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【PP】ももいろクローバーZ 6thアルバム『祝典』はコロナ終息を祝う式典? 考察&全曲レビュー【前編】

 というわけでですよ、先日、5/17に発売のももクロさんのニューアルバム『祝典』でございますけれども、発売から2週間ほど経って、モノノフの皆様はもうがっつり聞きこんでおられる頃でしょうかね。


 さて、僕といえば、「モノカキノフ」を自称するモノカキでありますけれども、ももクロさんのアルバムに関しては、四人のメンバーの歌声は言わずもがな、作りこまれたアルバムの世界観を紐解くのも毎回非常に楽しみにしておりましてですね。運営の「大人たち」が練り上げた世界観、込めたメッセージは、ストーリーもしっかりしていて面白いんですよね。はっきりと打ち出されたアルバムコンセプトのもとに、先行のシングルをうまく取り込み、きちっとストーリーを作って一枚の物語に仕上げるところは、小説家としてもとても勉強になるなあと思います。今回特に、タイアップがついた曲が多かったので、それぞれ異なる世界観もあって、まとめるのは大変だったんじゃないですかね。

 というわけで、今回も仕事そっちのけで全曲レビューなどしつつ、アルバムの構成やメッセージなんかについて考察してみようと思います。あくまでも個人的な解釈で、正解はこれだ、みたいなことを言うつもりもないですし、前回同様、インタビューとか他の方の解釈をなるべく入れないようにしているので若干深読みし過ぎの部分もあると思います。なので、力を抜いて、お酒でも飲みながら暇つぶし程度にさらっと読んでいただければ幸いでございます。また、全曲レビューなんて大仰に言ってますけども、僕は音楽理論みたいな話はからっきしなので、どちらかというとストーリー構成のお話になるかなと思います。あ、ちゃんと仕事はしています(私信)。

 ではいってみましょー。

■6th『祝典』について

 前回、5thアルバム『MOMOIRO CLOVER Z』では、グループの無印時代から「The Diamond Four(TDF)」となるに至るまでの過程を、「SHOW」になぞらえて表現するものだったと思います。おいおい、もうこれ三年前かい。ほんとかい。怖い。

 で、今回のアルバム『祝典』は、まさにアルバム名の通り、メンバーとモノノフさんたちによる祝いのセレモニーをテーマに、式次第に従って楽曲が展開していく、という構成になっております。全体的には、結婚式とか記念行事みたいなものというよりは、同じ神を信仰する4人の司祭と信徒たちの儀式、みたいなイメージを持ちました。さながら、MCZ教団という感じでしょうか。

 では、この『祝典』は、なにを祝う式典なのでしょうか?というのが今回のアルバムの考察ポイントかなと思います。発売日の2022年5月17日は、グループの結成14周年のアニバーサリーということで、まずは、14周年、そして15年目突入というのが、一つの「祝い事」であることは間違いないですが、どうやらそれだけではないようですね。

■今回のアルバム構成

 収録曲は、全17曲(14曲+おまけ3曲)。全体的には、トラック01~08までの8曲が第一幕、09をはさみ、10~17までの8曲が第二幕、という二部構成になっておりまして、こういう構成の作り込みは毎度お得意な感じがしますね。

 アルバムのコンセプトが「式のプログラム」であることは発売前から公式でアナウンスされておりましたし、どうやら裏設定として式次第がちゃんとつくられていて、公式の「正解」があるようですけれども、ここは僕なりに、この祝典のプログラムがどんなものか、を考えてみました。

【祝典-式次第-】
◆開場、入場
  01. Opening Ceremony -阿-
◆信徒による祈り(回心)
  02. PLAY!
◆司祭の入場
  03. ダンシングタンク♡
◆祝典の開催宣言
  04. MYSTERION
◆酒宴の開始
  05. 満漢全席
◆余興①(ゲーム)
  06. BUTTOBI!
◆余興②(歌と踊り)
  07. ショービズ
◆中締め
  08. HAND
◆休憩時間
  09. Intermission -闍-
◆信仰宣言(クレド)
  10. momo
◆憐みの賛歌(キリエ)
  11. なんとなく最低な日々
◆栄光の賛歌(グロリア)
  12. stay gold
◆燭火礼拝
  13. 月色Chainon ももいろクローバーZ ver.
◆讃美歌合唱
  14. 孤独の中で鳴るBeatっ!
◆懺悔聴聞
  15. 手紙
◆閉会の挨拶
  16. また逢う日まで
◆退場
  17. Closing Session -梨-

 ということで、前半が食えや歌えやの祝宴、そして後半が厳かな式典、という構成になっているかな、という感じですね。僕の個人的な印象では、後半部はカトリックのミサがベースになっているんじゃないかなあ、と思いました。違うかな。今回のストーリーの特徴としては、前作ではショーを行うエンターテイナーという立場だった4人が、よりくっきりと「司祭」ないし「巫女」という一段上の存在になったところかなと思います。

 四人の司祭たちは、祝典の中でなにを伝えようとしていたのでしょう。以降、アルバムの一曲一曲を見て行こうと思いますので、ご覧になったみなさんそれぞれプログラムを考えてみると面白いんじゃないかなと思います。

■01 Opening Ceremony -阿-

 1曲目は、歌の入らないインストゥルメンタル。今回のアルバムのプロローグですね。ミサで歌われるような荘厳な合唱と、アラビア音楽っぽい発声、インドの蛇使いの笛のようなオリエンタルな旋律、そして民族音楽的でプリミティブなドラムの組み合わせが、なんとも不思議な世界観を醸し出していて、めちゃくちゃかっこよく仕上がっています。

 世界中の民族の音楽のエッセンスを、最小の音数でぎゅっとひとつに集約したように曲が構成されているのは、世界は一つ、多様性を認めよう、という、教団のスタンスを端的に表しているのかもしれません。老若男女、人種民族関係なく、みんな仲良く愛を持って楽しもう、という「肯定」が教団の教えなのでしょう。

 祝典に参加する信徒たちは、この音楽に包まれた、神域、神殿に集います。エジプトの神殿か、ヴァルハラの門か。もしくは、西武ドームか、さいたまスーパーアリーナか。神殿を前に、胸の高鳴りを覚える信徒たちの姿が目に浮かびますね。

 余談ですが、合唱パートの歌詞がさすがに聞き取れなかったんですけど、みなさんはどうでしょうかね。僕は「あーりんそいやー」にしか聞こえなくなりましたが。サンプリングの元ネタとかわかる方いらっしゃいましたら教えてください。

■02 PLAY!

 2曲目、「PLAY!」は、コロナ禍の最中、密回避のために多くのイベントが中止となり、エンターテンメント業界が深刻なメージを受けていた2020年冬に行われた同名のオンラインライブのリードソング。ロケーションをフルに使って次々場面を切り替えていく演出は、同年夏の配信ライブ「夏のバカ騒ぎ2020」のノウハウをもとに、さらに発展させたような感じになっておりましたね。

 当時、多くのアーティストが、オンラインで音楽を届ける方法を模索していたと思うのですが、ももクロのライブの魅力はやはり、ステージ上のメンバーとファンとの双方向性にあるわけで、ただ映像を届けるだけでは魅力が半減してしまう、というところが悩みどころだったかもしれません。そこで、配信ライブ「PLAY!」は、視聴者がスマホを通し、リアルタイムでコールや応援をすることができるという、非常に実験的な双方向性オンラインライブとなっていました。常識やセオリーを越えて前向きにチャレンジしようという運営側の姿勢は、毎回すごいなと思います。

 コロナで引き裂かれたアーティストとファンの間の距離。最大の売りであるライブができなくなり、直接の交流の場を失ってしまった苦悩。それでもどんな状況でも楽しんで行こう、というポジティブなメッセージが、ミュージカルテイストの軽快な曲に乗って伝わってきます。たとえ空間の隔たりがあっても「ボーダーレス」につながることができるよ、というテーマは、ポジティブではありながらも、ある種、早く真にボーダーレスな世界に戻ってほしいという「祈り」でもあったのではないでしょうか。だからきっと、サビのフレーズの綴りが、「PRAY  PLAY PLACE」になったんじゃないかなあと思います。

 さて、式次第においては、ここはカトリックのミサで言う「回心」に当たるのかなと思いました。回心というと、罪人が罪を悔い改めることを指す言葉ではありますけれども、カトリックにおいては、式典に入る前に信徒たちが信仰心を再確認するべく祈りを捧げるパートを指すようです。
 MCZ教団において、ファン=罪人というわけではないでしょうが、ライブという神事からしばらく遠ざかり、救いなき俗世に散らばっていた信徒たちは、祝典の開催に際してその信仰心を再確認する必要があるのかもしれません。ようやく訪れた「次なる世界」を前に、再び彼の地に集うことができた喜びを噛みしめ、皆で「祈り(PRAY)」を捧げるのでしょう。

■03 ダンシングタンク♡

 3曲目は、アルバム恒例となりつつある自己紹介ソング。いよいよ、祝典の開始を待ちわびる信者たちの前に、教団を統べる四人の司祭が登場します。前作5thの自己紹介ロック「あんた飛ばしすぎ!!」に引き続き、GARLICBOYSの同名曲のカバーですね。原曲を知ってる方は、「あんとば」がカバーされた時点で、遅かれ早かれこの曲もカバーされるんじゃないか、と思っていたのではないでしょうか。

 曲は、軽快でビバロックなミクスチャーパンク、という感じでしょうか。ライブだったらテンポアップしてやってくれるとグルーヴが出てかっこいい気がしますけど、イヤモニつけるようなライブだと難しいでしょうし、ホールツアーだと生バンド連れていけないと思うので、今年の夏フェスで暴れてくれるといいですね。

 特筆すべきは、今回、ももクロ版にアレンジされた自己紹介の歌詞。原曲では、ライブ最前列にいがちな「ダンシングタンク」をがっつりいじるような、(近年の価値観ではかなり際どい)内容になっておりましたが、改変されたももクロ版は、なんとも自信に満ち溢れた、自意識過剰なまでの上から目線の自己紹介になっています。なにしろ、リーダーはついに「太陽」を自称してしまいました。

 今までは、「スターダストのダスト組」「歌は苦手」など、謙虚を通り越して卑下という感じの発言が多かった彼女たちですが、もうアイドル界では大ベテランと言っていいポジションに達し、他の追随を許さない個々の経験値もあいまって、「もっと自分を誇っていいんだよ」という周囲の大人たちの想いがあったのかもなあ、と思います。

 そして、この「自己肯定」こそ、今回のアルバムの通奏低音となっているように思います。

■04 MYSTERION

 4曲目、今アルバムのリード曲であり、かつ教団のアンセムとなる「MYSTERION」。「祝祭の始まりだ」というワードとともに、ついに祝典が始まります。MYSTERIONは、「密儀、秘儀」という意味で、信徒以外には明かされない秘密の儀式や教義を意味する言葉ですね。僕のような小説家にはおなじみの「ミステリー」と同根の言葉です。

 曲はクールな無国籍ダンスチューン。これまでの楽曲は、全力感、必死感が伝わるように高いキーの楽曲が多かったのですが、「MYSTERION」では、四人それぞれの低音ボイスが非常に印象的です。同じように壮大な世界観を持った「NEO STARGATE」や「GOUNN」と比較しても、コーラスやベースも含め、低音域の音が特に際立っているように思いました。メロのアップダウンも激しいですし、結構ソリッドに声を出さないといけないところが多くて、歌いこなすのは難しかったんじゃないかなあ、と思います。

 歌詞は、コロナ禍の痛みからの再生が強く表現されているように感じます。絆を断ち切られた人々が、孤独という絶対の奈落に落ちる寸前で辿り着いた「カテドラル(大聖堂)」。個々の人々が心の中に宿した神の居場所、最後の拠り所、というイメージなのでしょうか。キリスト教において、「カテドラル」は司教さまがいる場所なので、今回のアルバムで、メンバーを司教と例えるなら、四人のいるライブ会場こそが、信徒たちの「カテドラル」という解釈もできるかもしれないですね。

 見えないウィルスの蔓延によって、ある日突然、いとも簡単に変わってしまった彼女たちとモノノフさんたちの世界。苦しみの中でも、強い意志を持って彼女たちは笑みを浮かべ、前に進み、信徒たちに誓います(This is a pledge)。「どんな自分でも嫌いになりはしない」。やはり「自己肯定」が今作のテーマであるようです。

■05 満漢全席

 厳かな開会宣言から始まった祝典ですが、まずはまあ、お腹を満たさないことには話が始まらないとばかり、いきなり宴会になるのが、なんともももクロらしいところ。山海の珍味を取りそろえた酒宴「満漢全席」が始まります。ちなみに、「満漢」とは、満州族と漢民族のこと。満州族の王朝である清朝の時代に、中国中の珍味を集め、数日かけて食す絢爛豪華な王宮料理として成立したものですね。結構ね、使われている食材がトリッキーで、サルの脳とか象の鼻とかあるんですよね。どんな味がするんだろうか。

 余談はさておき、曲調は「MYSTERION」から一転して、ヒップホップなももクロ流のパーティチューンになっております。曲提供がね、餓鬼レンジャーのみなさんということで、某曲のようなエグめの下ネタをぶっこんでこないかという一抹の不安もあったのですが、多幸感のあるポップになっていてよかったですね。

 詞の内容を要約すれば、「美味いもん食って飲んで騒ごうぜ!」なんですけれど、これまでのように、おいしいもの食べて幸せ!と無邪気に喜ぶ感じとは違って、いろいろ嫌なことあったけど、仲間たちと酒飲んで忘れようぜ!という、ちょっと大人な「酒席」の描写になっています。二十代後半ともなると、社会にもまれて現実の壁にぶつかり、嫌なことを酒で流すようになる頃かもしれないですね。また、お酒の席、飲み会、というモチーフは、コロナ禍において、エンタメ業界とともにかなり制限された飲食業界を想起させます。つまり、酒飲んで騒ぐ=コロナの終焉というメタファーになっているんじゃないかなと思いました。

 そして、前述の「自己肯定」につながる部分でもあるのですが、今回のアルバムのもう一つテーマは、これまでに自分が「積み上げてきたもの」への自信と信頼(信仰)ではないかなと思います。「歩んだ道きっとDestiny~」というリリックに、それが表れている気がしますね。

 あと、もう一つ超余談ですが、「円卓回転」と歌われている中華料理屋さんのあの円卓、実は日本発祥なんですよね。

■06 BUTTOBI!

 酒席には、じゃんけんゲームだったりビンゴだったり、みんなで楽しむゲームはつきもの。ということで、6曲目は日本を代表するコンピューターボードゲームであり、僕ら世代の子供たちの友情を完膚なきまでに破壊してきた「桃太郎電鉄」最新作の、ゲーム内コラボのテーマソング「BUTTOBI!」が。作詞・作曲は、同ゲームの音楽も担当している、おなじみ前山田氏。

 曲調は、モノノフのみなさんなら聞き馴染みがあるであろう、ファンキーなデジタルポップチューン。曲中にセリフの掛け合いをちりばめるトリッキーな展開から王道メロディアスなサビ、ちょっとぐっとくる落とし、と、ヒャダイン節全開の楽曲になっていると思います。歌詞は桃鉄あるあるが満載ですし、「ぶっとびカード」をつかってぶっ飛ばされた先が、玉井さんゆかりの種子島、という小ネタもさすがです。

 でも、そんな遊び心の合間合間に、やはりコロナ禍を思わせるフレーズが挟み込まれていて、どれだけどん底に落ちても大逆転のチャンスが用意されている「桃鉄」になぞらえて、きっとまた全国のファンに会いに行けるようになる、という希望を歌っています。この曲は当初、2021年冬にアルバムリリースされることを想定して制作されたのだろうと思いますし、アルバムツアーも企画されていて、もうすぐ会いに行けるよ、というメッセージを込めたものだったんじゃないかなと思います。約半年の延期を経て、2022年になってようやく現実となり、四色の電車は全国ホールツアーを敢行中ですね。

 イントロの警笛のSEは、桃鉄をやったことのある人はおなじみの音だとおもうんですが、今の世代の子供たちって、あの音が何の音かわかるんですかね、、、? というか、そういえば「電鉄」のはずなのに走ってるの汽車じゃん、という矛盾に今さら気づいてしまいましたが。

■07 ショービズ

 7曲目は、ミドルテンポのしっとりとしたカフェハウスミュージックっぽい楽曲、「ショービズ」。酒宴の席では、音楽に合わせて歌と踊りが披露されるのが定番ですが、それこそがショービジネスの原点でもありますね。

 心音よりやや早めのBPMで四つ打ちするリズムは、静かなどきどき感。あなたの存在こそが私の存在価値、という意味合いの歌詞は、ケンカでもして、恋人と少し距離が生じてしまったもどかしい気持ち、でも悪いことも糧にしてよりいい関係にしようという前向きな気持ちを、コロナ禍で直接的な交流が途絶えてしまったエンターテイナーとファンの関係になぞらえて、ドラマチックに表現しています。
 本来なら、この「ショービズ」という題材は恋愛のメタファーとして解釈するのが正攻法な気がしますが、比喩表現をそのまま直接の表現としても捉えることができて、聞く人によってどちらにも解釈できるようになっていると思います。特に、「汗と涙あふれたあの日の気持ちが~」というくだりは、モノノフさんにとって感慨深い過去を想起させるものでしょう。

 詞を直接的に解釈すれば、この曲もまた、コロナ禍がエンタメ業界に与えた苦難が根っこにあって、ファンと触れ合うことができなくなったエンターテイナーの不安や苦悩が歌われていると思います。「みんなで集まることさえもFantastic」「二度とない 今しかない」といった歌詞から、ショービズという世界の不安定さ、そして刹那感が伝わってきますね。アイドル界隈で「推しは推せる時に推せ」という言葉がある通り、すべてのエンターテイナーはいつまでも永遠に存在できるという保証などどこにもなく、世界の変化の前でも脆弱です。エンタメは平和で豊かな世の中でこそ求められるもので、ファンの存在がなければ存続することができないからです。

 でも、推してくれるファンがいるなら、そしてその人たちの笑顔がそこにあるのなら、一人の人間としての弱さ、不安を乗り越えて、ステージに立って未来を観よう、という決意。そして、そんな自分に「最高の賛辞」を送ろうという自己肯定。もちろん、これは彼女たちだけの話ではなく、人それぞれに自分の立つべきステージがあって、そこには自分を求めてくれる人がいるはず、ということも歌っているのでしょう。

 この楽曲も、コロナ禍からの再出発、これまでの積み重ねへの信仰と自己肯定、という今回のアルバムのテーマを、視点や曲調を変えて丁寧に表現したものであるように思います。

■08 HAND

 さて、宴もたけなわ、前半の宴席フェーズを締めくくる8曲目は、「HAND」。ここで一旦楽しい宴は終了ということで、みんなのお手を拝借して一本締め、という感じでしょうか。イメージキャラクターを務める「太田漢方胃腸薬Ⅱ」のタイアップソングということで、「満漢全席」で思うさま飲み食いした後は胃腸を労わりましょうね、という、スポンサーサイドからのメッセージも込められているかもしれませんね。

 曲調は、タイトルに寄せたのか、ハンドクラップと鍵盤の伴奏から始まるゆったりしたテンポのヒップホップをフィーチャーしたR&B。Bメロの伸びやかなボーカルがとても心地よいですね。

 歌詞は、ストレスフルな日常を送って自分らしさを忘れかけてしまっている人に、誰かを頼っていいんだよ、一人じゃないんだよ、と手を差し伸べるようなイメージになっています。この曲もやはり、コロナ禍で寸断されてしまった人と人の絆の大切さを再確認することがテーマなんですよね。SNS上のバーチャルな繋がりだけでは癒しようのない孤独感は、やはり人と人との繋がり、手と手が触れ合うような実感が必要なのかもしれません。「孤独」というキーワードも、今回のアルバムで頻出しているように思いますね。

 1st「バトルアンドロマンス」は、2011年、震災後の沈んだ日本を真っ向から元気いっぱい勇気づけるようなアルバムでしたが、あれから十余年が過ぎ、大人になった彼女たちのアイドルとしての形、エールの方式も変化して、そっと背中を押したり、手を引いてくれたりするような立場になってきました。14年の活動の中で幾多の苦難や困難を乗り越えてきたからこそ、人の痛みや苦悩に寄り添って、わかるよその気持ち、一緒に頑張ろう、と、穏やかに勇気づけることができるようになったのかもしれませんね。

 そういえば、ライブ会場という空間で、ステージ上にいる演者に対し、観客側が送る気持ちやレスポンスの象徴が、「」だったりするのかなあ、なんて思いました。ここまで、「満漢全席」「BUTTOBI!」「ショービズ」と、みんなで集まって楽しんでいる中、自然と湧き上がる拍手だったり、手を振るモーション、突き上げるこぶし、ケチャったり、フリコピしたり、ペンラ振ったり。そういうたくさんの「手」があらわす感情が、コロナの終焉を意味するのかもしれません。

 オープニングからここまでの楽曲で歌われてきたのは、コロナ禍によって分断されてしまった教団と信徒たちの絆の再確認。「HAND」は、ストレスフルな社会へのエールであると同時に、モノノフさんから彼女たちへのエールでもあるのでしょう。無数の手が奏でる手締めの音の中、『祝典』の第一幕は幕を下ろします。

■09 Intermission -闍-

 9曲目は、再び歌のないインスト。「intermission」は小休止、幕間、休憩などを意味する言葉ですから、そのまま、中休みのイメージですね。急いでトイレや一服を済ませましょう。

 サブタイトル「闍(じゃ)」は、仏教語の元になっているサンスクリット(梵語)の音写(意味は関係なく、音だけを別言語で書き写すこと)に使われる文字ですが、漢語(漢字)としては「城壁に囲まれた町」を意味するらしく、この一字で、神域(ライブ会場)の中に信徒たちが集った光景を表現しているのかもしれないですね。そして、冒頭の「阿」に続き、最終的には一つの言葉を形作るのですが、それはまた後程。

 壮大な「Opening Ceremony -阿-」とは打って変わって、ピアノコードが淡々とリズムを刻み、ウッドベースがゆらゆらとしたうねりを作るような穏やかな曲調。午後のひととき、コーヒーでも飲んで一息つくようなイメージでしょうか。祝典はここから夕方、そして夜の時間へと向かっていきます。


 ということで、6thアルバム『祝典』の全曲レビュー前半をお送りしてまいりましたけれども、やっぱりあれかあ。前後編になってしまい……。もっとさらっと終わらせるつもりだったのに……。

 まあ、しょうがないですけれども。

 前半部を通して感じたのは、今回のアルバムの特殊性。

 『祝典』では、ここまで、曲調やモチーフが変わっても、ずっと同じテーマを繰り返し歌っているように思います。コロナ禍による絆の分断、それによる個々の孤立、孤独感。コロナ禍を乗り越えて再び集う喜び、一人じゃないよ、というメッセージ。そして、これまで積み上げてきたものは嘘をつかない、今の自分を信じよう、という自己肯定。曲により配分は違いますけど、概ね、このテーマに沿って全曲作られているように思います。この流れは、後半も続いていくのですよね。

 異なるテーマの曲を曲順通りに聞いていくと、最終的に一つのコンセプトアルバムになる、という構造はわりとよくあると思うんですけど、ある一つのコンセプトを形作りながら、かつ全曲が同じテーマで作られている、というアルバムって、あんまり見たことがないですね。それだけ、今回のテーマは、制作側が強く表現したかったこと、伝えたかったことなのかな、と思いました。

 さて、ここまででようやく半分。また、仕事の合間をみつつ、後半部も自己満足丸出しで考察していこうかなと思います。お付き合いいただける方おりましたら、また後半もお楽しみに。

 後半はこちら!

小説家。2012年「名も無き世界のエンドロール」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。仙台出身。ちくちくと小説を書いております。■お仕事のご依頼などこちら→ loudspirits-offer@yahoo.co.jp