大人って何?
なんとも言えない心地悪さが胸の中をかけめぐる。
そんな感覚に陥ったある1日。
思わずパタンと閉じてしまったり頻繁に水を飲んでしまったり故にトイレに何回も行ってしまったり、、、
ああ、せっかくの休日に何やってんだ。
それもこれも全部「伊藤くんAtoE」を読んでしまった自分に原因がある。
きっかけは単純だった。
いつも行く本屋でちらりと見た表紙に「伊藤くんAtoE」と書かれており、
そういえば何年か前に映画化していて気になっていたけど結局見ることなく今日まできてしまったことを思い出した。
常に新しい物語を欲している私は何の躊躇もなくその1冊の文庫本をレジに持って行った。
今思えばその軽々しさがいけなかったのだ。
まさかこんな心地の悪い作品だとは夢にも思わなかった。
これは決して批評しているわけではなく、読み始め読み途中読み終わり全てにおいてここまで胸に嫌なものを感じさせる作品はこれまでに出会ったことがなかった。それくらい、私の今後の価値観に関わる衝撃作だった。
では一体何が、私にそう感じさせたのか。
すごく曖昧な言い方しか今はできないが、ずばり”男と女”である。
そうか私達は生き物なんだ、そんな思いが心地悪さに変わったのだと思う。
この世界は男と女でできている。
外に出れば当たり前のように男女が行きかっているし、恋人や夫婦、家族だってありふれている。同性は無意識のうちにお互いを比べ合い異性からの評価で自分の価値を決める。表面では笑顔でやりとりしつつもやはりどこかでこの人は自分より上か下かを考えている。もちろん、そんな計算のない関係性が存在することも知っている。実際に私も、信頼し合い常に心置ける仲の友が存在する。でもこの本を読むとそれすら本当なのか疑ってしまっている自分がいる。彼女から発されている言葉に嘘は無かったのか、見せてくれるその笑顔は見せかけじゃなかったのか。そうじゃないって思いたい、というか思っている。でも人間は特に大人は、完全に澄み切った瞳で関わっていけるほど楽な生き物ではないということも学んでしまった。
この本のある登場人物がこんなことを言う。
”世の中なんて嘘ばっかだよ。でも、プロってそういうものなんだよ。みんな騙し騙されなんだと思う。だからこそ、完璧な抜けのない嘘をつかなきゃいけないんじゃないのかな。いつしかそれが本当になるように命がけで嘘つかなきゃいけないんじゃないのかな。それが大人ってことなんじゃないの”
びっくりした。
心の中を1本の棒でグサッと刺す音がした気がする。
でも貫通するほど強くはなかった。
どこかに優しさも感じたからだ。
大人になるにつれみんな色めき立って見栄はって周りと自分比べて社会的な立ち位置気にして異性の目を気にして経験があるかないかで一喜一憂してほんとめんどくさいししょうもないけど、
”いつしかそれが本当になるように”
いつしか自分の理想が現実になるように
いつしか自分の想いがあの人に届くように
そうやって懸命に生きる人を私は”大人”と呼びたい。
そしてそんな大人を私は笑いたくない。
そんな大人になっていく自分を笑いたくない。
はなり
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