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世界最古のパスタはおうちで作れる -テスタローリとペストのレシピ-

どの町にも必ず名物パスタがある凄まじさ

イタリアのパスタは凄まじい。一説には650種以上あるともいわれているが、何種類あるのかはこの際どうでもよくて、どの地域に行っても名物パスタが存在し、「このソースにはこの種類のパスタを使うのだ」という確固たる伝統が当たり前のように根付いている。それが凄い。

たとえばカルボナーラ。あれはローマ名物だ。「変わりカルボナーラ」といった類は存在せず、肉は豚の頬肉、いわゆる豚トロを塩漬けにして熟成させたグアンチャーレ、チーズはペコリーノ・ロマーノを使うと決まっている。決まっているからブレがなく、どこで食べても確実に美味い。

上の記事にも書いたが、決まっているのはソースだけでなく、使うパスタは太めのスパゲティかリガトーニだ。これだけ豊富な種類がある中で「これを使う」と決まっているのだから、疑問を差し挟む余地はない。というか、疑問に思う必要がない。伝統的なパスタとソースの組み合わせ。「間違いないやつ」なのだから、ちょこざいなアレンジなんてしないほうが確実に美味しい。

ちなみにローマの名物パスタといえば、ほかにもアマトリチャーナ、カチョ・エ・ペペがあるが、これらもまたソースとパスタの種類にブレはない。

良質な小麦の産地として知られるプーリア州には、どの町のレストランにも必ず「オレキエッテ」があった。「小さな耳」という名前の通りの形をしたショートパスタで、日本ではローマ名物ほど知られていないものの、プーリアでは「パスタといえばこれ」というくらい当たり前に見かける。

ソースにはバリエーションがあるが、定番はブロッコリーやチーマ・ディ・ラーパ(菜の花や野沢菜のような味わいのイタリア野菜)をくたくたに煮たもの。素朴で、それだけに飽きない美味しさだ。

白く美しい町「チステルニーノ」の小さなお肉屋さんで食べた猪肉ラグーソースのオレキエッテも絶品だった。

どこをどう歩いても美しい、白い迷宮「チステルニーノ」。
プーリアにはこんな町がたくさんある。
お肉屋さんに併設された食堂で食べたオレキエッテ。手打ちのもっちり食感といい、そのくぼみにしっかりからむラグーの味わいといい、もう一度食べに行きたい味。

じつはこのオレキエッテ、初心者でも簡単に手打ちできる。多少カタチが不ぞろいでも問題なし。家族総出で楽しめて、しかも手打ちでしか味わえないモチモチ感がたまらないので、「やってよかったな」と思えるエンタメ料理だ。

そして。
今回ご紹介したいのはテスタローリ。オレキエッテよりも歴史が長く、オレキエッテよりさらに簡単な手打ちパスタだ。

捏ねない、待たない。古代ローマ時代の「焼いて茹でる」パスタ

え、これがパスタ? という、かなり変わった作り方をする。
でも、もっちりと美味しい。

テスタローリは古代ローマ時代に生まれた「イタリア最古」とされる生パスタ。パスタはイタリアのものだから、つまりは「世界最古のパスタ」である。

北トスカーナの一部の地域では今でも食べられているけれど、それ以外の地域ではイタリア人でも知らないらしい。それを日本で作ろうというわけだ。

テスタローリが残るのは、トスカーナ州の中でもリグーリアに近い辺境の地域。文化圏としてはフィレンツェよりジェノヴァやパルマ的な、ルジャーナというエリアの名物だ。

家庭でも作られるが、レストランで食すなら、リグーリア州のラ・スペツィアにある「Hotel NH La Spezia」のレストラン DEL GOLFOの名物がテスタローリだという。ちなみに日本では、恵比寿にあるトスカーナ料理の名店「トスカネリア」で味わえる。トスカネリアは何を食べてもおいしいので、テスタローリもぜひ。

テスタローリという名前は、「テスト」と呼ばれる浅い鉄鍋を使って作るから。小麦粉(日本の粉で作る場合は中力か強力で)をクレープの生地みたいにゆる〜く溶き、「テスト」で焼き色をつけてからお湯で茹でる。

▼本場のtestaroli 。素敵です▼


私たちが知るパスタとはまるで違うけど、捏ねる時間も待ち時間もなく、すぐにできる。そして、もっちり美味しい。

テスタローリの故郷はジェノヴァに近い地域だから、ソースはペスト・アッラ・ジェノヴェーゼ。オイルとチーズだけというシンプルを究めた食べ方もあるそうだ。

家で作るときは残念ながら「テスト」がない。地元の人に言わせれば「テストで作らなきゃテスタローリじゃない」ということになるはずだけど、そこはご勘弁を。ただし、テフロン加工のフライパンでは温度が上がりきらないのか、十分な気泡ができなかった。お持ちの方は、ぜひ鉄鍋で。

ソースはもちろんペスト・ジェノヴェーゼ。シンプルなソースだからこそ、シンプル製法のテスタローリにとてもよく合うと思う。なにしろ地元の人がそうやって食べてるんだから間違いない。カルボナーラやオレキエッテと同じように、地元の人が「これがおいしいよ」という定番がやっぱり一番。

日本人にだって、そういう感覚はある。たとえば「きつねうどん」なのに油揚げ入ってないのはあり得ないし、味噌系や塩系のスープも違和感満載。たとえ仕上がりが結果的に美味しくっても「それはきつねうどんではないね」って思うはず。


イタリア人でも知らない人が多いというテスタローリを日本で作る。なんだかちょっとワクワクしませんか?

本当に簡単でおいしいので、ソースとなるバジルがたくさんとれる夏に、ぜひ作ってみて。

■テスタローリのレシピ

強力粉と塩少々をボウルに入れ、少しずつ水を足しながら泡立て器で溶く。クレープ生地のようなゆる〜い状態に。
※目安としては、強力粉300gに対して水2カップくらい。塩は小さじ1程度。少しの量でも作れるのが魅力なので、ちょっとずつ食べられる量を作ってもよし!

鉄板をしっかりと熱して(アッツアツに!)、くっつかないように少量のオリーブオイルをしいてから、まさにクレープを焼く感じで生地を流す。厚さは5mmほど。弱火で5分〜7分程度、きつね色になるまで焼く。

↓写真は少量だけ食べたくて作ったもの。
通常は鉄鍋いっぱいに生地を流し入れてOK!

ポイントは、気泡がしっかり出ていること。焼き色はしっかり。
上の写真では焼き色を見せるために裏返していますが、本場のテスタローリは
生地を流したら蓋をして、片面だけ焼いて仕上げる。

焼けたらまな板に取り、少し冷ましてから菱形に切る。

まずは3〜4cm幅の帯状にカットして
こんな感じで菱形に。
食べる直前に茹でるので、冷ましつつ置いておく。

鍋に塩を加えて火にかけ(ここでパスタに塩味を入れるので、塩はたっぷり)、沸騰したらごく弱火にして、浮いてくるまで1〜2分茹でる(茹ですぎないこと!)。

温めるだけなので、茹でるのは短時間で大丈夫。

ペスト(バジルペースト)をボウルに入れてオリーブオイルでのばし、水気を切ったテスタローリを入れてしっかり和える。

自家製ペストはおうちによって塩味も異なるはず。
味見しつつ、たっぷり入れる!
(目安として、強力300gで作るとしたらペストは1/2カップ以上)
市販のペストを使う場合も味見しつつ仕上げよう!

お皿に盛り付けて、パルミジャーノ・レッジャーノをたっぷりと振りかけたら完成!

捏ねないのに、モチモチ! シンプルで、しみじみおいしい。

■ペスト アッラ ジェノヴェーゼのレシピ

バジルがたくさんとれたらぜひ作っておきたいペスト。

バジルはしっかり洗って水気を切り、葉っぱだけにしておく。

フードプロセッサーでパルミジャーノ・レッジャーノを細かくして、取りだしておく。そこに、EXVオリーブオイル、松の実、にんにくのみじんぎり、塩を入れてなめらかにし、バジルの葉っぱと先ほどのパルミジャーノを加え、ペースト状にする。

量の目安は、バジルとEXVオリーブオイルはだいたい同量かオイルをやや多め(バジル40gならオイルは40〜50g)、松の実とパルミジャーノレッジャーノはその半量ずつ(20gずつ)、にんにくは1片、塩は小さじ1/2程度で。

保存の際には瓶に入れ、表面が空気に触れないようオリーブオイルを5mmほど注いでから冷蔵庫へ。

*できるだけ熱を加えたくないので、フープロではなく「すりこぎ」で地道に細かくするのもあり。家族みんなで作れそうな日は、そういう手間暇も楽しいもの。

ペストの作り置きがあれば、いんげんとじゃがいもですぐにおいしいパスタが!

イタリア人とパスタとの長い歴史。そのはじまりの頃からずーっとこの世に存在してきたテスタローリ。よくある手打ちパスタとはひと味違うけど、本当に簡単にささっとできる。ぜひお試しあれ。



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