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たおやかに綴る【感想文の日⑳】

こんばんは。折星かおりです。

第20回目の感想文の日、今夜感想を書かせてくださったのは、水野うたさんです。

『その手を見ると、応援したくなっちゃうんだ』がASICS開催「#応援したいスポーツ」コンテストの「スポーツのきっかけ賞」に選ばれたうたさん。記事には娘さんがマネージャーを務める野球部の選手たちを追ったうたさんの写真がふんだんに盛り込まれていて、どの写真からも青春が眩しくこぼれ出てくるよう。実はあの記事の頃からお名前を存じあげていて、今回「感想文の日」にご応募くださって本当に嬉しかったんです。改めて、ご応募くださりありがとうございます!

それでは、ご紹介いたします。

■「お茶はいかが?」今度は、私がそう言うよ

うたさんが世界でいちばん好きだった、おばあさまの淹れるお茶。おばあさまはサービス付き高齢者住宅へ移っても、うたさんがそのもとを訪れたときには変わらずお茶を淹れられていたのだと言います。記事の中にずらりと並ぶ愛おしいものが丁寧に紡がれる時間を彷彿とさせる、優しいお話です。

うたさんの記事はどれも写真がすごく綺麗なのですが、この記事は特に、乱反射するように輝くお茶の写真がとっても印象的でした。ぱっと見るとお茶の表面が揺れて光っているようなのですが、よく見るとその中にみずみずしい新緑が見えるようなのです。

電気ケトルが こぽこぽと音を立てはじめると、私はココロの中で、こどもの頃に旅をする。

「旅」という言葉のとおり、タイムスリップして家の中を歩いて回っているように綴られる文章も素敵です。私はうたさんのおばあさまのお家を見たことはないはずなのに、懐かしい景色が鮮やかに浮かびます。たっぷり、じっくりとその景色を思い浮かべる時間は、お茶が入れられるまでの「待ちきれないほど、ゆっくり淹れる その時間」とリンクするよう。

「おまちどうさま」のひとことで旅を終えると、待ちに待ったお茶が淹れられています。

湯を冷まし、ゆっくりと淹れたそのお茶は、香りがたって甘く、とろりとした感触で舌の上を転がっていく。

新茶はほんとうに「とろりと」していますよね。最初は甘さ、その後にほ舌を優しく締めるようなほんの少しの苦さ。初めて新茶を飲んだときの感動を思い出させるような、清潔でいて魅惑的な表現に息をのみました。

■そのとき初めて、音楽って楽しいんだ!って思えたの

「気づいたら」弾いていたほど、幼い頃からピアノを続けてきた"私"。本当は学校から帰ったら友達と野球をしに行きたかったけれど、仕事から帰ってきた”ママ”の前での「おさらい」で殴られないために練習を優先していました。転校のタイミングで変わったピアノの先生にも、何だか嫌味を言われてばかり。新しい曲が弾けるようになるのは楽しいけれど、”楽譜どおり”に弾くのはつまらない。そう思っていた”私”はある日、音楽の楽しさを知ることになるのです。

「怒られないように」と焦りながら重ねた練習。膨大な時間をかけて手に入れた「完璧に音を聞き分けられる耳」への嫌味。お話の序盤は、まだ幼いにも関わらず厳しく当たられてばかりの”私”にちょっぴり胸が苦しくなるようでした。

それでも、”私”の瑞々しいモノローグがぐるんとお話の雰囲気を変えてゆきます。きっと”私”は、ピアノが好きなんだ。そう確信させるこちらの文章が、とっても好きです。

この曲は探検に行くお話でね、ぐんぐん歩いていくと、途中で雨がザーザー降ってきて、低い音で雷が鳴るんだ。8小節のあいだ雨宿りしてると、雲が切れて、高い音でキラキラ光が射し込んで鳥のさえずりが聞こえるの。そしたら、また元気に歩き出すんだ。
あの、雲が切れて光が射し込む瞬間を、そのままのテンポで弾くのは、つまんないでしょう? 雲が切れるときにはリタルダンドでゆっくりして、息を吸って、キラキラの音を出したいの。

何て可愛らい、きらきらした気持ちなんでしょう。ぎゅっと抱きしめてあげたくなるような愛おしさが、胸いっぱいにこみ上げます。

「音楽って楽しい」の扉が開いたとき、きっと”私”のこの思いも、満たされたことでしょう。終盤に向けて加速してゆく生き生きとした描写に、爽やかな読後感が残りました。

■こころの琴線というもの

日々の暮らしの中で出会う、こころ動かされるもの。風、雲、しわしわの手、それから、物語。それらにこころが震えると、琴線は一本ずつ増えてゆく。「年をとる」ことが楽しみになるような、まるで詩のように美しいnoteです。

今回読ませていただいた中で、一番ぐっとこころを掴まれた作品でした。

思わず、胸がきゅぅ・・・っとするときがある。

この感覚、私もよく感じます。まさに、「きゅぅ……っと」と言う感じでなかなかすぐに言葉にするのは難しいのですが、美しくて、儚くて、そっと触れないと壊れてしまうようなもの。そしてそれはときどき、涙になって溢れてくるのです。でもそれは、経験を重ねてきたから、なんですよね。

「年を取ったら、涙もろくなって」ってよく聞くけれど、それは年を取ったせいじゃない。
経験を重ねたからだ。
空に、雲に、人に、出来事に、物語に結びつく、こころふるえる経験を。
こころの琴線というものは、きっと増えていくものなのだ。
こころふるえる経験を重ねるたび、それは1本1本増えてゆく。
触れる琴線が増えるたび、人生は味わい深くなり、祈りで満ちる。

そっと優しく包まれるようなうたさんの文章に、胸がきゅぅ……っとします。味わい深い人生となるよう、私もこころの琴線を丁寧に増やしてゆきたいです。

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