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なかよし駆動開発 - 1.なぜ自社開発なのか

私は自社開発6年目のUIデザイナー。自戒を込めて、自社開発の話を中心に書き留める。


要求・要件の設定はデザインの根幹である


要求・要件を設定するのはデザイナーではない

どれだけ強いデザイナーをアサインしても、そのデザインに要求する内容がダサかったら、ダサくしかならない。

顔面は殴れないが、世に出す物に責任を持ちたければ、デザイナーは自分のクライアントや上司と、要件について交渉しなければならない。

方法としては

  • 誰もが黙る最高のデザインを見せる

  • 組織内でデザイナーが政治力を付ける

など、さまざまな方法があるが、このようなことに労力を割けば割くほど、作業時間が削られて、成果物の品質は低下するだろう。代理店を通していれば、そもそも、このような動きは不可能であるし。


自社開発のメリデメ

メリット:直接責任者と話せる環境

まず、要求・要件を決める権限のある人と、直接会話できるポジションに身を置くことだ。

代理店の担当者が優秀であれば良いが、ただの伝書鳩、最悪伝書鳩の仕事も出来ない人であれば、現場は阿鼻叫喚。代理店のミスで連絡が漏れていた場合、期限を伸ばせる訳もない。度重なる徹夜に、もう皆が慣れてしまう。「俺が若い時もそうだった」と。私は受託に見切りをつけ、自社開発に転身した。若いうちしか続けられないと悟り、何より、自分が将来部下を持った時に、同じような苦行を強いるなんて出来ないと思った。

自分で営業をして、自分でデザインをしていたこともある。代理店を挟んでいなくても、クライアント側で出てくるのは、あくまで「担当者」であり、権限を持った人ではない。鶴の一声ですべてがひっくり返る。そして、その理由が正確に分からない。

自社開発でも、規模や組織体制によって、現場と権限を持った人が離れすぎていることもある。逆に近すぎても、それは小さく開発予算のない会社であったり、「デザイナーを監視してやろう」という信用がない状態であったりもする。人それぞれ好みもある。自分がやりやすい距離感の会社を見つけよう。たとえば私の場合、従業員は100人前後がちょうど良い。1人目デザイナーは嫌だ。など。


デメリット:人間関係がリセットされない

自社開発ができる会社へ転職するだけではだめだ。社内営業をして、信用を勝ち取り、権限を持った人と会話する機会を与えてもらえるように、振る舞わなければならない。難しく考える必要はない。皆、小学校でやっている。
「なかよくなる」作業だ。

うわ〜苦手なんだよな。私は友達が少ない。でも大丈夫。あくまで仕事の関係なのだから、真の心の友にならなくたって良い。心を開いて、本音で会話できる程度の関係で良い。

自社開発のデメリットは、人間関係がリセットされないことだ。同じメンバーで数ヶ月、数年開発をすることになる。人間関係が崩れると大惨事になる。


責任者と話せるようになるまで

半年ROMれ

初めは権限を持っていない、下っ端と仕事をする機会が多いだろう。自分も下っ端。気楽にやろう。そこで、相手を軽んじてはいけない。その人の自分に対する評価が、第一印象を左右するのだから、丹精込めて仕事をしよう。そして、相手の満足度を確認しよう。「もっと、こうして欲しい。」それが、自分と新たな現場の差分である。貴重な情報だ。その人と、まずは本音で話せる仲になろう。

ただ、その人だけが会社ではない。他の人とも関係を持って、仕事の様子を聞き出そう。愚痴でも何でも良い。ここで自分は決して、陰口を言ってはならない。自分が愚痴を垂れて良いのは、早くて半年後。会社の文化・全体像が分かった後だ。言ってはいけない相手に迂闊なことを言ってしまう。半年ROMれ。

この手段として、飲み会などが出てくる。必要なければ行かなくて良いが、仕事上で聞き込みが出来ないなら、顔を出した方がお得だ。私が出会ってきた同僚の中で、「新人の君も飲み会くる?」への、最優秀回答は「はい、仲良くなっておきたいんで。」である。好きになってしまった。私も使おう。

半年後も「本人に聞かれてまずいこと」は陰でも言うべきではない。「…って、本人にも言ってるんですけどね。」という話以外、愚痴ってはならないと私は思っている。人の悪評を広めるのは、リスクが大きすぎる。他の人が話している分には、ふ〜んと言っておこう。間違っても噂を広めてはいけない。そこに加担しても、何も良いことがない。小学校で学んだことだ。

私に友達が少ないのは、その愚痴を聞いた時に、共感ではなく解決法を導こうとしてしまうからだ。仕事の関係であれば解決法を言うのも悪くないが、まずは、相手に共感することから始めよう。同調する必要はない。「あの人最悪」に「そうそう、私もあの人は最悪だと思っていた。」ではなく、「いや〜見てて、大変そうだなって思ってたよ。」と相手の苦労を受け止める
だけで十分だ。

「この人に居てほしい」と思ってもらい、要求・要件を、すり合わせられる程度の仲が必要だ。

休日どこかに遊びに行ったり、無理に飲み会に行ったり、趣味を共有する必要はない。それは手段であって、目的ではない。べつに好かれる必要はない。嫌われても良い。それも要素のひとつだが、必須要件ではない。

出世のためとか、評価のために行く飲み会ほど、つまらないものはない。たまたま趣味や気の合う人がいて、飲みに行く位がちょうど良い。


地盤固め

仕事は断らずにやるべきだろう。ただし、自分の希望を上司へ口で説明するだけでは、希望の場所ではなく「直近使えるポジション」へと追いやられてしまう。上司に「この人は希望通りの、このポジションで最も能力を発揮するな。」と判断してもらう必要はある。それは口で言うだけでは不十分で、とにかく実績を作るしかない。

自分を安売りしすぎてはいけない。仕事を断るのが苦手?私もそう。そんな人は、どうでも良い雑用が降ってくる前に、自分が能力を発揮できる仕事で、先にスケジュールを埋めてしまおう。そのためには「この人に任せたい!」と言う指名を、他部署の人から得なければならない。

…っていうマネジメントを、自分がリーダーになってからメンバーにしていたら、自分で雑用をする羽目になっているのだが…チームの評価は上がっているので、ヨシ!


手柄はみんなのもの

自分の評価を挙げるために、すぐに自分の手柄にしたがる人からは、当然、人が離れていく。「この人に依頼すれば、自分の評価が上がるぞ。」と思われるかどうかだ。だから、手柄を横取りするなんて言語道断。「あの人のおかげで、自分はこの成果が出せました。」と言って回るくらいでないとだめだ。自分の上司の前で、他部署の担当者を褒めよう。やりやすい相手は、なるべく会社に残って欲しいから、少しでも評価が上がるように協力しよう。

マネジメント観点の話になるが、自分のキャリアの伸びが芳しくなく、焦っている人は手柄を自分の物にしたがる。そして、余計に評判・評価を落としてしまう悪循環に陥っていることがある。デザイナーで見たことはないが、数字と睨めっこしている部署ではありがちだ。また、数字と睨めっこする系の部署は、マネージャーもそういう悪循環に陥ることがある。そして部下からの信頼を落としてしまう。

こういう時、デザイナーとして出来るのは、数字ノルマがない立場から、一歩引いて、ひたすら話を聞く作業をする。
すると、自分で言っているうちに「自分はこんなに、非道徳的なことを考えていたんだ。」と、自戒してくれる人もたまにいる。
それでもダメな場合、焦っている相手の良い部分を肯定してみる。そして、そこを評価してもらうには、どうすれば良いか?を話し合ってみる。すると、誰かの成果を横取りすることではなく、自分の能力を伸ばそうという発想になってくれることもある。

この作業で重要なのは、焦らないこと。そして、自分はカウンセラーではないので、踏み込んだ話はしないことだ。相手が自然に話始めれば良いが、コンプレックスの話などに安易に踏み込んではいけない。
そして、ここまでやってダメなら、諦めて見捨てることだ。他人を頑張って変えようとしても無駄。本人が気付くまで待つしかない。だから自分は、その人のことで必要以上に悩んでストレスを溜めたりしてはいけない。

自分で「横取りしたい」と思ってしまう時は、一度鏡の前で、上司に手柄を報告するシーンを再現してみて欲しい。上司は有限な人材を、なるべく上手く運用したいと考えているはずだ。そこで、間違った情報が上に伝達されてしまうのは、損失なのである。「嘘を付かれた」という上司の不信感は、間違いなく長期的にあなたの評価を落とすだろう。人の入れ替わりが穏やかな自社開発の現場で、それは致命傷になる。

代わりに、「あの人は、あんなことが出来る。」「あの人が居てくれると、自分はこういう成果が出せる。だから、あの人の評価をあげてくださいよ〜」という情報を伝えよう。その瞬間、あなたは上司の味方になる。上司は基本的に孤独な存在だ。そして、まともな人であれば、部下の情報を欲しているはずだ。だから、このようなお得情報を提供してくれる、あなたを重用してくれるはず。ほら、これで誰にも損をさせずに、自分の評価向上のアピールができた。


なかよく出来るスキル

私は出世欲がない。なるべく現場で手を動かしていたい。しかし、ある時、上長が辞めてしまったので、渋々リードデザイナーになってしまった。エンジニア・デザイナーではよく聞く話だ。そういう仕事をしたくないから、この職種を選んだ所もあったのに…

ただ、成り行きで、事業部長たちの会議によく呼ばれるようになった。いつの間にか、鶴の一声の主と、直接話せるようになっていた。結局、運と環境である。

ただ、上長が辞めた時、自分が登用されない可能性も十分にあった。仕事が一定出来ることは最低条件として、決め手は「誰とでも、なかよく出来ること」だったと、後からマネージャーに聞いた。

仕事のトラブルは機会的に対処できるが、人間関係のトラブルを起こされると、マネージャーは感情労働を強いられる。自分もリーダーになった後、よく分かるが、感情労働は上長にとって非常に負担になる。だから、主力人材が抜けてボロボロの現場で、そんなトラブルが起きることを避けたいと思うのは当然のことだろう。

また、大事な会議に呼ばれるには、立場の違う人たちと仲良くするスキルは非常に重要だ。相手を不快にさせずに、自部署の立場からの主張を、適切にする必要がある。手を動かし、勉強し続けることは重要だが、人間としての入出力が出来ないと、人間との接点を持たせてもらえない。それを世間ではコミュニケーションと言うらしい。

完璧な要件を用意してくれる環境でない限り、我々デザイナーは、対人間用のコミュニケーションスキルを駆使して、依頼者の思考・文脈へ切り込んでいく必要がある。


本音で話せるようになる必要性

リーダーの悩み

人員不足でリーダー業務をしている。しかし、現場で手も動かしていたい。結果、自分で自分の仕事を増やして、手を動かしていることもある。デザイナー・エンジニアには、よくあるパターン。このバランスをどう取っていくかは、ずっと職業人生の課題になる。

さて、リーダーと手を動かす作業を、両立するためには何が必要だろうか?それは、開発の効率化・高速化である。

俗に言う「小さく回す」である。次回は、要求・要件定義の段階から、小さく回すことを実現させるための方法について書いていきたい。


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