三度寝の正直
朝起きてすぐの部屋の空気にはまだ自分の気配が薄くて、布団のなかにいる私は途方に暮れてしまう。
布団が温かくて、妙にさみしくなる。
もう、本当の意味での孤独死を避ける生き方をみんなで学ぼうぜ。マジで。
でも、こんな寒いんじゃ地球の全員が全員、寝てるに決まってるか…しょうがないかあ……
私は覚束ない意識のなか溢れ出る感情に蓋をして、自分の体温で自分の身体をいつまでも温めてていた。ていうか、シンプルに二度寝。
ふと、もうこれ以上体温は上がらないだろうなと察した瞬間に瞼を開けると、部屋の真ん中に大きなシャボン玉がプカプカと浮かんでいて、
それを見た瞬間涙が止まらなくなったのはきっとやらせだと思った。
あるいは夢か。
この世界は往々にしてやらせである。
暗黙の了解がそこにはある。
私がこうして家に引きこもって布団の中でブルブル震えてるのもきっとやらせだ。
みんな友達だってのはやらせだ。
みんな人間だってのもやらせだ。
みんながご飯を食べるのもやらせだ。
みんなが好きな人に
愛してると言うのもやらせだ。
愛は地球を救うっていうのもやらせだ。
えびフライの中のえびが
死んだえびなのもやらせだ。
友達の実家で
世界で一番硬いアイスクリームを出されて
スプーンを突き立てた瞬間に
真っ白なバニラアイスクリームが
仏間の方へ飛んで行ったのもやらせだ。
全部やらせだ。
またひとつ、世界の真実に触れたわたし。
そんじゃあ、そろそろ元気に起きてやるか!と上機嫌で時計を見たら既に13時30分。
なぜなんだ??
科学では解明できない超常現象?
え、「奇跡体験!アンビリーバボー」?
ちがうね。やらせだよね。そうそう。
どおりでお腹が空くわけだよ。
仕方がないので、湯がいて食べた。
何をって?パスタをである。
パスタは手紙じゃないので読まずに食べても平気なのが素晴らしい。
パスタをずるずると限りなく蕎麦のように食べ終わったあと、すぐに寝転んで、限りなく弱い設定温度にした床暖房をつける。
布団を出てから体温が下がってる気がする。
もしかしてサーモグラフィーで今の私を映したら、限りなく透明に近いブルーてな感じだろうか?(村上龍好きです)
お布団からの解脱によりすっかり冷え込んでしまった私は、まるで猫の赤ちゃんが親猫の腹にすがりつくように頬と額とお腹を床暖にぴったりとくっつけることによって、やっと人間らしい生温かさを取り戻していった。
きっとサーモグラフィーで見たわたしの体、能天気なイエローになっている。戦隊モノでも、イエローって大して活躍もしないメンバーな気がする。それでも存在が許されるのは、やはりその能天気さに理由があるのではないか。
そんなことを思いながら、
ぼんやり昼のワイドショーを眺めれば、世の中は今日も変わらずさほど重要じゃない話題といつもの不幸で満ちており、薄がりのなかで光を放っているテレビの画面を直視するのが辛くなる。
耐えきれなくなったわたしは、視線を下に向ける。
すると床に落ちていた髪の毛とガビガビにかわいた米粒と目が合った。
わたしはそれを指先でつまむようにして拾うと、寝転んだまま這いつくばりながら移動して、ゴミ箱にぽいと入れる。
私のその姿はいわば、「立つ鳥跡を濁さず」的な感じとも捉える識者が多いのだけれど、実際のところは、怠惰という性質に「ねこは生き様、へびは死に様(オリジナル諺)」的エッセンスをハーブと一緒に加えたものだった。
脳内の通りすがりのヤンキー
「てか諺(ことわざ)っつー字よぉ、テメェよぉ、ことわざっつーか『言彦(ことひこ)』っぽくねぇかアァン!!?彦摩呂の兄貴にきちんと筋通してんのか!!!!」
脳内のヤンキーがそれこそ「立つ鳥跡を濁さず」な感じで立ち去っていくと、今度はそこへ煮詰まっていくお粥のような眠気がとろりと訪れた。さすがの私も観念し、ああもう誰もみてないし合法だバカやろーとたけし軍団がFRIDAY襲撃するが如く潔く、ゴミ箱の隣に座布団を引き寄せてそのままそこで眠ってしまった。そしてGSP…(グースカピー)
「#SHIBUYAMELTDOWN」
自分を俯瞰できるわけじゃないけど、もしいま幽体離脱できるなら、たぶんあのハッシュタグが相応しい寝姿をしているはずだ。
ゴミ箱の横で眠る私や、渋谷で酔い潰れた人々の寝姿には、この世の真実が詰められている。一説によると、その無防備な寝姿に耳をすましてみれば、「聖しこの夜」が聞こえてくるらしい。
つまり何を言いたいかというと、
この世で唯一のやらせじゃないもの、
それは三度寝である。
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