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【北国の秋の香り】香茸を乗せた低温調理チキンソテー

出会い

 街中を歩いていると、土と木の混じった森の香りが鼻をついた。露天で売られているコウタケの香りだった。
 現在のところ人工栽培技術が確立されていないために一部では「幻のキノコ」ともてはやされているらしいコウタケだが、岩手県では比較的よく採れる。もちろん値段は他のキノコと比べて一回りは高価だが、この季節になると風物詩として素晴らしい香りを漂わせている。

 今年は9月に入っても、東北でさえ半ばまでは連日最高気温が30℃を超えているという有様だった。今週や夜こそ秋らしいまともな気温であるがそれでも夏日が珍しくない。
 夏の猛暑と少雨にやられていないかと心配していたが、それでも9月に入ってから雨は降るようになったおかげかキノコも無事生育しているらしい。


 せっかくなのでシャカシメジやハツタケと共に購入し、翌日の夕食に秋の香りを届けてもらうことにした。

しっとりとしたハツタケ、触れると簡単に崩れるシャカシメジ
革のような質感のコウタケ。
同じキノコでも三者三様だ。

 写真を撮った後でそれぞれ割いたり割ったりでちょうどいい大きさにしておき、コウタケは網に入れて軽く干し、シャカシメジとハツタケは冷凍しておく。
 コウタケは本来しっかりと乾燥させることで香りがさらに立つキノコと言われている。1日程度では足りないのわかっているが、恐らく今シーズンはまだまだ手に入る。たまには殆ど生の状態で調理してみたい。

材料

【チキンソテー】
・鳥もも肉 (少しいいもの)
・塩コショウ 
・サラダ油

【キノコのミルクソース】
・コウタケ 
・ハツタケ
・シャカシメジ
・ブナシメジ
・バター 
・牛乳

・パセリ
・マスタード

手順

1 鳥もも肉を低温調理する

 鳥もも肉を開いて塩胡椒を振り、フリーザーバッグに入れて65℃で1時間加熱する。

観音開きにして塩胡椒を振った鳥もも肉

 無謀なチャレンジを行う者による食中毒が度々発生したせいか一時期ほど聞かなくなったが、低温調理は実に素晴らしい。温度や加熱時間の限界に挑むような馬鹿なことさえしなければ、スーパーの割引の塊肉やレバーがご馳走になる。
 それこそサラダチキンのような袋から出して切るだけで食べられる料理が、放っておくだけで一度にそれなりの量できるため、学生時代はよく業務スーパーで冷凍の鶏もも肉を買い込んではバイトに出かける前に大量に仕込んでおき、帰ったら冷蔵庫に入れておいてそれと米で凌いでいたこともあった。
 ただいくつかある弱点の1つとして、密閉されているためか或いは長時間の加熱のためか、肉の臭みが出やすいというものがある。
 もちろんハーブをしっかりと効かせるか、チャーシューのように調味液の風味が強いものを使えば問題ない。ただ今回はキノコの香りをメインにしたいので、味付けと風味づけは塩胡椒だけにとどめて肉自体を普段よりも少し100g160円程度の普段使っているものよりは少しいい鶏肉を使った。

2 きのこを炒める

 キノコを一口大に切り、油を引かずに水分を飛ばすように弱火で10分ほど炒める。かさが減ったらバターを加えて更に炒め、バターが回ったら牛乳を加えて塩胡椒で味を整える。

写真ではコウタケとハツタケとシャカシメジだけだが
この後冷蔵庫にブナシメジがあったことを思い出し
追加で投入した。

 重さを測ったところコウタケが150g 、ハツタケとシャカシメジが合わせて160gあった。それにブナシメジを1株入れるとフライパンはいっぱいになった。
 加熱はしっかりと行う。検索すると「コウタケは生食すると中毒する」と記載されているサイトが数多く引っかかるが、そもそも基本的にキノコは生食してはいけない
 マッシュルームのような極々一部の例外こそあるが、シイタケやエリンギのような身近なキノコでも加熱が不十分なうちに食べると皮膚炎や食中毒を起こす。中でもコウタケは念を押されるあたり少量でも中毒を起こすのかもしれないが、もちろんちゃんと加熱すれば問題ない。

 バターは今回30g、牛乳は1カップ加えた。しばしば醤油に例えられるコウタケの香ばしい匂いは、バターを加えるとキャラメルを思わせる甘い香りへと変化する。乳製品と相性のいいキノコだな、と改めて思う。

3 低温調理したチキンをソテーする

 サラダ油を引いたフライパンでチキンの皮面を軽く焼き目がつくまで焼き、一口大に切る。

「蠱惑的」という表現がよく似合うチキンソテー

 低温調理の大きな弱点のもう1つは、焦げ目がつかないことだ。焦げ目の香りと味わいは、低温調理だけでは得られない。
 少し手間だがコンフィと同様に食べる直前にフライパンで少し焼き目をつけると、それこそ完璧なチキンソテーになる。
 低温調理した鶏肉を包丁で切ると、ぷりんぷりんと独特の弾力がある。この弾力を口の中に入れるところを想像するだけで、唾液が溢れてくる。

4 盛り付ける

 チキンの上にキノコを乗せる。
 好みでパセリとマスタードを添える。

完成

 コウタケの干していないものを食べたのは初めてだったがこれが驚くほど美味しい。生の状態の革を思わせる触り心地からうってかわり、しっかりと加熱をすると砂肝を少し柔らかくしたようなコリコリとした食感でありながら、複雑で強い旨みが広がる。 (これについては他のキノコの旨みを吸ったのかもしれない)
 ぷりゅんぷりゅんのブナシメジ、食感はややボソボソとしていて他のものにゆずるもどこか甘い香りと噛み締めるたびに弾けるハツタケ、サクサクと小気味いいシャカシメジ。
 数々のキノコのチキン、そして乳製品。それぞれの旨みが互いを高め合っていふ。
 味付けはシンプルなのに、それでいて一口ごとに異なるキノコの食感のおかげで飽きさせない。単純に好きなのと、味変のために粒マスタードを添えたが、蛇足だったかもしれない。


 ハツタケもシャカシメジも美味いが、コウタケはやはり素晴らしい食材だ。
 味といい香りといい、人工栽培が現在のところ少なくとも商業ベースでは行われていないのが悔やまれる。

 特徴的な香りを生かすならば干した方が香りは強くなるが、食感は間違いなく干さない方がいい。

 いやでも、あまりにも香りが強すぎるからスーパーなんかに年がら年中あってもそれはそれで嫌がられるかなあ。マツタケよりは人を選ばない匂いだとは思うが、この辺りは感性の問題となってくるので難しい。
 なら現在のように季節の度に数回、地元の人間が味わう程度がちょうどいいのかもしれない。でも山に入って採ってきてもらうのも大変だろうしなあ。

 運良く近くの産直なんかで見かけたら、是非手に取って欲しい。そういう食材だ。

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