見出し画像

過去1!『ゴジラ-1.0』

今まで観たゴジラ映画で1番だった。特に良かったところを羅列してみる。(※ネタバレあり)

物語に入り込める

過去1で物語にグッと入り込めた。過去作の主人公がゴジラに立ち向かう動機は主に「国家を守る為(利他)」だったけど、本作は「自分の戦争を終わらせる為(利己)」で、これが大きかったと思う。

死闘へ挑む動機が世の為人の為という立派な正義感や義務感だけでは、私には人間ドラマとしては弱く映る。個人のドロドロとした情念が乗っかって初めて"人間の話"になり、心が乗っかる。
人間が単なるコマにしか見えない、怪獣映画が陥りがちなハリボテ感が無く、人物が生きて存在していた。

ゴジラが主人公と"関係"している

ゴジラが主人公とちゃんと"関係"していてすごいと思った。ゴジラはただの自然災害ではなく、主人公・敷島に繰り返し自責の念を植え付け呪縛する宿敵にもなっていた。"2人"の間に因縁があり、ドラマがある。これがすごい。
"災害への対処"ではなく、"宿敵との決闘"が話の軸になっている。大きな話に見えて実はとても小さな話。

怪獣・災害映画の主人公へのそもそもの疑問「なぜあなたがやらなきゃいけないの?他の人ではいけないの?」に対し本作は「これは私の闘いだ。私がやらなきゃいけない」とはっきり答える。これが過去作には無かった求心力を生んだんだと思う。

タイトルはゴジラだけど、ゴジラは主人公に契機を与える仕掛けでしかない。敷島という男が自分の過去と対決し前へ進むまでを描いた"人間の物語"になっていて、敷島が真に闘うのは臆病な自分自身なのだ、という。

ここに普遍的な強い価値を感じたので、自民党に好都合な共助万歳な政治思想が見えてもそこまで気にはならなかった。
(「政治家や官僚しっかりしろ」は『シン・ゴジラ』でやり切ってたし、その次何やるかとなればその真逆、庶民目線の純文学を、となるのは理解できる)

リアルに怖く感じられるサイズ感/目が合う怖さ

本作のゴジラは初代ゴジラと同じく50mと小柄。これが怖かった。
近距離視点ではあまり大きすぎると荒ぶる神や天災などの超越的現象にしか見えず、リアリティが感じられず逆に怖さが半減したりする。
小さめだと意思疎通の出来ない巨人に直接襲われるような生々しい怖さが出る。

小さいと「目が合ってしまう怖さ」が生まれるなと。バカでかいと頭部は遥か上なので気づかれる心配などは持ちにくく、物体の次の動きを予測して上手く移動すればいいじゃんとSASUKE的に考えてしまうけど、目が合うものは敵、生物になる。災害的怖さに、生物に襲われる怖さが加わる。

ゴジラ初登場シーンが、恐竜サイズのゴジラが姿勢を低くし人をギロリと睨んだりパクっとくわえたりする『ジュラシック・パーク』オマージュなホラー演出で、これが生物・ゴジラの怖さを強烈に印象付けたんだと思う。
その次現れた時は桁違いに大きくなったゴジラが『ジョーズ』ノリで水面からぬうっと顔を出し再び主人公を睨む。この時の顔圧よ。本作のゴジラはやたらと顔が近く、こちらを見てくる。恐怖を増幅させる手順がお見事。

熱線放射カウントダウンシステム

機能抑制装置が解除されるように背びれが尾の方からカチャッカチャッと一定のリズムで1つずつ隆起し頭まで来た時ついに放射!
ブラボー!なアイデアだ。時限爆弾ゴジラ。なんてサスペンスフルな焦らし。数秒後に起こる大破壊が予測できるのに抗う術がない絶望と恐怖よ。
生物なのに兵器のように無機質なのが異様でまた怖い。全背びれがガチャッとハマり放射ってそれは完全に「スイッチ」じゃない…なぜ生物にスイッチが…(シンゴジのエヴァみを継承してる感じがある)

特攻しない、死なない

山崎貴が同じく監督した『永遠の0』との対比になっているなと思った。『永遠の0』の主人公も特攻が出来ないことで「自分だけ生き残ってしまっている」と罪悪感を溜め込み病んでいく過程が本作とよく似ていて、特攻することで最期に思いを遂げる。

対して本作の敷島は娘の為に生きる方を選ぶ。特攻任務から逃げた敷島を咎めていた者も、最後は生きて帰ることを望む。
集められた元兵士達もどこか"生き残ってしまった後ろめたさ"を抱えているけど、作戦のリーダーは「誰も死ぬな、生きろ」と強く命じる。

特攻隊の死を美しく感動的に描くことは戦争の肯定・賛美へと繋がりかねないし、戦意高揚のプロパガンダに利用される危うささえある。
その点で本作は明確な反戦映画であり、国家の為の死を徹底的に否定している。そこが良かった。民間人である彼らが身を挺し守ろうとしているのは国家というイデオロギーではなく自分達の家族であり生活であり未来なのだ。

アクションやVFXは最高域に達してる。あんな街の崩壊や水の表現が実写邦画で観れるとは。
怪獣アクションと人間ドラマが上手く相互作用しバランスが取れていて、娯楽超大作として大変よく出来た作品だった。これぞお正月映画。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?