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私が絵画を観ているとき。【第一弾、クールべ】

 皆って美術館とかで絵画鑑賞する時ってどんなこと考えてるの?ふと疑問に思った。私はよく趣味で美術館に絵を見に行ったりするんだけど、基本一人。サークルの活動とかで複数人で行くこともあるけど、中に入ればバラバラになって個人で鑑賞するし、誰かと一緒のペースで見て周ることは全くない。

 だから他の人がどんな風に絵を見て、何を考えて、どう感じるかって全然わからない。正直言って鑑賞は絵と私二人だけの関係だと思ってるから、あまり興味もない。けど、絵を観ているときの心の独り言をこの場で話すことで共感してもらえたり、もしくは全然まだまだって一蹴されたりするのかな、と思うと面白そうだったので、ちょっと絵の話をしようと思う。

ギュスターヴ・クールベ(1819-1877)

  クールべ、いいよね。私この人めっちゃ好き。私が思う、自画像が最もイカしてる人。そんなに沢山の絵を知ってるわけじゃないし、生で見たこともあまりないけど、印象的だった絵が二つある。どちらも波の絵。クールベは前出の自画像や、画家とモデルという二項関係と社会階級の寓意を見事に表現した「画家のアトリエ」って作品とか、あと裸婦像とか色んな「クールべといえば」を残している人だよね。その「といえば」の一つが波の絵だと思う。

 まず一つ目がこちらの作品、「レマン湖の岸辺(急流)」 

クールべ『レマン湖の岸辺(急流)』(1875)

 この絵に出会ったのは2021年にSOMPO美術館でやってた「ランス美術館コレクション 風景画のはじまり コローから印象派へ」って展示でのこと。実はクールベの絵はそれまで何回か観たことがあって、初めては2010年に森アーツセンターギャラリーでやってた「ボストン美術館展」で観た『森の小川』っていう風景画の作品。この時はゴッホの衝撃が大きすぎて正直あんまり印象に残らなかったんだよね。

 でも、つい最近このレマン湖の絵を観て、なんか泣きそうになった。というのも、この作品の解説文を下に引用したから見てほしい。

スイスに亡命していた頃のクールベは、病気がちで気力も失せていたため、注文以外の作品を描くことはほぼなかったという。手つかずの自然を描いたこの風景画にも、そうした状況と芸術家の孤独が表れている。

「風景画のはじまり カタログ」p.39より

 自然を描くことで孤独を表現するってどういうこっちゃ。って思ったんだよ最初は。だって、孤独を感じるって極めて人間的だし、それを絵にするなら、例えば同じように孤独そうな弱々しい成人男性を描いてみたり、真っ暗な画面にポツンと何かを描いてみたり、そういう風に孤独って表現するものじゃないの?
 
 でも、もしこの絵に本当に病気で何も手につかない、沈降した気持ちが描き出されているのだと考えたら、自分の中で絵に対する大きな革新が起きたんだ。閑散とした自然を描くことで自己の内面を曝け出している。そんな表現方法考えたこともなかった。

 しかも、内面を表現するっ聞こえはとてもアクティブだよね。絵の具をぐっわとキャンバスに叩きつけるみたいな。でもこの絵の、特に波や崖の部分をみてもらうとわかるんだけど、すごく緻密で繊細なタッチなんだ。的確な色彩表現と、水や岩の質感を丁寧に描き出すその表現力は、写実主義のクールベの凄みが全部詰まっている気がする。その繊細さの中に孤独という寂寥とした、同時にとても動的な気持ちが込められている。それはとても衝撃的だけど、波の音しか聞こえなさそうなこの大自然を前にするとなんだかすんなり受け入れられる。自然を描くことで自己を表現する、そんな絵が今目の前にある。すごい鑑賞体験をしてしまった。


クールべ『波』(1870)

 最後は名前負けしない、この作品。これこそ波。お前が波だ。
 いや〜うますぎて泣きそうになる。本当に。こんな素晴らしい絵描きがこの世界に爆誕したことに感謝。これは上野の国立西洋美術館所蔵作品で、ちょうど今やっている「自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」でも観ることができる。

 この絵こそ生で見てほしい。波の筆致が本当に恐ろしいのだ。空と波が画面をきっちりと二つに分割している。なのに変にのっぺりとせずに、まるでこちらに波が迫ってきているかのような奥行きがある。それは波と水飛沫、そして流れを感じさせる質感の表現と陰影を表すリアルなコントラストが可能にしてるのだろう。

 あと、真ん中の方で起きている波がこの作品の主人公みたいなものなんだろう。でも、画面全体を見渡してみると色んなところで様々な波が起こっている。それら全てが余すことなく丁寧なのだ。筆致も波も全てが一つ、渾然一体となって全体を作り出している。まさに本物の自然さながらである。
 さあ、国立西洋美術館へGO!!


 クールベの絵を鑑賞したときの私の気持ちをだらだらと語ってしまった。だが正直その瞬間はここまで言語化できていない。図録やポストカードを買って、家で眺めて噛み締めるかのようにお一人様感想会をやっているだけで、実際観ている時は「うわすげえええ」としか思っていないようなことも結構ある。でもクールベの絵は特に、一度目についてしまうともうひっきりなしに色んなことを考えてしまう。私が絵の前から動かなくて邪魔そうにしていた後ろの人、ごめんなさい。それだけ情報量の多い作品なのだ。

 クールベのことあんまり知らない人は「クールべ 自画像」でググってください。一瞬で好きになるよ。


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