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まるで夏の日差しのような【感想文の日③】

こんばんは。折星かおりです。

感想文の日も第三回目となりました。毎日のエッセイの間に挟まるこの日は、私にとってとても楽しみな時間になっています。

今回はKH1992さんの感想文を書かせていただきました。初めてのご応募、嬉しいです。ありがとうございます!

それでは、ご紹介いたします。

■夏至の日

小学生の溜まり場になっていた、ある駄菓子屋での夏の記憶。昭和六十年の夏至の日、「私」は馴染みのその店で友人たちと落ち合います。彼らが続けざまに手に取るのは、ホームランバー。「私」は手に取ったそれが「当たり」だと主張する友人とホームランバーを交換することになるのですが、それをきっかけに「私」は忘れられない一日を過ごすことになるのです。

全作読ませていただいたのですが、KH1992さんの文章はすごくビビッドなんです。ぱきっとしている、というか、くっきりした色合いが強く伝わってくるような。アイキャッチもすごく鮮やかで、文章の雰囲気とぴったりです。その魅力がぎゅぎゅっと詰まっているのがこちらの『夏至の日』。

中でも一番好きな一文がこちら。「私」が坂道を登り、駄菓子屋へ向かうシーンです。

道中の廃墟から伸びる竹林が、ふいに頭上を覆ったかと思えば、隙間を縫った陽の光が、地面をまだら模様に照らす。

駄菓子屋へ向かう道を私は知らないはずなのに、さわさわと揺れる竹林や「私」が踏みしめるアスファルト、そこに落ちる影がはっきりと目に浮かびます。そしてどこにも「進む」「歩く」とは書いていないのに、「私」が駄菓子屋へ向かう歩の速さまでもが伝わってくる。美しいですよね。私もこんな文章が書けるようになりたいです……!

中盤の駄菓子屋での少年たちの会話は軽快ですが、「私」のその日の経験は決して明るいものではないんです。最後まで読み終わったとき、物語の色がもう一段階、ぐっと濃くなるような気持ちがしました。

■台風124号の接近

妻が家庭内で起こす癇癪に名前を付けている「私」。この間やってきた台風123号『バースデイ』(事の発端は誕生日プレゼントの宛名間違い)が去り、穏やかな日常を取り戻します。しかし、そこに忍び寄る次の台風……。気味が悪いほどの静けさの中、「私」はその原因を探ります。

個人的に一番好きなお話でした。最初にご紹介した『夏至の日』とはまた違う、可愛らしい雰囲気が素敵です。奥さんの癇癪に名前を付けるなんて、もう、好きなんですよねぇ。

そして、これまでに奥さんがどんな時に怒ってきたか、と振り返るシーンがとっても微笑ましいんです。

会社の飲み会で、家に連絡を入れ忘れた時
確かあの晩、彼女は夕食を食べずに此方の帰りを待っていた。腹が一杯だと告げる私に、容赦無く風が吹き付け、結局料理は翌日の昼、二人で仲良く平らげた。
美術館に入る際、案内状を家に忘れた時
前々から楽しみにしていた美術館巡りの際に、友人から貰った案内状を、私がうっかり家に忘れて来てしまった。入館時間の兼ね合いから、取りに戻るには時間がなく、結局二人仲良く付近に有る遊園地で遊んで帰った。
終わり良ければ、全て良しと言っても、あの時の怒りは恐ろしいものだった。

「私」が思い出しているのは奥さんの癇癪なのに、どちらの記憶も「二人で仲良く」に上書きされています。もう、好きなんですよねぇ(二回目)。

接近していた台風124号の名前は文中には書かれていないけれど、読めばきっと分かります。もし奥さんが知ったら、どんな顔をするのでしょうね。

■日記に書くべき事とは

母が「懐かしいものが出てきました」と送ってきたのは、中学生の頃の一行日記。並ぶ言葉は情けないものが多いけれど、その中できらりと目を引く「はじめて」。読み進めていくと、ある旅の記憶が鮮明に蘇ります。

昔の日記を読むの、面白いですよね。毎日きちんと書けなかった一行、たとえ嘘を書いてしまった一行でも、鮮やかに「あのとき」を思い出させてくれる。「私」はこの一行日記を提出していないようですが、今の「私」に良い旅を思い出させているんですもの、日記も喜んでいるに違いありません。

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