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「おぱらばん」堀江敏幸

かなり久しぶりの再読です。
ストーリーに流れる上品な静謐感を楽しみたくて手にしました。

ページを開いた時、まだこの感触を忘れていなかったと気づき、とても嬉しかったです。
何しろ、最初に読んだのは二十数年前のことなのですから。

表題作「おぱらばん」とはフランス語のAUPARAVANT(日本語では「以前」という意味)のことです。

フランス文学研究者でもある著者によるフランスや他国々における出来事(事実だとは限らない)をエッセイ風に表現した短編が15編入っています。

エッセイ風の短編とは、なかなか面白い表現方法でした。
どんな作りかというと、短編に海外の文芸作品を取り上げ、そのあらすじが短編中に記されており、短編の本筋にその文芸作品の内容が絡んでいく、というものです(全ての短編がそうだというわけではないですが)。

取り上げられている海外の文芸作品が純文学である場合、気持ちがそそられるのですが、それ以外の作品の場合、特に後半の短編あたりから、本筋との絡みにひねりが弱くなって来たことや、短編の本筋自体が雑事的で今ひとつとなっていました。
いわゆるネタ切れというべきなのでしょうか?

しかし、文章が素晴らしい。この世にたくさんの小説があり、さまざまな文章がありますが、それぞれに個性というグラデーションが見られます。堀江作品には、初秋の雨のような落ち着き感があります。

短編中、河馬の絵葉書を集める人の話がありました(「留守番電話の詩人」)。
本筋が興味深いし、あらすじの書かれている作品もとても面白そうでした。
その作品さえ読んでみたいとすら思いました。

読後、僕が散歩していたら、公園に河馬(の置き物)があったので撮影しました。
もちろん絵葉書にはならないですけども。


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