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大壹神楽闇夜 2章 卑 3賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) 3

 賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) が覇者に成るべく行動する中、何故か領土は狭くなっていた。此れに対し賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) はプンプンである。集落、国を攻め落とし確かに領土は広がっているはずなのだ。だが、何故か領土は広がる所か狭くなっている。
「どう言う事じゃか ?」
 朝廷を開き賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) が皆に問うた。
「じゃよ…。何故領土が広がりよらんじゃか ?」
 葉月(はつき)が言う。
「娘がおらんからじゃ。」
 千佳江(ちかえ)が言った。
「娘 ?」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は眉を顰めると、千佳江(ちかえ)は娘の数が圧倒的に少ない事を伝えた。つまり、どれだけ領土を広げようと、其れを維持する事が出来ないと言った。
「其の為の右主であろう。」
 賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) が言う。
「幼子の教育にどれだけの娘が必要か分かっておるんか ? しかも、まだ安定しておらぬ中で領土ばっかり増やされよったら手が回らん様になってしまいよる。しかも、戦で減った兵の補充で右主の娘を奪われておるんじゃ。」 
「つまり…。どう言う事じゃ ?」
「領土が増え、娘が激減しておるんじゃ。じゃから、領土を奪い返されてしまいよる。」
「じゃが、幼子の数は増えておる。」
「幼子は戦はせぬし、治安を守れぬ。其れに増えておる言いよっても、思う様に子作りも出来ておらん。」
「何故じゃ ? 」
「男が来んからじゃ。じゃから、皆男を漁りに行かねばならん。一度漁りに行きよると暫くは帰ってこんじゃかよ。じゃから、余計に娘の数が減りよるんじゃ。」
「確かにじゃ…。なら、新たな策を発動させよるか。」
「新たな策 ?」
「じゃよ…。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は新たな策を皆に話した。其れは今迄、滅した集落、国の男は子作りの後解放していたのだが、其れを解放せず牢に閉じ込め飼うと言うものである。此れにより娘達は男を漁りに行く必要が無くなり国を留守にする必要が無くなる。又、奴婢として奪って来た女にも子を産ませ女であればハナ国の娘として育てる事にした。
 そして、今迄男が産まれれば捨てていたのをある程度迄育ててから牢に入れ子作りの道具にする様にした。此れは奴婢の女が産んだ子であっても同じである。
「お〜。夏夜蘭(かやら)。其方は天才じゃか。」
「じゃよ…。男を牢に入れておる以上掟は破っておらん。確かに此れは見事な策じゃ。」
 と、娘達は此の策を絶賛した。
 そして、次の日から男を閉じ込める牢を作る事になった。牢は其れ専用の集落を作り牢獄となる竪穴式住居を幾つも作った。ただ、男をただ閉じ込めているだけでは反乱の危険性があった。だから、古の様に目をくり抜いたのだ。
 其れから、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は男を集める為に集落や国を攻めに攻め、色とりどりの男を集落に集めた。其れに伴い領土も増える筈であった。

 だが、領土は逆に更に減少した。

「何故じゃ ? 何故領土が減っておる ?」
 賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は皆を集め問うた。
「娘が減ったからじゃ。」
 千佳江(ちかえ)が言った。
「何故娘が減りよるんじゃ ? 漁りに行く必要はもう無いじゃかよ。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) はプンプンである。
「無駄に戦をするからじゃ。其の所為で多くの娘が死んでおるじゃかよ。」
「じゃが、幼子は更に増えておる。」
「じゃから、幼子は戦もせんし、治安も守れぬ。」
「奴婢がおるじゃか。」
「奴婢を監視しよるんも大変なんじゃ。」
「じゃかぁ…。」
「じゃよ…。先ずは国力を回復させよるんが先決じゃかよ。」
 と、千佳江(ちかえ)が強く言ったので賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は暫く戦をするのをやめた。
 そして朝廷が終わると賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は外に出やり空を見やった。空気を一杯に吸い込みユックリ吐く。
 自分は焦っているのか ?

 何となく自分に問うてみる。

 だが、迂駕耶(うがや)は着々と国を強固な物にしようとしている。

 賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は瞳を閉じて何度も溜息をついた。

「夏夜蘭(かやら)…。」
 そんな賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) を見やり実儺瀨(みなせ)が声をかけて来た。
「違いよる。賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) じゃ。」
「賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) 。」
 面倒臭いと思いながら実儺瀨(みなせ)は言い直してやった。
「なんじゃ。」
「我に策がありよる。」
「策 ?」
「じゃよ…。八重国が強くなりよるんが恐怖なんじゃろ。」
「じゃよ…。此のままじゃと丕実虖(ひみこ)が困りよる。」
「じゃな。じゃから、我等が混乱をもたらしよる。」
「混乱 ?」
「じゃよ…。我等は影に溶け込みよる。娘達も慣れてきおった。じゃから、色々と情報も確かな物が多くなって来ておる。」
「うむ…。其れは我もそうじゃと思うておったじゃかよ。」
「其の中で面白い情報を手に入れよったんじゃ。」
「面白い… ?」
「じゃよ。迂駕耶(うがや)には六人の子供がおるんじゃが、長兄の五瀨(いつせ)は迂駕耶(うがや)の地位を狙っておる。」
「つまり… ?」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) の目がキュイーンと光った。
「内乱をけしかけよる。」
「其れはナイスな案じゃ。」
「じゃろ…。」
「頼みよる。我は暫くは動けぬ。」
「分かっておる。今は国力を高めねばいけん。」
 と、言うと実儺瀨(みなせ)はテクテクと歩いて行った。其れを見やっていた千佳江(ちかえ)はホッと肩の力を抜いた。
 其れからは無駄な戦が無くなり千佳江(ちかえ)は安心して政策を行える様になった。賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は実儺瀨(みなせ)から送られて来る定期報告をソワソワしながら待つ日が続いた。
 そんな日々が続き、気がつけば丕実虖(ひみこ)は七つになっていた。つまり、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は三十一才になっていた。
 主になり七年。
 此の七年で国は大きく変わった。領土は減ったが逆に国は強く一つになって行くのが日に日に伝わって来る。
 丕実虖(ひみこ)の成長を毎日ワクワクし乍見やり、後に来るであろう大きな戦に心を痛める。

 八重国の力が衰えたとしても、逆にイズ国は力を付けて来ている。

 気持ちは焦る。

 今すぐにでもどこかに攻め入り領土を奪いたい。

 だが、幼子はまだまだ子供。

 まだ、早い。

 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は拳を握り早る思いを押し堪えた。
「さて、ツチノコでも取りに行きよるか。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) はテクテクと川辺に向かう。ツチノコは川辺に多く生息している生き物である。其の昔は硬くて臭いだけの生き物だったので誰も食べようとはしなかった。だが、周国から伝わった銅剣によりツチノコをさばく事が可能となったのだ。
 人々は此のツチノコを如何に美味しく食べれるかに試行錯誤を繰り返して来た。何故なら、臭くて硬いツチノコも硬いのは外側の皮の部分だけであり、中は非常に柔らかく仄かに甘いのだ。しかも、脂が乗っており非常に美味しい。だが、それを遥かに上回る生臭さが食欲を削ぐのである。だから、余計に人々は此のツチノコを何とかして食べようと考えたのだ。
 賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は川辺に着くとミミズを見つけヒョイっと摘むと、キョロキョロと周りを見やる。ツチノコの巣を探しているのだ。
 此のツチノコの巣は土竜の掘った穴とよく似ている。だから、良く間違える娘がいるのだが、此れを間違えてしまうと土竜にミミズを取られてしまうのだ。
「フフフ…。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) はツチノコの巣をバシッと見極めミミズを餌に見事ツチノコを巣の外に誘き寄せるとすかさず絞め殺した。そして川でジャバジャバとツチノコを洗った後縄に縛り付け集落に戻って行った。
「しかし…。日に日に川に映りよる自分を見るのが嫌になりよる。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) はブツブツ。年と共に衰えて行く自分に腹を立てている。仕方ないと言えば仕方ないのだが、いつ迄もカワユクありたいと思うのは当然である。
「しかし…。千佳江(ちかえ)もBBAになりよったじゃかよ。」
 と、クスクス。
 クスクス笑いながら上機嫌で丕実虖(ひみこ)の所に行くと、得意のツチノコの蒲焼きを焼いてやった。
「どうじゃ…。」
「美味しいじゃかよ。」
 丕実虖(ひみこ)は賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) が焼く蒲焼きが大好きだった。賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) も嬉しそうに蒲焼きを食べる丕実虖(ひみこ)の姿がとても好きだった。
「一杯食べると良い。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は更に焼けた蒲焼きを丕実虖(ひみこ)に渡してやる。
「賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は食べよらんのか ?」
「我も食べよるじゃかよ。」
 と、二人は仲良く蒲焼きを食べながら賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) はハナ国の話を話し聞かせてやる。そして、何故自分達が存在するのか、何故戦うのかを話すのだ。
「分かりよるか…。我等は二度と繰り返してはいけんのじゃ。」
「分かりよる。」
 強い眼差しで丕実虖(ひみこ)が答える。
「良い…。流石は我の世継ぎじゃ。」
 と、大満足で丕実虖(ひみこ)を抱きしめた。
 葉月(はつき)達将軍連中はコッソリ其れを見やり、ほのぼのをお裾分けして貰っていた。此の様な光景を見やっていると、此れがずっと続けばと考えてしまう。

 否、此れを続かせる為に戦うのだ。

 後に産まれる子達が幸せに暮らせる様に…。

 我等は繰り返さぬ。

 其れは娘達だけでは無く、此の地に住む人々が思う事である。

 否、あった…である。

 古き昔を語れるのは最早ハナ国の娘達と他少数であるからだ。

 長きに渡る戦により、既に周国の存在は消えていたと言っても過言では無い。なら、何故此の地に住む人々は争うのか ? 其れは生まれた時から領土を取り合っていたからである。だから、必然的に戦う事を強制されているのだ。
「さて、そろそろ皆の下に戻らねばじゃ。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は丕実虖(ひみこ)を見やる。
「応じゃ。」
 と、丕実虖(ひみこ)は立ち上がり幼子の集落に戻って行った。
「良いか。皆には内緒じゃぞ !」
「応じゃ。分かっておる。」
 と、丕実虖(ひみこ)はパタパタと走って行った。賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は丕実虖(ひみこ)の姿が見えなくなる迄静かに見送った。
「少し甘やかしすぎでは無いか ?」
 賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) の所にやって来て葉月(はつき)が言った。
「甘やかして等おらぬ。」
「じゃかぁ…。」
 と、葉月(はつき)は腰を下ろす。
「主は強くあらねばじゃ。」
「丕実虖(ひみこ)は強いじゃかよ。其方より…。我よりも…。」
「だと、ええんじゃが…。」
「何が言いたいんじゃ ?」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) が言うと葉月(はつき)は幼子の集落を見やり言った。
「余り鍛錬は好きでは無いみたいなんじゃ。」
「知っておる。」
「なら、何故我より…。夏夜蘭(かやら)より強いと言いよる ?」
「葉月(はつき)…。其方は強き者を履き違えておる。」
「履き違えて ?」 
「じゃよ…。真に強き者とは意志の強い者の事じゃ。忘れてはいけん。必ず其の時が来よったら分かりよる。」
 そう言うと賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) はニコリと笑みを浮かべた。
 
 

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