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影 (光の帝国)


いつこの沈黙を破ってこの何もない只中に気象異変が起こるのか私は気が遠くなるまで待ったわ

それは白昼に見た星の影の蒼さなの

空は高く高くずっと高く青い…

雲の一片々すら青く染まっているのに家並みは全て扉を固く閉ざし外には街灯がぼんやり灯っている…。

空と街とは違うのだ。
天気は私達の天気ではなく上にだけあり…下には降り注がない…。

今や調節の効かない白い水銀灯の灯りだけが私達の無限の夢のようだ…。

人間は自分達の言動をいつも誰かに監視されてるような気がしてしょっ中気詰まりで憂鬱の中に棲んでいる…。

だから必然的に人々は休める時にテーブルに頬杖をついては過去の栄光や昔の幸せな思い出へと想いを馳せるのだ。

我が身を慰撫する自分だけの世界へと滑り込んでゆくのだ。

それは狂わずに明日も生きてゆく為の大切なそしてささやかな誰にも知られずに済む人間だけの儀式…

ところがおかしなことに人々は気がつく。

10年前も1年前も10日前も奇妙なことに何も在りはしなかったのだ。

その事実に人々は他人事のようにりつ然とする。

『私は一体今まで何をして生きてきたのだろう』
と…。

そして微かに不安にもなるのだ。
『そしてこれからもやはり何も無いままに歳月だけが流れ流れてゆくのではないか?
あと10年20年経って振り返ってみてもやはりなんにもないのではないかしら?』


家の中にもう一軒の家が在り
室(へや)の中に室がある…

みんな居場所があるような無いような…

ベッドの傍には街灯がそそり立ち

家の中は広場みたいにバカでかいのに身の置き所はいよいよ狭くなってゆく…

未分化な芝居を創り上げさながらミュージカルのように歌い踊り…

その輪舞の果てに愛したい愛されたいと無理矢理
『愛の告白』をでっち上げる。

それだけみんなは退屈しているからだ。

ところが無理矢理でっち上げたはずの愛の中に予期せぬ真実の愛を見つけてしまって人々は驚き躊躇い…
右往左往して『こんなはずじゃなかった!』
と天を仰いで悩むのだ。



確実に感じる光の壁、
光の雨、
動く影が静止してしまった光を私達に見せてくれる。

光と影は合わせ鏡のように一対のもので決してバラバラにはならない…

光の帝国に私達は生きているはずなのに…

豊かな闇の底辺にいてこそ青い空の明らかさを痛いほど知る…


この輝かしい宵の中に居て真昼の空を見上げながら私は思う。

真昼の空に星が見えたらなんでもいいから答えをつけよう。

これが終わりの意味だ…

そしてこれが始まりの意味だ。

夜の中に棲みながら碧空(へきくう)の星の光が強くなったり弱くなったりするのを見たいのだ。


早くこの目で…!

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