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レモンの話 イタリアではレモンはただ

シチリア島の州都、パレルモからの発信。 ボンジョルノ。

シチリアといえば柑橘類が有名。 日本でもシチリア産のブラッドオレンジジュースが定着しているかと思います。 元々シチリアにあったのかというとそうではなく、9世紀にアラブ人がシチリアに持ち込んだ物です。 彼らが柑橘類、ヤシの木、砂糖、香辛料などなど色々と持ってきてくれて、シチリアは潤いました。

フィレンツェに住んでいた頃、レモンを買ってもすぐに冷蔵庫へ入れないと3日もすれば元気がなくなる、もしくはカビが生えてきました。 日本にいた頃からそうですが、「レモンは必ず冷蔵庫で保存する物」と信じていました。 当然ですよね?

ところがここシチリアでは大きく異なります。 近所を散歩していても、あちこちにレモンの木が存在していて、誰も収穫しないのか地面にゴロゴロ落ちていたり。 我が家にもレモンの木があり、重宝しています。

私はレモン大好き人間で、調理に使うのはもちろんですが、調子が悪い時にレモン水に随分と助けられてきました。 胃腸の調子がいまひとつ、二日酔い、大体レモンで治ります、復活します。 超便利品です。

シチリアはレモンの収穫が年に3回あると言われていて、その為花と実が同時になります。 なんとも不思議な光景、楽しいですよ。 そして常に新鮮なレモンが手に入るのです。 八百屋でも冷蔵庫で保管していない、新鮮な物が手に入るので、日持ちが良い! そしてシチリア人、冷蔵庫には入れません。 入れる必要がないのです。 2週間でも元気でいてくれます。 さすがに夏場は水分が抜けてくる感じはありますが、それでも冷蔵庫には入れません。 

そして豊富にある為、皆んなあまり有り難みを感じていないようで、切ってちょこっと絞って、まだまだ汁がたっぷりあるのにすぐに捨ててしまう・・・。 BBQの網を掃除するのもレモンの役割。 熱した網に半分に切ったレモンをゴシゴシとこすりつけて、消毒します。 見事に汚れが落ちます。 最初にこの光景を見た時はびっくりしましたねぇ、なんともったいない事をするのだろうと。 言葉を失う。

私はというと、まだ使用価値のあるレモンを捨てる事はできず、家ではラップに包んで冷蔵庫に保管しています。 当然でしょう。 

随分前のある日、どなたかのブログで「居酒屋でシシャモにレモンをかけたかったので、注文した。そうしたら小皿に輪切りのレモンが5枚、大体これでは絞れないじゃないか」。 「会計の時レシートをチェックしたら、あの薄切りレモンに380円という値段が付いていた。幾ら何でも高すぎる、この店にはもう行かない・・・」というような事が書いてありました。 へー、これは流石に暴利だわと思って相方に話をすると、「???」と言う感じ。なので日本ではレモンにお金を払うのだと説明しました。 そうしたら「あーそうか、今分かった。 どうして君が使ったレモンを冷蔵庫にしまっていたのか、ずっと不思議だったんだよね」と。 すでに一緒に暮らして10年近く経っていたので、その間彼はずっと不思議に思っていたらしいです。

シチリアだけではなく、イタリアではレモンはただです。 レストランで魚料理についてくるレモン、もっと欲しいと思ったらどんどん頼みましょう。お金を取られることはありません。 暑い夏の日、私達はレストランでお水を注文する時に、レモンも頼む事が多いです。 くし切りのレモンを絞ってレモン水にすると、喉の乾きが一気に引いていくから。 そしてそれも無料です。 なんて良い国!

ある年猛暑で庭のレモンがあまり育たたない年がありました。 仕方がないので八百屋で購入していたのです。 そんなある日、夕方スーパーに行ったら偶然友人と遭遇。 しばし立ち話をして、お互いに買い物を続けたのですが私が「忘れずにレモンを買わなきゃね」と言ったのを聞いた彼女は「レモンを買う? 何言っているの、うちに取りに来て」と。 彼女の家はそのスーパーのほぼ真向かいで、庭にレモンの木が何十本もあるのです。 何十本どころではないですね、多分100本以上。 元々レモン畑だった所に家を建てたのですが、土地が広すぎてほとんどのレモン畑はそのまま残っているのです。 「次回ね、今日は買うわ」と言ったのですが、先に買い物を済ませた彼女は、「家で待ってるから」と。 「レモンを購入するというのはあまりにも悲しいから」と。 レモンを買うのは悲しいこと? そういう発想はありませんでしたねぇ。

そして彼女の所へ寄らせて頂き、「好きなだけとって良い」と言うお言葉に甘えました。

レモンを買うのは悲しいってどういう意味なのか聞いてみると、「友達の中には必ずレモンの木を持っている人がいるはず。 だからその人に頼めば良い。 買うってことは友達が少ないってことでしょう。 寂しい人だってことでしょう」という返事でした。 

シチリア人の発想、面白い。 そして私達は彼女のレモンを沢山頂き、悲しい人にならずに済みました。 感謝。

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