小学生のように
野の花をサラダのように食べ
肉と星と牛酪(バター)とを血の気を多くするためのものとして受け入れる。
草原の輝きに卒倒することもなく…
食欲は瑞々しく若い意識の水をゆっくりと潜って絹のような空へとふんわり登ってゆく…。
まるで水とオイルの狭間にある小さなボールのようにバランスが取れているのだ。
そのことをとうに大人になった私が今こうして小学生のように知ることが出来るのだ。
心身に訪れた小康を歓び労りたい寂しい半分少女の私はそれら自然の残す波紋の跡を数えながら水鳥のようにゆっくりと痛む翼を伸ばしてはまた畳む。
いつか飛び立つ健やかな朝の為に…
豊かにあふるる冷水で貌を浄め…
新雪のような感触のタオルで拭い…
赤き血の中にあってこそのみずみずしさを見て心踊ったりもするのだ。
水で濡れた指先で目には見えない紅を塗ろう。
そのあどけない唇に…。
色のつかない水の紅…
一瞬、唇の上に宿る雫の光が太陽を映す神様の紅。
忘れがたき愛くるしいものは永遠に私の胸に残そう…。
腺病質な胸だけど…
やんごとなき河の流れは私の狭い胸で抱擁しよう。
悪い音のする病んだ胸だけど…。
その奥には美しい声で啼く白い鳥が棲む…。
あぁ川辺りの泥のなんと健康なこと!
流れの成す一瞬一瞬の形のなんと豊饒なこと…!
二度と表れず二度と見られぬ豊かさなのだ。
愛しいものと今これを私は見ているのだ。
今はいない愛しいものは私の中に宿り共に安らう。
それを知っている私はキラキラと輝いて…
今まるで私は小学生のようだ。
そして梢でさえずる鳥達のなんと近しいこと…
なんと親しいこと
なんと愛しいこと
貴方達の声は私の指紋の意味を上回る!
貴方達は愛情を惜しみなく
恥じず
照れずに
真っ正直にただ語り歌にしてひたすらに風に乗せて交感するのだ。
健やかな朝のアトリエは高く煙る山の匂いを含ませて薄青く 色つきの芳しい山の実の匂いのような空気を麓まで運び…
狭い胸を開き私はその空気を深く吸い込む
そしてなめらかに筆をとる。
テレビン油の臭気で頭痛を起こすこともなく私は歓びに満ちて絵を描く…。
愛するものを今描いているのだ。
私の胸に私の魂に私の声に宿りどうか柔らかな言葉を発して欲しい。
あの鳥達のように惜しむことなく
意地悪な気持ちから人を誉めることに対する吝嗇な気持ちが魂を濁らすことなど無いように…
愛を恥じずに私を通じて発して欲しい。
愛するものよ…
幻想ではなく今ある肉体の為に…
魂の為に…
野原をサラダのように食べ
大地を薫り高い褥(しとね)とし花蜜と麦の作用とを恵む神の手によって眠る私…
自然の秘密を掻き乱すような真似などしない…
私はいい子…
小鹿のように可憐に眠りその深さに澪(みお)さえ残らぬ…
愛するものと眠る私の確かな生…
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