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椎茸が大の苦手だった私が「椎茸だけのどんこ押し寿司」を作り、苦手を克服した理由

小さい頃から椎茸が食べられない。

椎茸には申し訳ないけど、本当に椎茸が苦手でした。「給食残すなかれ」の小学校だったので、椎茸が出ると決して噛まず、涙まじりに丸飲みするほかありません。チェッカーズのフミヤさんが「大の椎茸嫌い」だと知り、妙に親近感を覚えたり。

母は「嫌いなものはムリして食べなくていい。大人になったら食べられるはずだから。でも、ずっと食べずにいると克服もできないから、嫌いでも食卓には出すよ」という方針。でも残すのは厳禁で「食べられないなら自分でなんとかしなさい」と言われていたので、椎茸が出ると4つ上のお兄ちゃんに食べてもらい、私は代わりに兄の苦手な鶏皮を食べてあげました。

椎茸が入っていて唯一好きだったのは母の炊き込みご飯。椎茸を小さく小さく見えないくらいに切ってくれ、ほかの具材に紛れていたせいもあって、これだけは好きでした。そして、干し椎茸の出汁も、意識はしてないけど好きだったようです。

大人になるにつれ、母が予言したように何とか食べられるようにはなっていました。ただし、買ったお弁当に入っていたり、外で出されたときだけ。

私にとっては幸いなことに、夫と息子も椎茸が苦手だったため、自分で椎茸を買ったことはなく。お鍋やすき焼きにも舞茸を入れてました(舞茸は大好き♥︎)。

でも、そのままにしておくわけにはいかなかったんです。
なぜなら。

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じぃじが遺した巨大椎茸。食べなくていいはずがない。

実家の山に、毎年にょきにょきと立派な椎茸が生育するのです。自然の森の中で、しいたけ菌を打ち込んだ原木に生える「原木椎茸」なので、なんか貴重らしく(よく知らなくてごめん)。

しかも、このクヌギは父が生前に採ってきたもの。息子にとっては「じぃじの椎茸」。私も小さい頃に「お父さんとしいたけ菌を打ち込む作業」は大好きで、にょきにょき生えてきた椎茸をアイテムとしては「かわいい」と思っていました(食べられなくてホントごめん)。

想いのこもった椎茸なんです。

母はこの椎茸を天日干しして毎年送ってきてくれます。
巨大な原木椎茸。しかもじぃじの。

息子も私同様、干し椎茸の出汁は好きなようだし、小さく小さくわからないくらいに切って炊き込みご飯に入れればモリモリ食べます。

でも、それではやっぱり椎茸に失礼な気がする。わからないくらいに切ってやっとだなんて、椎茸としてはビミョウなんじゃないか。そう思えてなりませんでした。

多くを語らず、「仙人」っぽかった父。定年退職後は山にこもって炭を焼くか、畑や田んぼを耕すか、鶏や蜂の世話をするか、庭木を剪定するか、はたまた自宅で何やらつくるか。ゆっくり座っている姿は食事どきかおやつどき(←チョコレートが好物♡)くらいだった父が、椎茸たちの後ろで「ええ、ええ、ムリして食べんでもええ」と笑っているような気がして。

悲しまずに笑っているのが逆に申し訳ないのよ、お父さん。

椎茸の押し寿司をつくる機会がある日突然やってきた。

そんな私が作ったのが、こちら。椎茸まみれのどんこ押し寿司です。

どんこ押し寿司002

最近の私は「いろんな食材を知り、ひとつのテーマに向けて本気でレシピを考えるのはとても楽しい」と気づき、できるだけ料理コンテストに挑戦しています。そんな中で発見したのが「椎茸を使った新しい料理レシピ」の募集だったのです。

この私が椎茸料理? 
炊き込みご飯にくらいしか使わない私が、そんなの考えられる? 考えていいもの?

と、自分で自分にツッコミを入れながらも、「どうせやるなら、とことん椎茸を主役にしてやろう。小さく小さくわからないように切り刻まず、苦手な自分でもおいしく食べられる椎茸料理を考えてやろう」とガゼン奮起。

いろいろ考えた挙げ句、「そういえば、岩国寿司の椎茸なら食べられたぞ。子どもの頃はよけてたけども。干し椎茸を戻し汁ごと甘じょっぱく、濃い目の味で煮付けて、すし飯と合わせたらおいしいかも」と思ったのです。

岩国寿司のように錦糸卵を合わせてみる? いやそれでは椎茸の存在感が薄れる。
柚子でも飾る? いやいやそれはなんだかこざかしい。

こうなったら、とことん、黒々っと黒光りするような椎茸だけの押し寿司にしてみよう。

「おばあちゃんのどんこ寿司」と呼びたくなる完成度。

作りながらも、半信半疑。干し椎茸の出汁は好きだけど、戻してる最中のあの匂いを前にして「や、やっぱりダメかも」と絶望しかけました。でも、たまたまうちに来ていた椎茸好きの友人が「あ、この匂い自体は私もそんなに好きじゃないよ。でもこれ、完成したら絶対おいしい!」とワクワク気味。

椎茸が好きな人は、戻してるその先にあるおいしさを具体的にイメージできるから、この匂いにもワクワクするんだろう。なるほど、そういうもんか。だったらいい、くじけず完成させよう。

と、作っていく途中、おそるおそる煮詰めた椎茸の味見をしたわけです。

「おや・・・? これはもしかして・・・!?」
おいしくなりそうな予感がひしひしとしてきました。

そうしてできあがった、「椎茸だけで黒々っと黒光りするような」理想のたたずまい。いさぎよいその姿は、なんだか昔っからある郷土料理のようではありませんか。「おばあちゃんのどんこ押し寿司」と呼んでもいいような正義がそこにありました。

どんこ押し寿司003

いざ食べてみると。
「あれ!? 私、椎茸が好きになっちゃったかも」と心底びっくり。「今度から干し椎茸は常備しておこう」と心に誓ったほど、おいしい!と思えました。

おばあちゃんは、正義。

「これ駅弁にしてほしい」と願う、元・椎茸嫌い。

結局、椎茸押し寿司を考えるきっかけになった料理コンテストには応募していません。決勝が大分県で開催されるためそこに必ず行ける人、という条件があり、コロナ禍でその日に駆けつけるのはムリかも、と断念したのです。

つまり、この椎茸押し寿司で決勝まで残る気満々だったわけです。

いやでもこれ、実際、ものすごーくおいしいんです。

私と同じく椎茸が苦手な夫と、「おいしいおいしい、しみじみおいしい」「歳をとると味覚がちょっと鈍くなって、苦手なものも好きになるんだねぇ。歳をとるのもわるくないな」「こんなの、駅弁にあったら名物になるよね」と自画自賛しながら食べきりました。

幻の駅弁は、わが家で買えます。

ちなみに息子はこれを見て文字通り絶句しました。
さすがに、まだまだ大人の何倍も味覚が鋭敏な小学生男子に、この黒々とした押し寿司は薦めませんでした。私も、小学生の頃だったら絶対食べられてなかったと思うので。

でもいつかきっと、大人になった息子がわが家のどんこ押し寿司を日本酒と一緒にぱくりと食べ、しみじみおいしいと感じる日が来るはずです。

そうそう、そういえば、「椎茸大嫌い」だったフミヤさん、今では「椎茸は大好物に変わりました」とインタビューで語っていました。私はまだ椎茸大好物!の境地には至らず「どんこ押し寿司大好き!」に過ぎません。未熟者です。

彼の場合、きっかけは天ぷらだったそう。この椎茸押し寿司も食べてみてもらいたいものです。


一番食べてほしかったのはお父さんだけどね。

どんこ押し寿司006

**「椎茸だけのどんこ押し寿司」レシピ**

材料:
・すし飯
・干し椎茸(10枚くらい)
・椎茸を煮るための砂糖と醤油と日本酒(好みで本みりんも)
・笹の葉(なくてもいいけど、あったほうが盛り上がります!)

下準備:
・干し椎茸はひたひたになる程度の水につけ、一晩かけてじっくり冷蔵庫で戻しておく

1)戻した椎茸の半量はすし飯に混ぜる用にみじん切りにし、残りは飾り用に大きめに切る。

2)戻し汁を鍋に入れて火にかけ、まずは飾り用の椎茸を砂糖と醤油と日本酒、本みりんで煮る(濃い目の味付けのほうが美味!)。
飾り用が煮えたらいったん取りだし、残っている煮汁に混ぜる用の椎茸を入れてさらに煮込む。味見をし、調味料が足りなければ随時追加。
濃い目の味付けのほうが美味なので、しっかり冷まして味をしみこませる。

3)ご飯をたき、すし飯をつくる。混ぜる用の刻み椎茸を混ぜ込む。

4)押し寿司の型に笹の葉を敷き、1段目のすし飯を入れてぎゅっと押さえる。その上に飾り用椎茸を並べる。
続いて二段目のすし飯を入れたら、丁寧に飾り用椎茸を並べ、しばらく重しをしておく。

5)型から押し出し、笹の葉ごと器に盛る。






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