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手首切るより男切ろう

「手首切るより男切ろう」

私がこよなく愛する女友達の言葉である
あまりに簡潔に力強い言葉だったので、何かの歌詞か漫画のセリフかと思って調べたがそれらしき言葉は出てこなかった
彼女は私より3学年下とは思えないほどの童顔とアニメ声で可愛さを凝縮したような女の子でオブラートに包むのならば五目並べができそうな手首を持っている
彼女の力強い言葉を数日反芻しているうちにコラムを書きたいと思った

傷付けてくる人や物を切り離すことは意外と難しい
傷付けてくる人が全て包丁を持った通り魔の姿をしていれば危ないと分かるけれど意外とわかりにくい形をしているのである
嫌いな奴は確かに傷つけるようなことを言ってくる
匿名の質問サービスで何度となく不愉快な質問を投げかけてくる奴とか取り巻きに攻撃させてくる頭も心も空っぽのキラキラ男とか笑うとブスが加速するとかくだらないこと言って5年くらい私にエクボがあることを忘れさせた奴とか色々
確かに当時嫌なことを言われたのだけれど、多分とっくの昔に存在なんて忘れちゃっているような奴もいるだろう
そういう奴はブロックだ。SNSはもちろん、対面の人間関係でも嫌いな誰かと関わらないことにすることは割と容易い
世界のどっかには当然存在しているはずだけど、私の世界から消えてくれれば、これからは人を傷つけずに達者でなと思う

一番難しいのは、好きな人や離れがたい人が傷つけてくる人だった場合である
家族や恋人や友達、自分が大事にしていて、当然大事にされるべき人に傷つけられることだっていくらでもある
傷つけられた瞬間嫌いになる機構が備わっていればいいのだけれど、面倒なことに嫌いだけど無害な人もいるし、好きだけど有害な人もいる
明確なDVを受けている旨のツイートの後に彼氏と付き合えて幸せという旨のツイートをする人を見た
そんな時、私にできることはツイートとツイートの間で彼氏が違う人になっていますようにと願うことだけだ
嫌いな奴とはいい思い出は特にないことが多いので職場だとかサークルだとか血の繋がりだとか別の枠組みでのしがらみがなければ、その場で砂を蹴り上げて目潰しを食らわし逃げてしまえる(本当はしがらみも自分に比べれば些細なので逃げるべき
好きだった人はいい思い出が亡霊のように引き止めてくる
誰かと離れるからと言ってその思い出ごと否定しなければいけないわけではない
私もとても仲が良かった友人に裏切られ決別したことがある
いい思い出が多かったから離れがたかったけど、いまは離れて良かったと思っている
何度も傷付けられたけどいい人なんて多分いない
自分のことを何度も傷つけることができる人が自分を大切に思っていることなんてない
こんなにも大切な私たちを大切にできない人を大切にする時間なんて人生にない

好きだった人と離れる時、死ぬほど辛いかもしれない
痛みに耐えながら少しずつ忘れて行くことしかない
実際、人間は失恋で痛みを感じるとナショナルジオグラフィックに書いてあったし、間違いなく辛いだろう
友人でも家族でもおそらく同じことである
しかし、辛くとも死なないのである
人間は離れても死なないようにできている
切って死ぬのは手首だけである
だから切るべきなのは手首以外のものである
手首を切ることはしなくとも傷付けてくる人の近くにいて傷を負い続けるなんて相当に特殊な趣味の持ち主でない限りやめるべきなのだ

いっせいのせでお互い誰も傷付けずにしましょうよと約束して終わりにしたいけれど、世界はそうもいかなくて、傷つくことばかりだけれど、いつか彼女や傷ついた人たちと一緒に歳をとりたい
手首の傷が傷だか皺だかわからなくなる年まで
手首の傷より傷つけてきた奴の墓標が多くなる年まで
自分を傷つけるものなんか全部切り離して、傷つけてきた奴のことだけ都合よく忘れて、
生きて生きて生き抜いて強い老婆になりたい

#コラム #エッセイ #人生 #メンヘラ

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