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【北京随想】幼稚園の授業料を値切った話

30年前の話。
家族同伴で北京大学に赴任した。

小学校低学年の娘は、日本人学校に通わせた。
当初は、北京大学付属の小学校に入れることも考えたが、
学校の壁がくずれて生徒が下敷きになった、
という話を聞いてしまった。

息子は、まだ幼稚園児だった。
日本人幼稚園は北京になかったので、選択肢はなく、
北京大学付属の幼稚園に入れた。

北京大学附属幼稚園

北京大学附属幼稚園は、原則、大学関係者の子女のみ受け入れる。
外国人学者の子女を受け入れることはない。
と言うか、そもそも幼稚園児を連れてくる外国人は、滅多にいない。

特殊なケースなので、入園案内書のようなものもない。
大学は同伴家族の世話まではしないので、自分で手続きすることになった。

どうなるかわからぬまま、とにかく事務室に足を運んだ。
すると、入園に関する事務書類のようなものはなく、
授業料については、口頭で、1万2千元と告げられた。

当時の中国の物価からすれば、べらぼうに高い。
「え~、高いんですね!」
と、つい本音を口にした。

その後、二言三言、授業料に関して、その内訳について説明を求めた。
値段交渉のつもりではなかったのだが、わたしの表情が渋く見えたのか、
窓口の事務員は、わたしが不満を訴えていると思ったらしい。

「ちょっと待て」と言って、奥に入っていった。
しばらくして戻ると、
「よし、では、6千元にする」
と言ってきた。

なんだかよくわからなかったが、ともかく半額になって良かった。

中国には「討価還価」の慣習がある。
「討」は求める、「還」は返す、という意味。
売り手が価格を要求し、買う側がその額を下げて返す。
つまり、ふっかけたり値切ったり、という値段交渉だ。

買い物では、百貨店やスーパー以外は、「討価還価」するのが一般的だ。
市場や個人商店など、値札がついていない場合は、たいていこれをやる。

客: これいくら?
店: 100元。
客: 高いな、50元にしてくれ。
店: そりゃ無理だ。90元にしてやる。
客: いやあ、まだ高い。60元なら買う。
店: いや、そりゃ無理だ。
客: なら、要らない。
(と言って、客は立ち去るふりをする)
店: 待て待て、じゃあ70元だ。
客: OK

というお決まりのパターンがある。
店がふっかける値段の半額ほどで客が返し、交渉を経て、
最終的に、双方の主張の真ん中あたりで手打ち、という流れになる。

日本人からすると、恥ずかしいとか、面倒くさいとか思うかもしれないが、
中国人にとっては、これは当然やるべき儀式のようなものだ。

交渉はゲーム感覚だ。
より高く売れれば店の勝ち、予算以下で買えれば客の勝ち、
ということになる。

まさか幼稚園の授業料で「討価還価」できるとは思ってもいなかった。
わたしが「還価」する前に、半額になった。

この勝負は、わたしの完勝、
と言うか、不戦勝であった。

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