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同僚が消えた 【ある北米のIT会社の話】
そいつは明るいインド系の同僚だった。
広めのオフィスに私の席からブース1つ隔てて彼の席はあった。いつもニコニコして、というよりいつもヘラヘラと笑ってた。
多少インド系のアクセントがあり、たまに何言ってるか分からなかったがニコニコといつも機嫌良さそうだ。
1人だけ少しズレた話を始めてみんなに訂正されてニコニコしてるのが彼のお決まりだった。
そしてその日は突然やってきた。
いつもの朝のスタンドアップのミーティングでそれぞれの進捗と今日やることを報告しあう。
いつも通りの朝。何の変哲もない毎日だ。
同僚が2人、それぞれマネージャーに呼ばれた。話があるとのこと。
うちのチームは半分がリモートで残りは大体が出社していた。その2人はオフィス組で1人ずつ会議室に呼ばれたのだが、特にその時は気にもならなかった。
さあ今日は何からやろうかな、いまいち乗らないなぁ、コーヒーでも買ってこようかなとかのんきに考えてた。
同僚がマネージャーと出てきた。いつもの彼のヘラヘラした表情はそこには無かった。
同僚はそのまま自分のデスクに直行し、なにやらゴソゴソ自分の机を漁りはじめた。なにやらデスクをきれい整頓しているようである。
思わず声をかけた。「どうした?何の話だった?」
同僚は答えなかった。何も答えずそのままダンボールに自分の荷物をまとめてスタスタとエレベーターに乗って消えていった。みるともう一人の同僚も会議室で深刻そうな話をしている。
事態を理解するのに数秒かかった。そしてやっと何が起こっているのか頭の中で文字となって浮かんできた。
レイオフ、クビだ。
いや、こんな急にあるか?
なんの前触れもない凪のような一日の始まりに?
宣告されてそのまま荷物を持って出ていく?
こんなの映画でしか見たことない。業務に戻ることなくそのまま退場。そのまま彼は帰ってくることはなかった。
そうだ。私は北米で働いているんだった。
日本のように一旦雇われたらよほどのことがない限りクビにならない国ではないんだ。
衝撃だった。
特にやらかしたわけでもなかったので予想していなかった。
気付いたら2人目も荷物をまとめている。かける言葉がない。
ただただ後ろ姿見つめるぐらいしかできることがない。
彼も黙ってエレベーターに向かっていった。
その後マネージャーから説明があり、会社の業績のことやらその他のことを説明された。要はリストラしたくはなかったが会社の方針で止む無しだったとのことだった。残ったみんなで頑張ろう的なことを言ってたと思うが正直あんまり覚えていない。
その後は何もなかったように業務がすすみ一日がおわった。
後で知ったがうちのチーム以外にもうちのオフィス全体で10人くらい消えていったとのことだった。
もちろん私の住んでいるカナダにも労働基準法みたいなのがあってそれなりの権利が守られている。詳しくは知らないが2週間前通知は必須だったと思う。
その日に消えてったってことは何かしらの保証をもらってレイオフされたのかもしれない。その同僚とはあれ以来話してないのでわからない。
北米で働き始めてからはや4年近くなり、現在が2社目である。
これだけ聞くと、いつレイオフがあるかわからない状態で働くのは怖くないのかと思われるかもしれないが、正直そこまでビビっているわけではない。
良くも悪くもこちらでレイオフはよくあることだし、IT業界で言えば転職はそんなに難しくないだろう踏んでいる。
知り合いでレイオフされたから新しい会社を探す羽目になって結果超のつく大手に行ったやつもいる。世の中分からんもんである。
実はこの半年後にももう一回レイオフの時期があり、その時も数人消えていった。
その時はチーム内ではいなかったし日本に一時帰国中で何も知らなかった。
ただ帰ってきたら人がいなくなっていてまた驚いた。
良いのか悪いのかわからんが、なんとか私は今日も生き残って仕事をしている。いつ自分もレイオフされるのだろうか。
またそれもステップアップする、いいチャンスなのかもしれないな。
彼はどうしてるだろうか。今日はインドカレーでも食べに行くか。
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