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『つつんで、ひらいて』おぼえがき

 こんにちは、橘です。
 今回は2月8日に鑑賞したドキュメンタリー映画『つつんで、ひらいて』の覚え書き的感想記事です。鑑賞直後のツイートからの続きです。

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(続)→
  この映画を鑑賞したときはご存命だった古井由吉さん、まさか亡くなるとは思いませんでした。まだ古井作品は読んだことが無いので、これを機にいくつか読んでみたいと思います。おすすめがあれば誰か教えて下さい。

 映画の最後の方で菊地さんが自身の仕事に関して「本当に細かいところだけどね。6、7000人の読者のうち1、2人気付いてくれればいい」と言っていたのが、特に印象に残りました。装丁家の仕事ってすごく細かいし労力のかかるものなんですが、手にとってくれる読者の殆どはそれに気付かないんですよ。それでも実直に仕事に向き合う菊地さんの生き方には痺れましたね。自分もいわゆる「縁の下の力持ち」のような仕事が好きなので、ここはとても共感しました。

 菊地さんのこだわりが特にフォーカスされていたのが、ブランショ『終わりなき対話』の作製風景でした。

菊地さんのデザイン作成の大変さもさることながら、印刷所・製本所の現場のリアルな苦悩が映し出されていて、思わず唸ってしまいました。こういう試行錯誤を経て本は我々読者の手の元に流通するのかと思うと、もう雑な扱いは絶対できないですね。

 (これは余談でしかもものすごくマニアックな話なんですが、お弟子さんの水戸部功さんの声がwebメディア『オモコロ』編集長の原宿さんにめちゃくちゃ似ていて、笑いそうになってしまいました。)

 ところで、2019年度後期の『装丁と文学』の講義内で菊地さんがバーコード嫌いと言う話は聞いていたんですが、実際にそのことについて語るシーンがあって、なるほどなと思いました。確かに表紙のデザインがどんなによくても裏表紙にバーコードがあると、少し興ざめですものね。

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 さて、ここからは私のちょっとした所感なのですが、「出版不況」と言われはじめて、もう随分久しいと思います。以前Twitterで募集した「出版界に将来性を感じるか」というアンケートにもネガティブな答えがいくつもみられました。

 それでも私は紙の本は決して時代の趨勢に「つつまれて」消えていくものでは無いと感じています。むしろ新たな時代へ「ひらかれる」ものだろうと思っています。

 菊地さんが紙に頬を擦り付けて、まるで孫娘でも可愛がるようなシーンが作中ありました。もちろんこれは紙の感触を確かめているのでしょうが、紙の本の第一の特徴はこの「触れる」ことにあると思っています。

 つまり「文章は読むもの、本は触れるもの」ということです。

 高度情報化社会においては、あらゆるところに情報が溢れています。それこそインターネット上には魑魅魍魎のように情報が跋扈しています。ですから、わざわざ本で文章(≒情報)を読む必要なんてないようにも思われます。

 だからこそ本の優位性というものを考えた時に、手で触れることができることが何よりも大切になってくるわけです。電子書籍によって解決された紙の本の弱点である「幅を取る」「重い」「紙が焼ける」といった物質的な問題は、実は紙の本の強みでもあったのではないかと思っています。

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 紙の本が売れなくなり、電子書籍が台頭し、更には本にとって変わる娯楽コンテンツが量産されるようになった現代の趨勢に抗って、

 「紙の本は滅びない」

 そう強く言い切れるよう、もっと勉強していきたいと思っています。
 まずは今の考えを簡単にまとめてみました。

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 それでは、今日はこのあたりで。さようなら。