Episode8 父の死がくれたもの

お葬式に行く前、隣の葬式場の建物まで歩いて行く途中、
ふと空を見上げると真っ青で雲一つない夏空が広がっていて。
大事な人が、人一人亡くなっているというのに、
世界はそれにも目もくれず、
何も無かったかのように、誰も知らなかったように、
昨日までの日々と何ら変わらないのが、悔しくて悔しくて。
考えれば全部がたられば論で片付いてしまうのかと思うと、
もう手駒のない私はただただ無力感を感じざるを得ませんでした。

大学の先生には事情を話して、何とか単位をもらい、無事夏休みに入りました。
でも私は父が亡くなったことを、担当教官と、借りていたCDを代わりに
返しに行ってくれた友達と、バイト先の店長くらいにしか言えませんでした。
お父さんが亡くなって、かわいそうな目で見られるんじゃないかって、
勝手な思い込みで、誰にも助けてもらえず、
毎晩のように過呼吸を起こして泣きながら眠りについていました。

バイト先の店長もしばらく落ち着くまで休んでいいよと言ってくれたので、
長期で実家に戻ることにしました。
実家にあった車も大きなワゴン車で、
何十年とペーパードライバーの母が乗りこなせるわけもなく、
私が車の免許を取って、しばらく私が車を運転できる状態にしました。
車もワゴン車から小さな車に買い替えて、
だんだんと父に関わっていたものが減ったり、変わっていくのが、
人が死ぬということの景色なのか、と思う日々が続きました。


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