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編集者は小説賞の選考をするとき、作品の何を見ているのか(個人的視点)


 進捗どうですか? マイストリート岡田です。

 このnoteは、編プロ所属の編集者である岡田が、そのときそのときの思ったことを書き連ねていくやつです。

 新たな小説を出版社が求めるとき、原稿を募集する小説賞が開催されます。紙の原稿の送付を受け付ける賞もありますが、現在はWebでのデータ応募や、そもそも小説投稿サイトとコラボした小説賞が多くなりました。

 僕も毎年作品を選出している、「ネット小説大賞」は今回で9回目になり、今回は過去最大数である13,000作もの応募をいただいています。
 すごい。

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「小説家になろう」に投稿している作品に、タグを付けるだけで応募完了という手軽さもあって、日本最大級の小説賞になっており、多くの出版社がこの小説賞から同時に作品を選び、受賞させるという特殊な座組も特徴です。

 運営はクラウドゲート株式会社が行い、参加出版社が希望作品を挙げていくという流れになっていて、出版社の数が多い分チャンスは多くなっている、はず。

 応募作品に感想がついたり、作品がピックアップされたり、オリジナルのイラストがプレゼントされるなどの企画も行われています。

 応募作品は、文字数制限がなかったり、未完作品でもよかったり、短編作品でも受賞の可能性があるなど、編集者に見いだされればピックアップされるチャンスがある小説賞です。

 では編集者は、この膨大な数の応募作からどのように作品を選出しているのでしょうか。

 ここでは小説賞選考の基本から、僕個人の視点について書いていきます。


編集者の視点


 最初にまとめると、優先順位としては下記のようになります。

①設定とアイデア、「ログライン」がしっかりしているか(コンセプト)
②冒頭部分の文章表現が読者を惹く導入にできているか(掴みの巧さ)
③ストーリーを描いていく際の情報取捨選択が適切か(文章力、構成力)
④他の作品と差別化できるアピールポイントが思い浮かぶか(独自性)
⑤小説(エンタメ)の“型”と“魅せ方”を作者が理解しているか(演出力)。

 僕の場合は主に「ライト文芸」と呼ばれる分野をメインとして選ぶようにしています。いろいろ事情はあるのですが、自分の感性にマッチしていて、面白そうな作品を探し当てる感覚が身についているのもあります。

 ネット小説大賞の応募作は1万作以上あり、小説家になろう上での検索では限界があります。応募作は、小説賞運営元であるクラウドゲートからリストが貰えたり、注目作ピックアップとして情報を貰えるので、そこから選んでいくことになります。

 ここで大事になってくるのは「タイトル」です。

 ずらっと並んだリストは、ポイントやジャンルでソートをかけてみて、作品を矯めつ眇めつしていくのですが、そこでの判断はやはりタイトルが第一印象になります。


ポイントって見てるの?


 数年前であれば小説家になろうでのポイントは書籍化に必須となっていたのですが、現在では「指標の一つ」くらいになっています。

 というのも、小説家になろうからの書籍化が膨大な数になり、加えてユーザーも増えていることから、ポイントがインフレし始めています。それに、数万ポイントを獲得していたとしても、「書籍化したときに市場で通用するか」という観点が、乖離してきているように思います。

 作品がずらっと並んだリストのステータスとして、ポイントはソートして見ていく際の基準くらいなもので、いまはタイトルとジャンルを照らし合わせて作品を探しています。

 その中で「これは」と思うタイトルがあると、まずは読んでみるのです。

 タイトルは作品の看板となるものです。応募時点ではまだイラストなどのビジュアルイメージはないので、文字のみの情報でいかに目を惹くものにするか、Webへの作品投稿が熾烈になっている現代では多くの人が試行錯誤をしている部分でしょう。

 このタイトルが、作品コンセプトをしっかり捉え、表現できているものであれば、読みたくなってしまうものです。

『妻を殺してもバレない確率』はものすごく目を惹きました。

『静かの海』、不思議な魅力を放っていました。

『織田家の長男に生まれました』歴史系のズラしを感じさせるタイトル。信長じゃなくて信広なの!?って驚きがあります。

『菜の花ルリユール』 わからない言葉に惹かれるタイプなのですが、この作品で「ルリユール」という職業について初めて知りました。

 逆に、タイトルで担当レーベルに合わなそうなもの、自分の好みに合わなそうなものは避けます。徐々に「異世界転生/転移ファンタジー」と感性がズレてきてしまって、何が読者にウケるのかが感覚的にわからなくなってくるとつらいですね。


冒頭の文章は超大事


 冒頭の文章はめちゃくちゃ大事です。どんなエンタメにも言えることですが、読者が最初に触れる部分からしっかりと物語へと乗せるための工夫をしている作品は、それだけで読む気が湧いてきます。

 魅力的な書き出しを集めているサイトを眺めていても、やはり最初の文の掴みが大事であることがわかります。

 映画やアニメのアヴァンタイトル、楽曲のイントロそういったものと同じなのが小説の書き出しです。最後まで書き終わってから、最後冒頭に戻って書き直したほうがいいくらい、大事な部分です。

 そして、冒頭からストーリーを進めて行くにあたって大事なのが、文章用言内の、情報取捨選択です。たとえば、主人公の名前の出し方。多くの人が自然な形で主人公の名前を出そうと工夫していると思います。そんな中で「俺の名前は○○」や「俺こと○○は」というように出されてしまうと、情報の整理や表現技法に難ありと感じてしまいます。

 このほかにも5W1Hに代表される情報が、しっかり読者へ提示されているか、本筋に関係ない情報をいれすぎていないか、という文章の構成も見ていきます。小説は書き進めるのも大事ですが、削ることも大事です。不要な部分を削れていないと、読者が読みづらくなってしまいます。

 冒頭から1万字くらいの中で、この「掴み」と「情報取捨選択」ができていないと、いくらアイデアやログラインが明確でも、読むのがキツくなってしまいます。


小説の独自性とは何か


 そんなもんわかったら誰も苦労はしないポイントなのですが、コンテンツの独自性というのはとても難しいです。

 それは、他とは違うストーリー・設定のアイデアなのか。
 それは、他とは違う独特な文体や文章表現、キャラのセリフなのか。
 それは、人気ジャンルや受けている作品の要素の組み合わせ方なのか。

 エンタメ作品においては現在のトレンドの流れを掴むことが大事になってきます。どんなレーベル、ジャンルにおいても、主たるターゲット読者層・年齢層、書店の棚の位置などがあり、それらに合わない作品を送り出しても、スベり散らかして爆死することになってしまいます。

 そうならないように編集者は市場のデータを集め、ある程度のストライクゾーンを作り、その中に入る範囲での作品の独自性を見ています。

「好き」のマジョリティを狙いつつ、エンタメとしてウケる要素を盛り込みながら、どうしても自分の性癖や追い求めたいテーマがにじみ出てしまう……その混じり合いが「独自性」になると考えています。

 そんな、作者の滲み出てしまう気持ちを感じ取れると、良い作品だと感じ取ることができるのです。

 感じ取るのにそれほど多くの文字数はいりません。

 現に僕も、『異世界居酒屋「のぶ」』は書籍版でいう4話分くらい(約2万字)で更新が止まっていたのを受賞させましたし、約8,000字の短編だった『妻を殺してもバレない確率』をグランプリに推しました。

「独自性」ともまた違うのですが、こういった序盤から面白さを感じられる作品は、小説・エンタメとしての“型”がしっかり守られていて、そこからのズラしが巧みに「独自性」を生み出していると思います。


文章による演出力を磨け


 恋愛でもアクションでもミステリーでもファンタジーでも、「三幕構成」「ビートシートメソッド」「ヒーローズジャーニー」といった、物語の“型”があるのですが、それらを守りつつもスパイスのような刺激が入っていることで、作品は面白くなると思います。

 論理立てた脚本術を知らずとも、多くのコンテンツに触れていれば、自然とその演出方法を感じ取っているでしょう。小説を書くのであれば、多くの小説を読むことで、語彙や表現技法、文章を書く際のルールなどを、見て学ぶことができていると思います。

 編集者側からは「この人は小説を読んでいるか」「コンテンツを読んで・観て学んでいるか」という点は、なんとなくわかります。別段、「三点リーダは“……”←これが基本形」とか「“!”“?”のあとはスペース入れろ」とか細かい部分はおいておきます。こちとら舞城王太郎が好きなんじゃ。

 文章を書く際のルール、語彙の選択と魅せ方、あえての崩し/荒々しい勢いなど、自分では書けないような「おっ」と思わせる表現に出会えると、幸せな気分になります。

 いろいろ書き散らかしているけれど、僕自身は文章表現の中でクセの強いメタファーやアイロニーを入れることは苦手だし、リリカルな表現をすることも苦手です。

 ある程度まとまった、読みやすい文章に留まっているので、小説として表現ができる作者の方々を尊敬しているのです。


作品選定が終わらないよ


 長々と書いてきましたが、冒頭にも書いた通り今回のネット小説大賞は13,000作品の応募があり、これから下読みされてある程度選定された状態のリストへとなっていくのですが、すでに熾烈な作品選定バトルが始まっています。しかし膨大な作品を読み進めつつ、受賞候補の作品を探していくのは至難の業。

 こうやって自分の選定基準をまとめながら、頭を整理したくなってくるのです。

 第9回ネット小説大賞の応募締め切りは5月31日!

 小説家になろうに投稿されている作品へ、「ネット小説大賞九」とキーワードをつけるだけで応募完了です。

 僕みたいな、異世界ファンタジー以外の、青春恋愛ものやヒューマンドラマ、私小説に近いような作品もポイント関係なく選ぶ編集者もいます。

「ファンタジーじゃないしな」と尻込みしている方も、ぜひご応募ください。投稿したてで0ptでも大丈夫!!

 ご応募お待ちしております!!!!

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