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眠りが持つ、多彩な顔

睡眠と不安の関係

カルフォルニア大学の研究では、不安障害と睡眠障害には強い相関があることが知られています。https://m.medicalxpress.com/news/2019-11-stressed-max-deep-rewire-anxious.html

研究では睡眠不足状態が不安レベルを30%も増加させる可能性が示されたそうです。被験者のうちで、睡眠不足状態に置かれた健常者群のさらに半数が、不安障害レベル(病的レベル)の不安を示しました。

この研究ではまる2日間睡眠をとらないという形で睡眠不足状態を作り出しましたが、不安を示した参加者の脳に、fMRIという脳のどこが活動しているのかを画像化する検査をすると、感情を司る部位および感情に基づく行動を準備する部位の活性化と、それを制御する部位との連絡の低下がみられたとのことです。

この不安状態は睡眠を再びとることで速やかに改善しました。著者たちは不安を制御するために、睡眠の改善にもっと着目するように促しています

睡眠とうつの関係

ところで、うつ病の治療の一つに断眠療法というものがあります。薬物療法と同じかそれ以上の有効率(60%)があります。しかも、この抗うつ作用は一日の全断眠(ないしは睡眠後半部分断眠)後、迅速に生じます。うつ状態の人においては、感情と感情に基づく行動の準備に全く抑制がかからないことで「抗うつ作用」となるというのであれば、興味深いですね。

ただ、この抗うつ作用もまた、再度眠ってしまうと消失しやすく、特に断眠後の朝から午前に眠ってしまうと、うつが高確率で再燃してしまうという弱点もあります。うつ病にも不安は高率に合併します。

実は眠れないことで不安になり、不安から更に眠れなくなることの、どちらが先に起きるのかという問題には決着がついていません。徹夜して、明るくハイになるというご経験をお持ちの人も多いでしょう。そうなると、睡眠不足にはそれを迎える状態により異なる作用があるようにも見えます。感情を司る部位が活性化することで、不安になるという今回の報告以外に、ネガティブな情報に60%反応しやすくなるという報告もあり、「眠れない(ネガティブ)」のと「眠らない(ポジティブ)」のでは、影響が異なるのかもしれませんね。

ちなみに断眠の抗うつ作用は、断眠後3日間をかけて、夕方ごろから始めて、眠る時間を徐々に夜にずらして戻していくと継続しやすくなります。

不眠の治療法

このように睡眠の多彩な顔を見てくると興味深いのが、現代の睡眠の変調に関する二大介入法の特徴です。

一つは、不眠認知行動療法(CBTi (Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia))で、その核になるのは睡眠制限法です。簡単に言えば「眠くなるまで寝るな」です。

眠れない不安で頭がいっぱいなまま、たくさん眠ろうと早く床に就くと、体が休まってしまう割に、頭はかっかと興奮し、体だけが何となく休養して、結果だらだらと浅い眠りが続いて寝た気になれず、更に不安が増します(眠れない)。しかし、敢えて眠くなるまで床に就かないと、いざ眠ったときに時間は短くなりますが深い満足した眠りができます(眠らない)。

もう一つは睡眠負債の返し方で、日々の睡眠不足があっても週末に2時間以上の平日との差をもって寝すぎると、週明けは眠れず、また、寝すぎた日には朝方から正午にかけて眠ってしまうことで抑うつ感に結びついたりします。朝寝坊はしてもいいけど2時間以内にとどめ、その代わりに平日の睡眠を30分程度早めることで、睡眠負債は健やかに返せます。

睡眠不足と不安の関係、断眠後に朝から正午の時間を避けて寝る時間を早めて、少しずつもとに睡眠を戻していくと断眠療法の効果が長続きする。健康な睡眠のための指導が理に適っていることが、こんな話からも全てつながりがあるように感じますね。

もちろん、普段のよい睡眠のための以下のような基本的な生活習慣もあります。断眠で抗うつ作用を求めるのは、非常に特殊なケースですし、眠らないことを選択できる日常場面は多くないでしょう。

今すぐ出来る不眠への対応方法

1. 朝の光を浴びる。
2. 日中に適切な疲労をする程度の活動をする。
3. 夜中にかけての激しい運動は避ける。
4. 規則正しい食事をする。
5. 寝る以外の時間に床に就かない。
6. 寝る直前は極端におなかが空かなければ、食べない。
7. 寝酒をしない。カフェインは眠る時間の3-4時間前に
8. 寝る前2時間程度はリラックスできる活動をする。
9. スマホやTVなどブルーライトを避ける。

などがあります。基本的には、こういったことを守っていくのが第一で、不安にもうつにも予防的に働きそうですね。

つまり。たまに眠れないときの不安に巻き込まれない、寝だめをしてしまって生活を崩さない、ことが不眠予防には大切です。


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