【回文詩】無名氏「晩秋即景」~上から詠んでも下から詠んでも夕陽の漢詩
シンブンシ(新聞紙)
ヤオヤ(八百屋)
のように、上から読んでも下から読んでも同じになる語句や文章を「回文」と言います。
タケヤブヤケタ(竹藪焼けた)
イカタベタカイ(イカ食べたかい)
カバハバカ(カバは馬鹿)
ジイサンテンサイジ(爺さん天才児)
英語にも、例えば、こんなものがあります。
Madam, I’m Adam. (奥様、僕はアダムです)
Borrow or rob?(借りようか?それとも奪っちまおうか?)
Was it a car or a cat I saw?(僕が見たのは車?それとも猫?)
以下は、中国語の回文です。
你打我,我打你(お前が殴るなら、俺も殴るぞ)
人驚鬼,鬼驚人(人は幽霊を怖がり、幽霊は人を怖がる)
媽媽愛我,我愛媽媽(ママは僕を愛し、僕はママを愛す)
上海自來水來自海上(上海の水道水は、海から来る)
上水居民居水上(上流の住民は、水上に住む)
國泰飛機飛泰國(キャセイパシフィックの飛行機が、タイに飛ぶ)
船上女子叫子女上船(船上の女性が、子供たちに舟に乗るように言う)
中国語は、漢字一つ一つに意味があり、基本的に、それを並べたり入れ替えたりして文を作ります。文法的には、とても単純なので、回文を作りやすい言語です。
漢詩にも、回文詩というものがあって、遊び心のある詩人たちが、遊興的に作っていました。
作者未詳の「晚秋即景」と題する七言詩は、その一例です。
秋の夕暮れの情景を詠んだ味わい深い詩です。
さて、この詩を逆さまにして、下から順に漢字を並べ直すと、このような詩になります。
こちらも、同じように、秋の情景をしみじみと詠った詩になっています。
どちらも表現に無理がなく、ごく自然な漢詩に仕上がっていて、両者とも、甲乙付けがたい秀逸な七言詩です。
しかも、
前者は、「迢(チョウ)」「遙(ヨウ)」「蕭(ショウ)」
後者は、「邊(ヘン)」「前(ゼン)」「煙(エン)」
というように、しっかりと押韻もしています。
この完成度には驚かされるのですが、実は、驚くのはまだ早いのです。
「璇璣図(せんきず)」と呼ばれる回文詩があります。
五胡十六国時代の前秦の時、竇滔(とうとう)の妻蘇蕙(そけい)が、遠くへ赴任した夫を恋しく思い、絹織物に文字を縫い込んだとされるものです。
29字×29字、計841字。上下左右、どこから詠んでも詩になります。
三言・四言・五言・六言・七言の詩、計7,985首の詩が、ここから読み取れるといいます。
まだ字書すらなかった時代、電算処理をしても難しいような詩を作り上げたのですから、驚くべき代物です。
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