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「「美食地質学」入門~和食と日本列島の素敵な関係」を読んで

山門水源の森を次の世代に引き継ぐ会の森だより1月号に書いた書評です。

巽 好幸著「「美食地質学」入門~和食と日本列島の素敵な関係 (光文社新書 1230)」
光文社 946円(税込)
https://amzn.to/3HHZJxZ

 院生時代に集中講義で著者の授業を受けたことがある。細かな内容は忘れてしまったが、プレートの沈み込みに伴うマグマの挙動から地殻変動を論じるその鮮烈な論理展開に驚いた記憶がある。そこからかなり経って「情熱大陸」に出演されたのには驚いたが、番組では研究者としてばかりか美食家の一面も取り上げられていたのが印象に残っている。
 本書は全国各地の絶品食材を例にとりそれらを成立させた日本列島の変動現象を紐解く、まさに地質と美食が結実した稀有な書である。私たちにも馴染みがある琵琶湖のコアユやビワマスも登場し、その背後にプレート運動による古代湖の北上、瀬戸内地域のシワ状構造の発達、気候変動が論じられる。その手際は依然鮮やかで驚嘆するばかりだ。
 たとえばビワマスは海へ降りることをあきらめて陸封型のマスとして琵琶湖にとどまるようになったのは遺伝子を調べおおよそ50万年前であるとされている(これを遺伝子時計という)。一方海が内陸まで進入した時期に堆積した「海成粘土」から琵琶湖が海ともつながっていたことが明らかになっており、ビワマスの陸封時期である50万年前の直前までは温暖期であったため琵琶湖は海に近く、マスは大阪・京都湾と琵琶湖の間を行き来していたというのだ。そして琵琶湖の北上についてはフィリピン海プレートが太平洋プレートに押し負けたことによる瀬戸内地域のシワ状構造の発達さらに伊勢湾(-琵琶湖-若狭湾)沈降帯の成長が関係してくる。
 もちろん最近の研究成果が元にされているので仕方ないが、こんな話が学部生の時に知ることができたなら研究に対してもっと違った興味を持てたのではと辛かった学部生時代に遠く思いを馳せた。
(橋本 勘)

#美食地質学 #巽好幸

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