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vol.4『Sociology of sport(スポーツ社会学)その②-トップスポーツ組織におけるコーチとアスリートの役割-』

引き続き卒業試験対策の勉強内容をまとめていきます。

「目的-手段関係」と「パフォーマンスロール」

目的-手段関係とは、経済学の概念で、特定の目的または目標とその目的を達成するために必要な手段との関係を指します。つまり、適切な手段が用意され、効果的に使用された場合にのみ、特定の目的を達成することができます。

パフォーマンスロールとは、組織やグループの人々が、共に目標を達成するためにとるさまざまな役割のことです。グループの全員が、目標を達成するために果たさなければならない特定のタスクや役割を持っています。これらの役割は、文脈や目標によって異なり、プロセスの中で変化することもあります。重要なことは、すべての役割が共通の目標を達成するために効果的に協力することです。

下の図はトップスポーツにおける、目的達成のためのパフォーマンスロールを表したものです。

eigene Grafik, in Orientierung an Cachay & Thiel, 2000

第一のパフォーマンスロール「アスリート」

まず競技スポーツにおける最も優先するべき目的は、その競技で大きな成果を上げることにあります。僕が関わっているドイツの柔道ナショナルチームで言えば世界選手権やオリンピックでのメダル獲得などです。

そしてその目的を達成するための第一の手段としてのパフォーマンスロールにアスリートが存在します。競技を行うのはアスリート自身であり、競技の成功に直接関与することからアスリートが第一の手段となります。

しかし同時にアスリートには目的としてのパフォーマンスロールも含まれています。これは「高い競技パフォーマンス能力」があるアスリートが必ずしも「競技で成功」するわけではないですが、「競技での成功」には「高い競技パフォーマンス能力」が必要であるからだと考えられます。

つまり、目的①「競技ので成功」を達成するためには、目的②「高い競技パフォーマンス能力」の達成が絶対条件になるということです。よってアスリートには自身の競技に必要とされる身体的、精神的能力を高めるための努力や行動が求められます。

第二のパフォーマンスロール「トレーナー」

そしてそのアスリートを指導する立場にあるトレーナー(指導者/コーチ)が第二の手段としてのパフォーマンスロールとなります。

トレーナーはアスリートが高い競技パフォーマンス能力を習得するために必要なトレーニングの量や強度、内容、出場する試合のレベルやタイミングなどを考え計画を立てます。

そして柔道はその競技特性上かなり多様な能力の開発が必要となります。
*この内容に関しては以前の記事vol.2 『Requirement profile of Judoka(柔道家の要件プロファイル)』に挙げているので参照してください。

そのことから、ここでのトレーナーは自身の所属チームの指導者だけでなく、ナショナルコーチ、アスレティックトレーナー(フィジカルコーチ)、などアスリートのトレーニング計画のデザインや指導に関わる全ての人物を指します。

僕の所属しているケルンのトレーニングセンターにもアスレティックトレーナーやナショナルコーチ、NRW州の女子代表監督など組織内の異なる領域や階層の指導者が混在しており、お互いに意見交換をしながら、アスリートのトレーニング内容を決定し、誰がどの試合や合宿に帯同するか、または誰がナショナルトレーニングセンターに残っているアスリートの指導をするかなどを決めています。

各アスリートによって優位な筋繊維タイプ(遅筋優位か速筋優位か)、体重のマネジメント方法(減量のタイミングなど)、年齢による回復速度の違いなど状況は様々です。

だからこそ各専門家が可能な限りトップアスリートにはパフォーマンスを最適化できるようにトレーニング内容と試合の日程を個別化する必要があります。

競技スポーツの目的であるアスリートの「競技での成功」と「パフォーマンス能力の向上」のための手綱捌きをするのがトレーナーの役割であることから、「トレーナー」が第二の手段として位置付けられているのだと考えられます。

第三のパフォーマンスロール「ケアスタッフ」

ケアスタッフとはトレーニングや試合以外でアスリートを支援する役割の人物を指します。ドイツで言えば、ドイツ柔道連盟所属の理学療法士やドクター、ドイツオリンピック連盟に所属しているメンタルコーチや栄養士などが挙げられます。

トップアスリートにとってトレーニングで心身を鍛え上げ、パフォーマンス能力を高めることは必須ですが、それに加えて次のトレーニングや大会に備えて心身を回復させることも重要なタスクとなります。

また、アスリートには怪我による長期離脱の可能性も考慮しなければならず、手術やリハビリが必要になる場合もあります。ドイツ全国で数カ所あるオリンピックトレーニングセンターには必ず近くに提携している総合病院があり、アスリートが大きな怪我をした場合には直ちに精密検査を受けることができ、優先的に手術を実施することができるようなシステムをとっています。

加えて、様々なオリンピックスポーツがアスリートのためのリハビリテーション施設とも提携をしており、理学療法士やスポーツ科学者がアスリートの怪我に合わせたトレーニング種目の提案とプランニングを行い、復帰のサポートをしてくれています。

ケルンのスポーツリハビリ施設 Pace

このようなドイツ柔道連盟に所属はしていないが、アスリートがリハビリ中にパフォーマンスを取り戻し、あるいはさらに向上させ、再び競技に戻るためのサポートしてくれる人たちも、この第三のパフォーマンスロールに入ると考えれらます。

第四のパフォーマンスロール「幹部/マネージャー」

ここでの幹部やマネージャーというのは、アスリートが練習する環境を整えたり試合に出場するためのオーガナイズ、さらにはスポンサーやポジティブなイメージ獲得のためのマーケティング活動などをする人のことを指します。

ドイツ国内にあるナショナルトレーニングセンターではそれぞれの道場を管理する責任者がおり、柔道場の使用時間やトレーニング器具の調達や管理、寮生活をしているカデ・ジュニアアスリートの進学先・就職先の仲介など様々な仕事があります。

また国際大会に参加するためには、柔道連盟を通しての申し込みが必要であり、ホテルやビザ、航空券やシャトルバスの予約など様々なオーガナイズをしなければなりません。

また大会や遠征に使える予算にも限りがあるので可能な限り効率的で経済的に予定を立てる必要があります。日本で合宿をしてから直接GSウランバートルにて試合に出るなど、移動費と移動時間を減らす努力が必要になります。

このような組織の運営の枠組みを作る人たちもアスリートの目的の達成には欠かせない存在となります。

これら4つのパフォーマンスロールが共通の目的を持って相互に協力しあい、各々の専門分野で適切な役割を果たすことで、組織というシステムが機能し、アスリートの目標・目的である「競技での成功」の達成が可能になります。

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