目的地をぼやかすこと
久々に旅をしました。
母と広島を2泊3日で。
私は広島を2度訪れたことがありますが、スタジオムンバイ設計の、尾道のLOGにどうしても泊まりたかったこと、さらに母が広島未訪問だということで、広島に行くことにしました。
広島市、宮島、西条、竹原、そして尾道を巡りました。
LOGのことやそれぞれのまちのことは書いても書ききれません。これらはいつか時間がある時に書くかもしれません。今回はそれよりも自分の中で確信に変わった、旅の目的の変化について記録しておこうと思います。
(とはいえLOGは一つのその「目的」だったのですが…)
私はプロフィールにある通り建築を学んでいます。
学び始めた当初は、「良い建築を作るには良い空間の体験が1番」と述べる建築家や教授の声をそのまま素直に聞き入れ、とにかくあらゆる空間を体験する為に、ありとあらゆる建築を目当てに色んなところに行きました。
「美味しいものを作るには、美味しいものを知っていなくてはいけない」と同様に
「いい空間を作るには、いい空間を体験しなくてはならない」
これは事実だと思うし、建築設計をする上でものすごく大切だと思います。実際に建築を学んだ方や学んでいる学生さんは何度も耳にしている言葉だと思います。
しかし恥ずかしながら、数年前(特に留学前)までの私は、「建築」つまり「建物」というある1点の焦点にだけ向かって、自分の中の体験を蓄積しようとしていた、ということに気付きました。
つまり、ある建物や空間を目当てに車を走らせ(または電車や飛行機に乗り)まわりの景色や土地感に関して、意識をあまり向けていませんでした。もちろん街並みを感じてはいましたが、「なんとなく」の非日常を消費していたというか。
そんな「建築」目的の旅の仕方がかわったのは、留学してからだった気がします。
ドイツで留学した時は、とにかく周辺諸国などをよくまわったのですが、いろいろな場所に行きたいが故にあまりお金も無かったので、歩ける距離はとにかく歩くようになりました。
1時間くらいの距離を歩いたこともあります。次第に徒歩30分なんて可愛いものだと思うようになりました。
そうすると、その町の雰囲気だとか、ガイドブックやネット上にはない、なんらかのまちの共通項だとか、そういう「まちの感覚」が現れてきます。そしてそういう感覚を捉えた上である建築を訪れること、そうする事でそこでの体験や記憶、自分の体に刻まれる学びが深くなることに気づきました。
そうして、なるべく歩いてまちを体感するのもそうですが、移動中のバスや電車から見える車窓も、ちゃんと目に焼き付けるように意識するようになりました。そして次第に無意識のうちに目に留めるようになっていきます。
こんな事は建築をやってる人から見れば、当たり前の事かもしれませんが、素直すぎた私は、「建築物を見たい、体験したい」という1点しか見えていなくて、その周りの持つ影響力にあまりにも無頓着だったのです。
これは別に建築に限った話ではなく、
例えば今回の広島だと、目的地が「原爆ドーム」だとします。それまでの道のりはスマホで検索すれば簡単に出てきます。そして、その通りに歩いたり、路面電車に乗れば辿り着くことができるでしょう。
しかしその道程にたくさんのヒントや気づきがある気がします。
例えば私は、広島市を歩くことで、大きくひらけたイメージがあると感じました。
このような些細なイメージは、何故原爆投下の候補地となったか、という事実と少しリンクしています。
そしてその道の広さや整備された都市空間から、戦後に計画された街並みであることを肌で感じられます。これは私が戦火を浴びなかった金沢や京都に住んでいるからこそ尚更感じる事かもしれませんが。
と、このように自分の体験や環境によって、色んなことを感じ、ある場所の記憶を、潜在的な自分の感覚とリンクして、深く刻むことができる気がします。
(竹原の街並み保存地区に行くまでに見つけたビル。こうなると、なんでもない風景を写真にしたくなったりします。でも、これが町の感覚なのかなぁ、と思ったり。)
目的地や目的があまりにも明確すぎると、それまでの道程から目を離してしまうのかもしれない、と改めて思ったのです。
これは情報にあふれ、行く場所を明確にでき、そしてその行き方もすぐにリーチできてしまう現代において陥りやすい点なのかもしれません。
旅の時は、目の前のスマートフォンから目を離して、一つ一つの景色やくうきと対話すること、目的地はその中のひとつにすぎないこと。
目的地は点ではなくて、ボヤッとした大きな範囲にしてみること。
そんなふうに旅をするようになりました。
そうすると、実は「行こうとしていた場所」に行けないとわかっても、イライラしなくなります。だってもう、五感で全てを楽しめているからです。
そういう意味でも、目的地を点ではなくて、ぼやっとした範囲で決めるのっていいんじゃないかな、と、改めて思ったのでした。
とはいうものの、もしかしするとこれらは建築や都市を学んでいるからならではの感覚かもしれません。
あくまでも私の感覚ですが、何かの参考になるといいな、と思って書きました。
今週も読んでくれてありがとうございます。
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