」。辺境の停滞と不穏を背景に、思春期の不安を抱える少女の成長を追ったロードムービーである。

 必要最低限の会話しかない。父と娘がなぜ旅をしているのかについても説明的な台詞や描写は一切ない。物語の牽引力となるような事件も起こらない。錆びた赤いバンはただひたすらに荒涼とした大地を走り、父と娘の日常が淡々と紡がれていく。何度も「ぼくは何を見せられているんだろう」と広い荒野で置き去りにされたような気分になった。

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