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家族のために…我が家のアイドル
相変わらず、母は、母の常識にはない生き方や仕事を選択している父に激しいリリックを浴びせ、バトルを繰り返していた。
因みに母の怒りは、私が小学生の頃がピークだった。
しかしそんな二人の間を取り持つかのように我が家にはアイドルの存在もあった。
祖父が亡くなる少し前から犬を飼っていた。
名前は「ラッキー」。何の雑種かわからない。
だがとても愛らしい優しい顔をしたオスの犬だった。
我が家は、初代がラッキーで2代目もラッキー。そして3代目もラッキーだ。
特に別の名前にするとか何の執着もないから誰かの「ラッキーでいいんじゃね?」ってひと事で何の反対もなくその名前に決まった。
ただ、ラッキーの名前の由来は不明。
この犬は母が友人からもらってきた。
母は「犬が苦手だから飼わない」と決めていたのに急に気が変わって突然家に連れてきた。
前触れもなく突然犬がいたものだから、当然、小学生の兄と私は大はしゃぎで、とても小さく可愛らしいラッキー🐶を可愛がった。
中でも一番可愛がっていたのは父だった。
母は犬が苦手だし、私と兄はラッキーが大きくなるに連れ、遊ばなくなり父が散歩や面倒をみていた。
やはりラッキーが一番父に懐いていた。
ラッキーは父が泊まりで帰ってこない日には、小屋に入ったままエサも食べず、ずっと泣いていたくらい。
父もラッキーが大好きだった。
一人っ子だった父と親元から離されて身寄りの無いラッキーが自分と重なったのかもしれない。
私が中学に入学すると同時に、一戸建ての借家からアパートに引越しをする事になった。当然、ペットは飼えない…
引越しをした日の夜、母から
「明日、友達の家にラッキーを預けるから。可愛そうだけど、それしかできなかったからね」
と告げられた。私は
「嘘。」だと思った。
友達なんて聞いたこともないし、こそこそ隠れて電話しているのも知っていた。
当日の朝、ラッキーは嫌がり、泣いていたのを今でもよく覚えている。
今になって、母が、
「あの時は、本当の事が言えなかったの。だってあんたが可愛そうでさ。でもね、保健所に預けた後、お父さんと二人で泣きながら帰ってきたんだよ。
あれは辛かったよ」と全てを話してくれた。
母はよく泣いていたが、泣く父は見た事がなかったので相当な出来事だったのだと思う。
雨漏りや隙間風、時々ネズミが走っていた戸建てから、新築のアパートへの引越しは嬉しかったけれど、同時に家族の一員であったラッキーとの別れも味わった。
あの時の
「心が締め付けられる辛さ」
は今でも強烈に記憶に残っている。
もし人生が終わってから、先に旅立っているラッキーに逢いたいな。
つづく
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