みなぎる口笛SP

「あ、今だ！」って思う瞬間ってあるよね？

そういうのって私にもあってさ、それはつまり今日だった。タンスの角に左足の小指をぶつけて爪がちょっと剥がれた瞬間、痛かったけど（今だ！！）って思ったから口笛でTRFを演奏し始めた。クレージーゴナクレージー、天才と凡人の境界線あたりを彷徨い続けていた私は、本日晴れて天才になった。

このおめでたい「2021年9月18日」を
一生忘れることの無い数字として
脳みそに入れ墨として彫ろう！！

これでようやく凡人と天才の分かれ道にぶつかったとき、ギャルの係員の人に
「うーん、どっちかな…。パッと見は天才ぽいけど、案外何も無いよな？な、ムズいなぁ…。でも考えてみると、凡人って感じもすんねんな〜、意外とチョイ天才の要素も入ってんのかなぁ…？でもおもろいことなんにも言わへんしやなぁ…。うち、天才やったらもうちょっとおもろいこと言うと思うねんなぁ…。」
って言われることも無くなるはずだ。

この記念すべき日、私とその仲間たちは見るからに汚い中華料理屋で祝勝会を開いた。集まったのは、ぽくてと漫画家と杉キュウリだった。

私はこんな温くてじめじめした夜にも辛い台湾料理をつまんで友達たちの会話をとても楽しそうに聞いている。君も勇気を出しなよ。

ぽくてが酔っ払っている。
いつもより酒のペースが早い。
漫画家はしきりに「やっとなれたな。やっとなれたな。」と肩をたたいてくる。
杉キュウリも嬉しそうだ。

私が店主のおじさんを呼んでザーサイをおじさんの耳の中に突っ込んでやると、3人はつられて大爆笑した。

おじさんは全くノーリアクションでザーサイが耳から飛び出たまま
「ここのお店どうやって知った？」
と聞いてきたので
「前からは知らなかったんだけど、道歩いてたら臭い匂いがしたから偶然入った」
と答えたらおじさんは耳にザーサイをぶらさげながら
「耳になんか詰まっててよく聞こえねえ」
なんて言ってきやがって。
私たちはまたしても爆笑した。

私はザーサイを取ってあげて
耳元で
「臭いから！！」
ってもう一度叫んだ。

おじさんは
「マジか…。店に消臭元置いてるんだけどな…」
と言って窓際の消臭元を指差した。
は席を立って消臭元を確認しに窓際まで行くと
「うわ！」
と言ってこちらを振り返った。

私たちが
「どうした！？」
と聞くと杉キュウリは
「この消臭元、中に血便入ってる！！！！」
と言った。

おじさんは
「うわ、やっちまったーーーーー！！」
と絶叫しながら窓際に走っていき
杉キュウリを片手で吹き飛ばして血便入り消臭元を手に取って厨房に持って行ってしまった。

私たちは、壁際に吹っ飛ばされた杉キュウリにかけよった。
「大丈夫か！杉キュウリ！！」

杉キュウリは
「あぁ、大丈夫だ。頭蓋骨骨折、心臓破裂、歯周病、あとは外反母趾くらいだ。大したこと無い」
と言って死んでいったので私たちは安心した。

そうこうしてる間に店主のおじさんはテーブルに何か皿を持ってきた。
その皿の上にはビデオテープが乗っており、ラベルには
「マジカル頭脳パワー(所ジョージ神回)」
と書かれていた。

漫画家が絶叫した。
「所ジョージを支持してる層って今どこら辺だ！！」

店の外からひどくしゃがれた年寄りの女の声で
「今、所ジョージを支持してるのは文明堂の社員たちだよ…」
と聞こえてきた。

私は店主のおじさん、というかクソジジイに聞いた。
「このビデオはなんですか…そして、さっきの血便は何処にいったの…」

クソジジイは無言でビデオを掴み床にたたきつけた。ビデオは粉々に割れ、中から黒いフィルムが飛び出した。
そして「なんかすっごい悲しくなってきた！！」と絶叫した。私たちも泣いた。

それから5年間の沈黙が流れた


沈黙の時を破ったのは
外から入ってきたたくさんのユーキャンで資格を学んでいる人たちだった。
それぞれの服には

「カラーコーディネーター」
「税理士」
「ボールペン字」

など、今、自分が学んでるものがゴシック体の太字で書いてある。


ぽくて「凄いな。それぞれの特性に見合った幅広い"学び"をみんな頑張ってるんだな」

私「そうだね、大人になってからの学習は人生をより豊かにしそうだね」

漫画家「俺も初めてみようかな、公認会計士講座。」


とか言ってるうちにその中に一人、胸に
「煮干しの砕き方」
と書いてある人が居た。




漫画家「え、一人だけ煮干しの砕き方を学んでる奴がいるぞ！！」

私「本当だ！ふざけてるのか！？」

ぽくて「わざわざユーキャンで金を払ってまで学ぶことかよ！？っていうかなんでそんな講座が開講してるんだ！？」



煮干しの砕き方男は
動揺する私たちををにやりと見つめて
こう言った。


「エジプトに留学したいんでね…。」