見出し画像

桜の雨


私の夢には
知っている人が出てくることが多く、
そのほとんどがもう会うこともない
昔の友人や知人。


知らない人が出てきたり
未来や予知夢を見たりする
ことは本当に稀で、


基本的には
昔の友人と仲良くできたり
できなかったりしている。


今朝は本当にめずらしく
知らないひとがでてきて、


私はその人の隣にいるだけで
とても幸福で少し切なく、
体が芯からあたたまってきて
手に触れずにはいられなかった。


どれだけ記憶の糸を手繰りよせても
もう顔も声も思いだせないその人の、
少し焦げた肌の色と
人を拒絶しない空気を
何度も反芻しかたちを残そうとしている。


「これがいい」と意思表示することも
むずかしかった幼い頃の自分が、


感情や表情を持つ「人」相手に
好きだとか嫌いだとか
口にだすなんて以てのほかで


好きという気持ちと同時に
生まれるたくさんの不安に
飲み込まれていくことが
多かったように思う。


けれど夢の中では
好きという気持ちから生まれる
しあわせな感情が大きく上回り


ただその気持ちに
身を委ねていられた。


そしてそれを
どこからかわいてくる
安心感のもと、
感じるまま相手に伝えている。



その人の相手を拒絶しない空気と、
湧き上がる幸福な感情に
素直でいられる自分。


その人が自分をどう思っているのかは
わからなかったし、どうだってよくて


ただ自分の気持ちに
真っすぐ浸り、伝える
独りよがりで幼い恋みたいな夢。


けれどものすごく素敵な経験で、
しあわせで懐かしくて涙もでる。


少しの恐れも持たず
誰かを好きになる喜びを、

私は経験してみたかったのかもしれない。


外に出たら、
先日満開だった桜は
ほとんど葉桜だった。



ーーーーーーーーーー





長い坂をのぼりきったところに
うちがある。


その坂は桜並木道で、
満開の時には
上りも下りも
桜のアーチで
ピンクのトンネルを
くぐることができる。

この町の大好きなところ。



けれど
老樹で倒木しやすくなっているため
災害に備え来年までに
伐採することになったらしい。


去年近所の銀杏並木も
伐採されてしまった。



残された切り株を見ると
たまらなく悲しい気持ちになる。


少し離れた町の桜並木も
同じ理由で伐採されると
聞いた。


桜並木がなくなっていってしまう


この町の桜並木も
なくなってしまう。



いのちいっぱい
気持ちよさそうに咲き誇る日
そばに来られて


穏やかな時間の中
静かに揺れながら
そこにいてくれた


まるであたり前みたいに。
同じ瞬間はなくて
それでも静かに咲いていた


誇らしく健気で
堂々と生きている


その姿が好きで
尊くて
切ない

毎年春になり
蕾がほころびはじめると


私はもう別れの準備をしている。


出会う前から
終わりを思っている。




私は桜の花が好きだけれど
桜の木が好きなのかもしれない
とも思った


生活の中にある桜並木は
花を咲かせていない
時間のほうが遥かに長く


頻繁に木々と顔を合わせては、
季節や日々のささいな変化を
うけとっている。


花が見られなくなることも
そうだけれど
日常のそうしたやりとりが
なくなってしまうことが
たまらなくさみしい。


そういう時間も含めて
桜が好きだったのかもしれない。





桜吹雪の中、
ピンク色のアーチをくぐって
うちへ向かう。


折に触れては思いだす、
桜の雨、いつかが流れている。



果てしないこの旅で
どこかでいつか会える

桜の雨、いつか/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?