ヨシノ

純文学系の読書感想文などを書いています

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【読書感想文】小泉八雲 『耳無芳一の話』 --芳一はなぜ耳を取られたのか。

 寺に住む盲目の琵琶法師芳一は、とある高貴な人の使いに乞われて出かけ、平家物語を吟じた。  だが後を付けた寺男によって芳一を呼び出したのは平家の亡霊であることが明かされ、身を守るために全身に経文を書きつけられたが、書き忘れた耳を亡霊にもぎ取られた。  芳一はなぜ耳を取られたのか。  それはもちろん相手の正体が亡霊であったからではあるのだけれども、相手が亡霊であることを知る以前は芳一は無事に解放されて戻っていたのであるから、それだけが理由ではないように思われる。とすれば、こ

    • 【読書感想文】夏目漱石『夢十夜』第一夜 --果たして、百合は、女なのか。

      第一夜。  ”こんな夢を見た。  女が死ぬ。女は男に百年待っていて下さい、きっと会いに来ますから、と言う。 男は星の破片の墓標の傍で日を勘定しはじめる。 待ち続け、やがて女にだまされたのではないかと思いだしたころ、目の前で百合の花が咲いた。 百年はもう来ていたのだ、と男は気付いた。”  さて、夢十夜は「こんな夢を見た」から始まる十の夢の物語である。  まず『夢十夜』を読むうえで、「夢」の構造を意識しておく必要があるだろう。  夢は夢である。夢である限り、そこでは現実的な客観

      • 【読書感想文】夏目漱石『夢十夜』第十夜 --夢を醒ます夢

        「こんな夢を見た」から始まる不思議な夢の世界、その終幕が第十夜である。  第十夜では、健さんが語り手に庄太郎の話を伝えに来る。  庄太郎はパナマ帽がトレードマークの、というからにはおそらくそれなりに裕福な、町内一の好男子で、至極善良な正直者だという。  ただ水菓子屋の店先で女の顔を眺めるのが趣味なのだから、少々軽薄な印象の人物ではある。  その庄太郎が「女に攫われてから七日目の晩にふらりと帰って来て、急に熱が出てどっと、床に就いている」のだと健さんはいう。  身分のありそう

      【読書感想文】小泉八雲 『耳無芳一の話』 --芳一はなぜ耳を取られたのか。

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