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世界をひらく【感想文の日㊸】

こんばんは。折星かおりです。

第43回感想文の日、今夜感想を書かせてくださったのは如月桃子さんです。

以前、学芸員として働いていらっしゃったことがあり、現在は大学院で西洋美術史を専攻している如月さん。noteでは架空のお店「Art saryo」のサークルを運営され、絵画や映画などの美術に親しむ場を作られています。普段投稿されている作品は、アートに関する記事やエッセイが中心。如月さんの周囲の方を優しいまなざしで見つめた作品では、こちらの心もぽかぽかとしてくるようで、1週間とても楽しく読ませていただきました。改めて、ご応募くださりありがとうございます!

それでは、ご紹介いたします。

■ricetta2 眠れない夜にーArt saryo物語ー

日頃の疲れや寝不足から、仕事帰りに電車を乗り過ごしてしまった"菜々"。折り返しの電車を待つ1時間の間、駅前の商店街を歩いていると一本路地を入ったところに「Art saryo」というお店を見つけます。店主のお姉さんと話をするうちに、ぽろりと本音を零した菜々に用意されたのは、不思議な「ricetta(リチェッタ)」でした。

如月さんが「Art saryo」で実際に提供されている「ricetta」。イタリア語で「処方箋、治療法、レシピ」を表す言葉で、生きていくうえでお守りになるようなアートやその見方を1話完結で紹介されています。こちらの作品は、その第2話。仕事で疲れてしまった菜々に、店主のお姉さんがアートを「処方」する物語です。

菜々は、自分の目を疑った。
ガラスの向こうの、先程までは中庭だった場所に、二つの絵画が浮かんでいた。
今自分は夢を見ているのかなと思った。

お姉さんに促されて振り返ると、Art saryoの中庭には、ふわりと2枚の絵画が浮かんでいました。1枚は草原の中に建つ白い建物の絵で、もう1枚は赤く燃えるような空の下、家族を守るように男性が立っている絵。店主のお姉さんはゆっくりと丁寧に菜々の言葉を引き出しながら、2枚の絵を描いた画家、松本竣介の人生を語り始めます。

口を閉ざし、ただ従うことだけを求められた時代に、彼はあえてペンと絵筆を手にして物申した。それは、彼の言う通り、“賢い”選択ではなかったでしょう。けれど、私は、彼が沈黙することなく、表現してくれてよかったと思っています。もし彼が沈黙することを選んでいたら、この傑作が世の中に出ることもなかったかもしれません。

美術家までもが「局に相応しい思想感情を表現して国家機能を担当しなければならぬ」とされた、日本が戦争をしていた時代。それでも彼は、謙虚に、力強くその風潮に対して意見を述べたのです。

自分の声に、耳を塞ぐのは、賢い。

けれど、それがいつも正しいわけではないのかもしれない。

お姉さんがこの絵を選んだ理由を想像し、ふつふつと沸き上がる力強い気持ちを感じる菜々。「他人の声に」ではなく「自分の声に」と書かれたところで、どきりとして思わず立ち止まりました。本当は何よりも信じてあげたい、自分自身の声。他のひとには聞こえないからこそ「賢く」振る舞うこともできるけれど、それが正しいとは限らない。一歩前へと進んだような菜々の気づきに、こちらも熱い気持ちがこみ上げました。

■すきなひとのすきなところ10個

たまごまるさんの記事『企画50個プレゼント。』の中の『嫁、夫、彼氏、彼女の好きな所10個』をテーマに如月さんが綴る、「すきなひとのすきなとこころ」。背が小さい、よく泣く、興味が全然ちがう……。彼のすぐそばでその振る舞いを見つめる如月さんの視点がにじみ出る、優しい作品です。

読んでいるとこちらまで幸せな気持ちになって、思わず頬が緩んでしまいます。文章からひしひしと伝わってくる、如月さんの彼の温かさ。そして、その温かさをしっかりと受け止めて、言葉を紡ぐ如月さんも素敵です。

背が小さいのも悪いことじゃないよ。
私と彼は、同じ身長だから、話すときは小さな声でも通じるし、同じ目線の景色を見られる。
でも、『ローマの休日』を見ては泣き、『ベイマックス』を見ては泣く彼を見ていたら、男の人だって素直に感情を表したってかっこ悪いことじゃないし、むしろ泣くと涙がきらきらしてきれい!と思うようになった。

そして、「すきなところ⑨ ヒーローみたい」では、こちらまできゅんとしました!

私がイタリアに留学していて心が折れそうになっているとき、彼は大きなスーツケースと小さなリュックサックを持ってイタリアに来てくれた。大きなスーツケースに入っていたのは、全部私への贈り物で、小さなリュックに彼自身の荷物を詰め込んでいた。大丈夫だよ、きっと最後まで頑張れるよと私を励まして彼は帰っていった。

おなかいっぱいになっちゃう、離脱しても大丈夫、と如月さんは気遣ってくださっていますが、私はたくさんの幸せに満ちたこの作品が、とてもすきです。

■カメラの天使

如月さんの大学時代のお友達に、いつもカメラを持ち歩いている女の子がいました。いつもかわいらしい彼女はみんなから「天使ちゃん」と呼ばれていて、最初は話しかけることをためらっていたそう。しかし、同じ研究室に配属されたことをきっかけに、ふたりは共通点を見つけ、仲を深めていきます。

如月さんはある日、電車が遅れて彼女との待ち合わせに遅れてしまったことがありました。待たせたことを謝ると、彼女は「待っていないよ」と言い、こう言葉を続けたのです。

「街を歩いていても、誰かと待ち合わせをしていても、はっとする瞬間があって…カメラを持つと、暇な時間がなくなるの。」

彼女は如月さんが到着するまで、写真を撮っていました。駅の花壇に咲いていた花や、駅のステンドグラス……。きらきらと輝く彼女が切り取った世界と彼女の言葉は、如月さんの罪悪感を消し去ってくれたそうです。

拝読しながら、カメラが大好きなことが伝わってくる彼女の言葉にぎゅっと心を掴まれました。写真を見ずとも、彼女が切り取る世界のきらめきが目に浮かびます。

きっと彼女の「好き」がこんなにも瑞々しく伝わるのは、如月さんご自身も「好き」を追いかけ、大切にされているからではないかと思います。私も自分自身の「好き」に正直に、「好き」を追いかけるひとを応援できるひとでありたいです。

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