kaori murakami

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Pairing -two thousand twenty three-

Time

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MATRYOSHKA

空中を見つめて去っていく背中に バラの花びらが落ちた瞬間 時計のネジから指を離した 一気に回転する 針に合わせて 時が流れ始める バラの花は一瞬で枯れ 町中の音が一…

MOON

薄い雲にかすれた光が 月の先で渦を描いている ピアスと指輪を机の上に並べ 指先で転がしながら 声にならないほど小さな声で彼女は 魔法のような言葉を呟き始めた

20240504

AIR

薄い氷の膜が 星の腹を割り 黄金色の液体が飛び散る 深い夜の銀色の砂に染みていく 夕暮れの庭の木の中で 数日を過ごし 乾燥し空に戻れるのを待っている 落下していく星…

CANDY

柔らかな毛布の中で 飴の欠片が琥珀のような 色をしている 遠く離れた海では これから沈む船が 汽笛を鳴らしている。 指先をアイスクリームに浸すと レーズンと シナモン…

Prologue -Spring snow-

SOFA

誰もいなくなった 小さな海辺の町の灰色の工場に 彼女は暮らしていた 赤い絨毯には ソファと机と冷蔵庫が並んでいた 風に揺れた植物や 空中を舞う葉の音や きしむ何かの…

GHOST

過去の亡霊たちが 半透明の姿で話したり 笑ったり 泣いたりする様が 長々と続いた頃 王さまがロケットに乗って 月へ行ったというニュースが流れる 月の裏側には深い森が…

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EARRING

水の入ったグラスを持って 灰色の町を歩いていた 古いカメラで 壁や花や空や海を撮ったり 道に落ちているチラシや何かの破片を 拾っていた 置き去りにされたままの車に乗…

ASHIOTO

深い青色のジャケットに 雪の結晶のブローチをつけ 通り過ぎていく 午後の光が 路地裏の暗闇の中で 彼女を吸い込んでいく 2つの赤い木製の靴音が残された 胸から蒸発し…

INCENSE

SOOP

銀色の髪飾りを見つけた 無数の車と 無数の人と 無数の高層ビルで 埋め尽くされた町の中で 偶然見つけた 白い髪の女 赤い果実 白い壁 庭の穴 万年筆の先で 世界地図を永…

Thirteen

AMOUR

再生

Pairing -two thousand twenty three-

MATRYOSHKA

空中を見つめて去っていく背中に バラの花びらが落ちた瞬間 時計のネジから指を離した 一気に回転する 針に合わせて 時が流れ始める バラの花は一瞬で枯れ 町中の音が一瞬でハウリングし 耳の中ではじける トンネルの向こうから 巨大な貨物列車がやってくる ガタコトガタコト ガタコトガタコトと 鳴り響く音が小さな時空の穴に 吸い込まれていく 金色の時計の中には 飴玉のような 小さなビーズの粒が 埋め込まれている 落下していく飛行船の窓から 見た全ての事なのだと 彼女は話し

MOON

薄い雲にかすれた光が 月の先で渦を描いている ピアスと指輪を机の上に並べ 指先で転がしながら 声にならないほど小さな声で彼女は 魔法のような言葉を呟き始めた

AIR

薄い氷の膜が 星の腹を割り 黄金色の液体が飛び散る 深い夜の銀色の砂に染みていく 夕暮れの庭の木の中で 数日を過ごし 乾燥し空に戻れるのを待っている 落下していく星の液体の香りを 忘れられずに死んでいく人もいるのだと 氷ついた風が 頬と耳と 彼女の存在を消そうと舞っている 黄金色の液体が 静かに蒸発していく

CANDY

柔らかな毛布の中で 飴の欠片が琥珀のような 色をしている 遠く離れた海では これから沈む船が 汽笛を鳴らしている。 指先をアイスクリームに浸すと レーズンと シナモンと バニラの香りが 部屋中に広がり バタバタと 階段を下りていく 誰かの足音が響いた

再生

Prologue -Spring snow-

SOFA

誰もいなくなった 小さな海辺の町の灰色の工場に 彼女は暮らしていた 赤い絨毯には ソファと机と冷蔵庫が並んでいた 風に揺れた植物や 空中を舞う葉の音や きしむ何かの音が遠くから 部屋に届く頃 彼女の意識は 木製の机の上で消えた

GHOST

過去の亡霊たちが 半透明の姿で話したり 笑ったり 泣いたりする様が 長々と続いた頃 王さまがロケットに乗って 月へ行ったというニュースが流れる 月の裏側には深い森があり 白く美しい馬のような形の植物がいた オレンジ色の空中に浮かんだ 水が時空の穴から 噴水のように吹き出していた 舐めてみると ラムネのような ミントのような味がした 王さまは 大きな耳と 大きな目と 大きな手で 指先を回転させながら 感想を述べたという

EARRING

水の入ったグラスを持って 灰色の町を歩いていた 古いカメラで 壁や花や空や海を撮ったり 道に落ちているチラシや何かの破片を 拾っていた 置き去りにされたままの車に乗った 枯れた植物を口にくわえたまま ハンドルを握り何かを 考えているようだった

ASHIOTO

深い青色のジャケットに 雪の結晶のブローチをつけ 通り過ぎていく 午後の光が 路地裏の暗闇の中で 彼女を吸い込んでいく 2つの赤い木製の靴音が残された 胸から蒸発して空に昇った 空気のような 色彩や記憶が分解され 何千キロも離れた 砂漠の上で立ち止まった もう何十日も歩き続けた ラクダは喉が渇いていた 朦朧としながら 主人と砂漠の真ん中で 途方に暮れている 風を切る音が鳴り 大きな音が鳴り 氷の塊がラクダと主人の 遥か先に現れた 灼熱の中で あっという間に 氷

SOOP

銀色の髪飾りを見つけた 無数の車と 無数の人と 無数の高層ビルで 埋め尽くされた町の中で 偶然見つけた 白い髪の女 赤い果実 白い壁 庭の穴 万年筆の先で 世界地図を永遠となぞり続け 笑いすぎて カーディガンの袖を破いて 皿のスープを じっと眺めている 旋回する鳥 朱色の光が町を飲みこんでいく

再生

Thirteen