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産声


「まだなのか?」
「すみません、もうすぐです。」
「もうすぐもうすぐって!いつになったら産まれるんですか!」
「もう出口までは来ているんですがその…」
「なんです?」
「子供が生まれたくないって言うんですよ。」
「それはまたなんで。」
「自分は出来の悪い子供だから世の中に適合できるかどうかもわからない、だから生まれるのをやめようと思うと申しております。」
「そんなことは気にするな、適合できなくても生まれさえしたらなんとかなると声をかけたまえ。」
「しかし、、見た目も非常にわるく恥ずかしくてこれでは人前に晒せないと言うのです。」
「世の中に出てから直せばよいと伝えたまえ、まだかね?」

「あ、はい、しかし生まれた家が貧乏だと苦労するからいけないと心配しておりますが。」
「ええい!めんどうだから責任は全て俺が持つから安心して、出てこいと言いなさい。」
「それでもいやがってどうしても出てきません。」
俺は穴に手を突っ込み頭をつかんでむりやり引っ張り出した。
出てきたのは恥ずかしそうに縮こまって、小さく紙をまるめながらオドオドしている一冊の本でしたとさ。

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