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中国の漢字にまつわる吉祥と禁忌



どこの文化にもタブーがある。

うっかり犯すと、恥をかいたり、顰蹙を買ったり、
運が悪いと、殴られたり、処刑されたりする。

中国の漢字にまつわる吉祥と禁忌について、
知ってるからつまらん、と言われるのを覚悟で書いてみる。

「四」と「九」と「八」

さて、「四」については、日本と同じ。
中国語でも「四」は「死」と同じ発音なので、避ける。

中国語で「九」は「苦」とは発音が違うので、避けない。
と言うか、「九」は「久」と同音なので、好まれる。
「天長地久」の「久」だから、格別に縁起がいい。

しかも、「九」は、奇数の最大数だ。 
奇数は、陰陽思想では「陽」なので、めでたい。
だから、旧暦九月九日の重陽節は、ダブルでめでたい。

ちなみに、台湾では、旧暦九月九日は、敬老の日でもある。

「八」もまた、めでたい。
日本では、字形が末広がりで縁起がいいとされるが、
中国では、発音が「発」に似ているので、縁起がいい。 

「発」は「発財」(金を儲ける)を連想させる。
中国語では、新年の挨拶「明けましておめでとう」は、
「新年快楽」と並んで、「恭喜発財」が定番だ。

新年早々「金持ちになりますように」だから、露骨ではある。

「恭喜発財」の飾り紙

「八仙」は、おめでたい仙人の集団。
日本の「七福神」みたいなものだが、中国では「八仙」だ。

八仙

おまけに、飲んべえの集団も「八仙」だ。

杜甫の詩に「飲中八仙歌」というのがある。
一斗詩百篇の李白を筆頭に、酔うと座禅を始めたり、井戸に落ちたり、
始末の悪い酔っ払いたちを讃える詩だ。

飲中八仙

中華の「八宝菜」は、具材が何種類であれ「八宝菜」と呼ぶ。

外股のことを「八字脚」という。
「ガニ股」と言われるより、よっぽど聞こえがいい。

香港では、車のプレートナンバーは、オークションで売買される。
「8888」は、とんでもない額になる。
一桁の「8」となると、もっととんでもない額になる。

「時計」と「梨」と「傘」

人に置き時計をプレゼントしてはいけない。
置き時計は、中国語では「鐘」という。
「送鐘」は「送終」(最期を看取る)と同音になる。

腕時計は「表」なので、セーフ。

傘を贈るのもタブー。
「傘」は「散」(分散する)と同音だ。

同じ発想で、梨を分けて食べるのもタブー。
「分梨」は「分離」(離別する)と同音だ。

「魚」

日本では、鯛がめでたい。
中国では、魚なら何でもめでたい。

「魚」は「余」(ゆとり)と同音だ。
「年年有余、歳歳平安」というめでたい常套句がある。

毎年毎年、生活にゆとりがありますように、
毎年毎年、平穏に暮らせますように、という意味だ。

中国の年画(春節の吉祥画)では、
丸々太った赤ん坊が魚を抱えているのをよく見る。

年画

「桃」

「桃」は、邪気払いをする。
これは、日本でも同じ。
だから、鬼退治は「桃太郎」でなくてはならない。
「スイカ太郎」や「リンゴ太郎」では困る。

なぜ、桃なのか?

春の陽気が陰の邪気を制するから、と言われるが、
春の植物はほかにも沢山あるのに、なぜ、桃なのか?

これもまた、漢字の発音によるものだ。
「逃」と同じ発音なので、邪気が逃げる、ということらしい。

「困」と「福」

発音ばかりでなく、字形によるものもある。

中国の伝統建築に「四合院」というものがある。
庭を囲んで、その四方に建物がある形状だ。

この中庭のど真ん中に木を植えてはいけない。
四角の中に「木」を入れると「困」(困窮)になる。

四合院

字をひっくり返してめでたいこともある。
「倒福」(「福」をさかさにする)は「到福」(福来たる)と同音になる。

日本でも、中華街で、こういうもの ↓↓↓ をよく見かける。

倒福

「避諱」

昔の中国には、犯すと怖い「避諱」の慣習がある。

とりわけ、皇帝に関しては、名や諱だけではなく、王朝名や元号も、
みだりに用いることは許されない。
 
清の雍正年間、科挙の試験官が「維民所止」という句を使って出題した。
『詩経』「商頌」の詩句から引用した由緒正しい言葉なのだが、
これが、雍正帝の逆鱗に触れて、大変なことになった。

何がいけなかったのか?

「維」と「止」の字形が、「雍」と「正」の首を刎ねたものと見なされ、
不届き者!となった。
試験官は投獄され、獄中で病死し、死体は路に晒された。

「避諱」について、詳しくはこちら。↓↓↓

「同音=同義」の伝統

こうしてみると、中国の漢字にまつわる吉祥や禁忌は、
大半が、発音が同じだから、あるいは似ているから、というものだ。

こじつけには違いないが、ただのこじつけと片付けることもできない。

中国には、『説文解字』以来、「同音=同義」とする訓詁学がある。
『説文解字』は、漢代の許慎が編纂した中国最古の字書だ。

「鬼」(死んだ人、つまり幽霊)の字義を見てみると、

 鬼は、帰なり。
(鬼は、人の帰するところである。)

と記されている。
「鬼」と「帰」は、同音だから同じ意味、という語釈だ。

『説文解字』

中国は、2000年以上前から、こうしたこじつけをやっている。
だから、この発想は、とても根深い。
発音が同じだと、なんでもかんでも、やれめでたい、やれ不吉だ、となる。

「寿」

一見いかにもおめでたく見えるものが曲者だ。

「寿」は、長寿、福禄寿の「寿」だから、
もちろん、基本的には、おめでたい。

飲茶では、誕生日祝いに「寿桃」という点心がある。 

寿桃

ビートルズが来日した時、「寿」の はっぴを着ていた。
日航がプレゼントしたということだ。

ビートルズ初来日(1966)
日航がビートルズに贈った JAL はっぴ

日本でのことだから問題はないが、中国では有り得ない話だ。

中華文化圏では、衣類に「寿」の文字は禁物だ。

中国語で「寿衣」と言うと、死者に着せる服、つまり死装束だ。

「寿」は、長寿を表すが、葬儀に関する事柄では、
寿命が尽きた、天寿を全うした、という意味合いで使う。

「寿材」は、棺桶。
「寿穴」は、墓。

中国人に「寿」のはっぴを贈ったら、ジョークではすまない。


中国の寿衣はカラフル!


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