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市内からシャッター温泉街に創業112年のKOBIRAが本社を移す、「会社」と「自分」の5個の理由

今月末に日置市に作った新本社の引き渡しがある。今までいた鹿児島市中心部のオフィスも引越し準備は、ほとんど終わり、いくつかのぽつんと机が残されている。

これから移転する新本社にはいくつかの特徴がある。
・日置市のシャッター温泉街の湯之元という街にある。
・常時出社するのは75名の参加者のうちの5名くらいで、あとは分散勤務している。
・会社でありつつ、地域コミュニティの第2公民館としても機能する。
・この建物だけでなく、周囲の街の空き家を回収してオフィスにする「街まるごとオフィス」プロジェクトも行う。(1箇所目が同時オープン)

何故、KOBIRAみたいな創業100年を超える古い会社(私で4代目)の本社がそういう訳わからない事になったのか、それは、「会社」としてのそれが必要な理由と、そして社長である「自分」の理由が重なった結果だと思う。ここに至った経緯やどういう要因で本社移転という経営判断を行ったのか、日記代わりに残していこうと思う。

本社移転の経緯

今のオフィスは自社ビルが鹿児島市の県庁のすぐ近くのそれなりに便利な場所にある。平成元年に先代(父親)が建てて、会社の発展と共に歴史を重ねてきた。

本社を移転するというのは、もともとは本社ビルが古くなってきたことと、Covidの最中にリモートワークがほとんどになってきて、本社勤務の40名のうち半分以上がリモートになった事が発端だった。2022年から会社の大改革をする「第4創業プロジェクト」を行う中で、会社の社内規則も変え、フルリモートOKになったり、コアタイムありフレックスにした事もその状況を後押しした。

本当は鹿児島市内の郊外あたりで探していたのだけど、結局は、市長からの熱烈アタックもあり、鹿児島市から真西の方にある、高速で30分ほどの日置市湯之元という、昔は歓楽街として栄えていたシャッター温泉街に本社を移転することにした。

「御社の規模なら次は福岡や東京に本社を移るのが普通じゃない?」「どう事業にプラスになるのか?」という疑問質問は当然で、現在進行形で色々と聞かれるので、理由を思い出してみる。

鹿児島市と日置市の位置関係

老舗企業がシャッター温泉街に本社を移す5個の理由

理由① KOBIRA Vision2032の達成には本社移転が有効だった

2022年にMVVの設定をし直しVision2032の中で、「Vision2 地域だからこその可能性が花開く、ワクワクあふれる街を生み出す」があり、このVIsion2を実現するためには、鹿児島市内よりも湯之元の方ができるよね、というのがまず理由としてある。ステークホルダーが少ないので、企業がその地域に与える事ができるインパクトが大きいのと、市長を始めとした行政との距離も近く、密な連携ができるからだ。

KOBIRA Vision 2032

理由② 人的資本への投資として有効だった

それにプラスしての、もう少し生々しい企業経営という部分でのメリットは、「シャッター温泉街に本社を移すという、大企業が絶対に真似できないムーブをすることで、人材が入りたいと熱望するようなオンリーワンの会社になれる」事だと思っている。

現在の人材不足な社会の中で、「人的資本への投資」、つまり人が採用でき、成長し、結果を出せ、かつ幸福度の高い職場にすることへの投資が重要になっている。特に鹿児島みたいなエリアでは人が採用できること自体が会社の競争力を大きく高めると思っている。

そんな環境で本社の場所一つで優秀な人材が面白がって「この会社、訳わからなくてなんか面白そう。関わってみたい」と集まってくれるなら、全然安いものだ。また、社内規定をフルリモートOKのフレックス制度にし、フルリモートで働く社員も増えてきたので、わざわざオフラインで集まる本社を、来る意味のある場にするというのも理由だ。温泉があり、サーフィンも出来、海鮮もある湯之元と縁ができることは集まるモチベーションになる。

新本社から5分でビーチいける。今年はボードも買ってもっと行きたい。

理由③辺境の「場」からイノベーションを起こせる気がしている

「Place Based Innovation」(地に根ざしたイノベーション)という言葉がある。自分の理解では、特定の地(place)に根ざすことで、老いも若いも、意識が高いも低いもさまざまな多様性を内包し、面白いイノベーションを起こせるよね、というアプローチと理解をしてる。

東京で、イベントシールを貼りまくったMacを持った20代後半から30代前半男性の細身センスメガネが集まってスタバのソイラテ片手に「イノベーションって多様性大事だよねー」みたいなことを言ってるような集まり(小平の偏見)とは、ベクトルの違う面白さがPlace based innovationのアプローチにはあると思ってる(とはいえ、ビジネスの成功確度は細身センスメガネ集会の方が高かったりするのでビジネスって面白い)。

「イノベーションは辺境から起きる」というが、KOBIRAのような老舗地域企業はいくつかそれを起こせるポテンシャルがあるとは思ってる。ここはいくつかプロジェクト進んでいくので、何か世に出せるかの社会実験を行なっていけたらと思ってる。

理由④街の未来を妄想し、実際に景観を作る事ができるチャンスって人生でそう無い

これは経営者として自分の個人的な理由になるんだけど、街の景観を作ることが楽しくなったというのがある。

2021年にハマポケという無料で使えるシェアカフェを作った。これは、その年にKOBIRAがやたら儲かったので、節税も兼ねてノリで作った。出店者が集まるとも、お店に客が来るとも全く期待してなかったけど、なんか意外とバズったし、今では街のランドマークになってきていると思う。

デザインの良い建物は、街の風景を変え、コミュニケーションの流れを変えるということに、個人的な興味が出てきた。そんな時にちょうどハマポケの向かいの場所が空いて、もしここに新本社移転してヤバい建物できたらどうしよう、と当時、夢中になってしまった。

KOBIRA新本社 1st案

ちなみに、最初の新本社のデザイン案は上記だった。「社会に安心と希望を与えるというミッションを体現するなら、新本社は灯台をモチーフにして、テッペンから光のビーム出さなきゃダメだよね」みたいな、事を言っていて、いかにその時のテンションがアホになっていたか思いだされる(これを全社集会で発表した時のどよめきを覚えてる)。

この案は建設費が予算の倍以上かかってしまう事がわかり諦めたのだけど、ちょっと街の景観との調和という意味では、やりすぎだと思うので、やらなくて良かった。今のデザインは、1st案とはまた違ったザハハディド建築のような曲線の美しさと、特に夜に見ると曲面の天井のライトから漏れ出る光が宇宙基地感があって気に入ってるし、街の景観により調和していると思っている。

理由⑤ なんか周りの人が喜んでくれてる。

これも、個人的な理由なんだけど、「なんか周りの人が喜んでくれている」。この点は、会社にとっても大事な気がしてる。湯之元の街は、元々は近隣の街のマグロ遠洋漁業の漁師さんたちが遊びにくる温泉付きの歓楽街だった。40-50年くらい前までは、芸者さんがいたり、沢山の飲み屋と、映画館や芝居小屋があったりして、自分も幼少期に祖父母の家(今のHamapokeがある場所にあった)に泊まった時の街の喧騒を覚えてる。それがマグロ漁が静岡の方に移り、同時に歓楽街としての湯之元も下火になってしまった。街の先輩方と飲むとその喧騒を皆が懐かしく思い、今の静かさを少し寂しくも思っているようだ。そこに、新しい施設が出来ることは、少し歓迎してもらえてるんじゃないかと思う。

それもあり、今回、新しい本社は、公民館のように街の人に解放された場に出来たらと思ってる。まずは週末に知り合いから解放を試していこうと思っている。でかいモニターもつけたので、正直、カラオケ大会とかやってもらっていいし、街に2次会出来る場所もあまりないのでワインセラーも買ってワイン詰め込むし、毎週金曜はコミュニティの人も含めてランチ会もやりたい。

新しく出来る場をいわゆる”コモンズ”(コミュニティの共有財産)として運営するというのは、資本主義の微調整が求められる今の時代の取り組みとして一周回って先端だ。新本社を日常と非日常がクロスする汽水域として「今、KOBIRAや湯之元って面白そう」を作っていければ、街も会社もゆるーく、いい感じになっていくんじゃないかと思う。

これからの究極の地方中小企業とは

色々と企業経営者としてのもっともらしい理由を挙げたけど、自分が思い描く「究極の地方中小企業」は、東京とか福岡には行かないよね、と感覚的に思ったからというのもある。

地方の企業は、力を入れるところと、脱力の使い分けが大事だと最近思う。全てが合理とロジックで行くのではなく、非合理と感性も内包しながらオンリーワンを目指す。非合理の訳の分からなさで人を惹きつけ、場を通じて独自のイノベーションを起こしていく。そんな感じがこれからの地方企業の経営だと思うし、one of themにならない方向に行き続ける、というのも意識するべき経営パターンの一つなんじゃないだろうか。

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