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学校における『働き方改革』について

令和5年8月29日、中教審から学校における働き方改革に係る緊急提言が
なされました。
長時間勤務の状態を緩和し、過労などによる健康被害を減らすために
「働き方改革」を提言していると思うんですが、
私にはこの名称があまりしっくりしません。

この働き方改革では
学校業務の量が減らない状態で、
勤務時間だけを減らすことになるため

「みんなでうまく手を抜きましょう」

と指示されているようにしか思えないからです。

次は私が教員だった頃のある1日の働き方です。

①6:30勤務開始、授業準備など
②7:30部活動の朝練指導
③8:15朝の打ち合わせ
④8:30朝学活
⑤授業6コマ中5コマ(空き時間1コマ)
 ※空き時間1コマ(50分)
  提出物のチェック、授業準備、担当している校務の計画や準備など
 ※10分の休み時間や昼休み
  生徒観察&生徒とのコミュニケーションのため教室を巡回
  (問題の早期発見、早期対応のため)
 ※給食指導
⑥15:15清掃指導
⑦15:30終学活
⑧放課後、部活指導 
 ※夏18:30頃、冬17:30~18:00頃、終了
⑨部活指導終了後、授業準備、担当している校務の計画や準備など
⑩20:00~20:30頃、退勤

緊急に生徒間のトラブルが発覚すれば、
⑧は部活指導ではなく、生徒指導に変わります。

注意:①⑨の時間帯での勤務は、私自身が行いたいと思って自主的にして
   いるものであり、他の教員に勧めるようなことはしておりません。

以上がある日の私の勤務状態でした。
これに対し、働き方改革の目的に合わせ、勤務時間を削減するのであれば、授業はカットできないので

①勤務開始時間の改善
②部活動の朝練習の廃止
⑧部活動の実施時間を削減
⑩勤務終了時間の改善

が考えられます。

確かに、朝練を廃止し、勤務開始を8:00頃に設定すれば、
1時間30分ほど削減することができます。

では、朝に行っていた授業準備の時間はどこで確保すれいいかというと
部活終了後の⑨の時間帯しかありません。
しかし、中教審が提言する
限られた時間の中で最大限の効果を上げられるような働き方
をするためには、
⑨の時間帯に業務を追加すれば意味がなくなってしまいます。

つまり、削れる部分は準備の部分しかなく、
時間がきたら仕事が途中でも強制的に終了して
退勤するしか方法はないということです。

実際、管理職に勤務時間終了後、
一斉に退勤する日を決められ、帰宅せざるを得ない日ができました。

そうすると結果、
準備の時間が足りないため授業のクオリティー下がってしまいます。
自分の授業力を十全に発揮しないまま、
生徒に教育を提供することになったとしても
問題にならないのであればいいんですが、
生徒たちに提供できる授業があるのに
それを実施しないという選択は私にはなかったため、
私は退職するまで、この勤務状況を改善することはありませんでした。
(一斉に退勤する日を除いてですが…)

そもそも教員として行うべき

業務数をそのままにして、時間だけを削減する

という方法では根本的な解決になりません。

その状況で、長時間勤務になっているのは、
本人の働く意識の問題だといわれると
心外だと感じる教職員は多いと思います。

別に私も長時間勤務したいと思って、
前述のような働き方をしているのではありません。

勤務時間中に準備する時間がないから、勤務時間外で仕方なく補っている

だけであるという現実を文科省や中教審が理解しているのか、
甚だ疑問です。

限られた時間の中で最大限の効果を上げられるようにするには、
単純に働く時間を削減するのではなく、

・業務内容の削減
・学校の教員数の増員

の2つが必要です。

もし、今ある10の業務内容が半分の5に減らすことができれば、
単純に時間も半分に削減することができ、
クオリティーを下げることなく労働時間を抑えることができるはずです。

私の独断と偏見ですが、削減する候補として

・プログラミング学習
・総合的な学習
・文科省からの突然の通達
・毎年行っていても、なんの効果もない調査と報告
・研修
・授業研究大会
・職業体験学習などの行事の精選

などがあげられます。

プログラミング学習の場合、教師自身が学習していない内容であるため、
教えるレベルまでの知識・技能を習得する時間が必要になります。
中にはプログラミングを得意とする教員がいるかもしれませんが、
ほとんどが付け焼き刃の状態になるため、
成果を期待することに無理があります。

世界の流れについていくためには
プログラミング学習が必要であると考えてのことかもしれませんが、
プログラミング学習を公教育で行えば
世界に通用する人材を育成できるという根拠にはなりません。

国際社会を生き抜くために英語教育が必要だといわれて
久しいことからもわかるでしょう。

学校の業務内容は、
社会の流れにそって新しい内容をどんどん積み重ねてきましたが、
それまでの業務を削減するという作業をあまり実施してこなかったため、
蓄積ばかりしているのが現状です。

今までやってきたことを削除すると、
一部から批判の声があがるため踏み切りにくいというのも原因なのかもしれません。
学校自体も
「今までやってきたから実施する」
という考え方が根強いため、
一気に学校業務が削減されるということは今後もないような気がします。

そこで、2つ目の方法。
1つの学校における教員数を増加すれば、学校業務を削減させずとも
一人当たりの仕事量が減少するので
勤務時間の改善につながると考えられます。

たとえば、前述⑤の私が担当している授業時数が、
教員数増加によって「6コマ 中 5コマ」から「3コマ」に削減されれば、
日中に3コマの空き時間(150分)ができ、
別の業務をこなすことができます。
また、担当する校務分掌も減るので、さらに業務が軽減できるでしょう。

かなり大きな改善ができると思いますが、
恐らく人件費の増加を渋る財務省は肯かないでしょうし、
教員志望の学生数が減少しているため、
人員を増やすこと自体が難航すると思われます。

・業務内容の削減
・学校の教員数の増員

この2つの方法が解決の近道ですが、
文科省が覚悟をもって断行しなければ改善の糸口はつかめません。

しかも、働き方改革というのは、

教員本人が働き方を改革する

という意味になるので、
改善は学校現場や教員本人次第となり、
行政の責任は見えにくい表現になっています。

本来ならば、行政が責任をもつ意志が感じられる

働く「環境」改革

でなければならないはずですが、あまり期待できそうにありません。
問題は働き方にあるのではなく、教育を行う環境、システムにあります。

このままでは教員は、
生徒、保護者からは、質の高い教育サービスの提供を求められ、
行政からは勤務時間を削減するよう指導されるという
板挟み状態になってしまいます。

日本の教育のために、働き方改革ではなく、
働く環境改革が進められることを切に願います。

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