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英語学習で大切にしてきた道標

英語を学ぶ理由は、人それぞれだと思います。

テストで高得点を得るため、入試や昇進のため、映画を字幕なしで楽しむため。世界で広く話されている言語なので、多国籍の方との交流を目標にしている人もいると思います。

しかし、言語学習には、「簡単には上達しない」という難しさがあります。

第二言語として語学を勉強する場合、信じられないほどのスピードで習熟度が上がるということは、ほぼあり得ません。

芸術や運動のように、地道な訓練を習慣化することが成長に不可欠です。

そして、学習を継続するためには、目標の設定がとても重要です。

なぜ英語を学ぶのか。そして、英語を学んだ後にどんな結果を望むのか。

テストの点数や昇進などは具体的で測定可能な目標です。

ですが、ひねくれ者の私は、点数だけで喜べない時期がありました。また企業にも属していないため、出世とも無縁。言語学習のモチベーションは、テストなど外的な尺度に頼るのではなく、習熟度を自身で図る内的尺度を大切にしてきました。

英語の検定などで習熟度を測った経験が少ない私ですが、英語学習においては「道標」と呼べる確固たる指針を実は持っています。

この「道標」に出会えなければ、アメリカの大学は卒業できなかっただろうし、英語を活かす職業にはたどり着けなかったと確信しています。

この記事ではそんな、英語学習における私の「道標」をご紹介します。



5Cとの出会い

米オハイオ州のWittenberg大学に留学していた時でした。今でも大切にしてる言語学習の「道標」に出会いました。

当時、私はアメリカの学生に日本語を教えるアルバイトをしていました。アルバイト向けのオリエンテーションで、日本語学科の教授から薄い冊子を手渡されました。

資料の表紙には、こう書かれていました。

Standards For Foreign Language Learning: Preparing for the 21st Century

外国語学習のスタンダード: 21世紀への準備

https://www.actfl.org/uploads/files/general/Documents/AppendixAStandardsforFLLexecsumm.pdf

米国政府教育省の支援を受け、全米外国語教師協会をはじめとする複数の教育団体が協力し発行した冊子で、外国語学習における基本方針(以下スタンダード)が書かれていました。

このスタンダードには「TOEIC〓〓点が大学卒業レベル」というような明確な数値目標は記載されていません。

しかし、その代わり、言語学習における大切な目標領域「5つのC」が掲げられています。

あくまでも、英語を母国語とするアメリカ人の学生が外国語を学ぶ際に参考にする指針です。しかし、日本語を母国語とする人が英語(あるいは違う言語)を学ぶ際にも役に立つ内容です。

私は、この「5つのC」を英語学習の「道標」として応用することで、継続的に学習意欲を燃やしてきました。


5Cの内容

では具体的に、5Cはどんな目標領域を意味するのか。

5CはCommunication, Cultures, Connections, Comparisons, Communitiesという5つのCで始まる単語の頭文字を意味します。

Communication(コミュニケーション)

母国語以外の言語コミュニケーションが第一の目標です。まずは、異なる言語での意思疎通を目標にする。

孤独な勉強に満足するのではなく、他者とのコミュニケーションを通じて言語の魅力を感じ、成長を目指します。

Cultures(文化)

異なる言語でのコミュニケーションを続けていると、言語そのものだけではなく、他国の文化に関する知識が次第に深まっていきます。

簡単な例を挙げると、英国でフットボールといえば「サッカー」を意味しますが、米国でフットボールといえば「アメフト」を意味する、など。文化が映し出されている言語の側面に気づきます。

こうした文化への理解度も、言語学習における習熟として評価します。

Connections(つながり)

ある程度の習熟度に達すると、他の教科や分野の知識を他言語で習得・強化できるようになります。

英語でしか配信されていないニュースを読み、直接情報を得ることが分かりやすい事例です。

他言語を使って自分の知識の幅を広げる行為(情報をつなげる)も、評価基準となります。

Comparisons(比較)

学習している言語と母国語を比較することで、文化や言語に関する理解を深める。

「言語を学習していたからこそ、日本語の文化を客観的に分析できる」。そんな場面があります。

わかりやすい例を挙げると、兄弟や姉妹という表現に内在する日本の文化です。英語で兄を表現する場合はolder brotherとなりますが、日本語では漢字一文字で伝わります。この一点だけ分析しても、年齢だけでは割り切れない日本独特の文化がわかります。

こうした言語の違いを知ると、それぞれの文化を分析できる力が身に付いてきます。

そして、この「文化を比較できる能力」も、目標領域の一つとなります。

Communities(地域・社会)

そして、言語学習で学んだ全て能力を、地域や社会で実際に活かす。

この実践の場面は、言語学習の魅力を感じる機会に溢れています。

この魅力を感じる場面が増えれば増えるほど、継続的な学習につながっていくでしょう。


言語学習はLife-long Learning Process

私がずっと大切にしてきた5Cですが、数値目標の意義を完全否定するものではありません。

国連など国際機関で活躍できる習熟レベルを目指すならば、厳しい特訓が不可欠です。

ですので、短期的には、明確な数値目標も重要と思っています。

使用できる語彙を増やしたり、文法を正確に理解する能力はとても大切です。

ですが、よく使用するフレーズを覚えてしまって、簡単な日常会話をこなせるようになってしまうと、さらなる習熟を目指すためのモチベーションを維持するのが、だんだん難しくなってきます。

私はそんな時はいつも、この5Cを思い出してきました。

「もっと文化を理解して、さらに深い議論がしたい。そのために、複雑なコミュニケーション能力が必要だ!」

複雑なコミュニケーションを可能にするのは、文法だけでなく、豊かな語彙力、リスニング力など総合的な力が必要です。

振り返ってみると、意欲がなくなったら原点である5Cに立ち返り、探究心を刺激し直した場面が幾度もありました。

私の場合、「Life-long Learning (生涯をかけた学習)」として、英語学習を習慣化できたのは、「5Cのおかげ」といっても過言ではありません。

言語を学びたい人、私のように現在進行形で奮闘中の方など全ての学習者にとって、この5Cが少しでも参考になれば、幸いです。

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。


注1

「外国語学習のスタンダード: 21世紀への準備」はその後改名され、現在では「World Readiness Standards for learning language」という名称となっています。

https://www.actfl.org/educator-resources/world-readiness-standards-for-learning-languages


注2

このスタンダードは、「文化」の定義などに関し学術的な批判もあります。この記事では、あくまでも個人的な体験談として魅力をお伝えしました。

頂戴した温かいご支援は、取材と執筆に活用させていただきます。ここまでお読みくださり、感謝申し上げます。ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。