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「ライト文芸」ってなんなのだ


「ライト文芸」という言葉はこの21世紀になってから新しく生まれた言葉であり、ライトノベルと一般文芸作品の間にあるような小説の作品群を指します。

 登場するキャラクターたちの個性が立っていることから「キャラクター文芸」「キャラ文芸」と呼ばれることもあります。

「イラストをカバーに用いたエンタメ小説」という括りで言えば広義のライトノベルとなりますが、書店の棚を見るとコミックコーナーではなく、文庫コーナーに置かれています。

 では「ライト文芸」とは何なのか……。
 僕自身の考え方で言えば、ライトノベル的なパッケージングで売っている文芸作品、だと思っています。

 もともと一般文芸と呼ばれる大衆小説の中にもキャラクター性が強い作品はありますし、そういった作品はキャラクターの言動や個性が受けて、シリーズ化していきます。

 それが一般向けの小説ということで、ビジュアル化されたキャラクターのイラストは用いられていなかったのです。

 しかし2000年代に入ってライトノベルのブームに火がつき、『このライトノベルがすごい!』のような書籍も発売され、どんどんアニメ化するにつれて、世間一般にもライトノベルというものが認知されていきました。

 同じようにして、オタクという存在も一昔前のような忌避の目は薄まっていき、アニメ・マンガ・ゲームで育ってきた人が大人になっていきました。

 そうなったときに、イラストを用いたパッケージングというのは、ライトノベルだけのものではなく、広く一般的に受け入れられるようになっていったと思います。

 ライトノベルのブームが起こり、新興レーベルも増えていった2003~2008年頃は、ライトノベル作家の“越境”が話題になっていた時期でもありました。元はライトノベルを書いていた作家が、一般文芸に進出し、活躍していったのです。

 乙一、米澤穂信、冲方丁、桜庭一樹、有川浩など、いずれも現在は一般文芸の作家として認識されている方々だと思います。

 この頃は“越境”と言っているように、ライトノベルと一般文芸の間には壁のようなものがあり、それを乗り越えていった、というようなイメージです。

 電撃文庫が出していた「電撃の単行本」は、ライトノベルらしさを廃したハードカバーでした。『空の中』や『夜魔』、『シフト』などはそういった印象を受けました。2005年の電撃文庫は、あえてイラストを使わない作品を出してみたり、いろいろとライトノベル読者以外にもリーチできる施策を考えていたように思います。

 そういった“越境”が続く中で、有川浩の『図書館戦争』がヒットしたり、桜庭一樹の『私の男』が直木賞を取ったり、冲方丁の『天地明察』がヒットしたりと、ライトノベルが続々アニメ化される一方で、元はライトノベルを書いていた作家たちが、一般文芸でも評価されるようになっていきました。

 その中で創刊されたのが「メディアワークス文庫」でした。
 2009年12月の創刊ラインナップには、有川浩、壁井ユカコ、入間人間、古橋秀之、渡瀬草一郎、杉井光、野﨑まど、有間カオルと、現在も活躍する作家が揃っていました。

 けれどこの頃はまだ、メディアワークス文庫は一般文芸寄りのパッケージングをしていて、写真を使ったものやキャラクターのいないイラストも見られています。その中でも『シアター!』や、翌月の『青空時雨』、『ガーデン・ロスト』は、現在も続く「ライト文芸」のパッケージングになっていると思います。

Q.「メディアワークス文庫」創刊にあたって、どんなことに苦労しましたか?
A.「メディアワークス文庫」は「電撃文庫」でデビューした作家の作品が多いため、「電撃文庫」との違いを書店の方にご理解いただき、一般文芸コーナーで販売していただくことに苦労しました。
Q.「電撃文庫」との違いは何でしょうか?
A.「電撃文庫」の読者は中学生、高校生が中心ですが、「メディアワークス文庫」は20代、30代が中心読者です。ただし、特定ジャンルの枠にはまらないレーベルを目指している点では同じです。

 このインタビューからも、「書店で置いてほしい棚」と「読者層」が電撃文庫(ライトノベル)とは異なることがわかります。


 2010年代になるとオタク的なイラストは様々な商品に用いられるようになっていたと思います。

 出版で印象的だったのは年間ベストセラー1位『もし高校野球の女子マネージャーがドラッガーの『マネジメント』を読んだら』でしょうか。パッケージにイラストをつけると売れる! という感覚が広まったと思います。

 翌年2011年には『ビブリア古書堂の事件手帖』が発売されてヒットとなりました。このあたりから「ライト文芸」の方向性が定まってきたように思います。

 そんなふうにして「ライト文芸」の土台が固まっていったわけですが、同時に一般文芸側も小説のカバーにイラストを使うという流れができてきます。

 東川篤哉の『謎解きはディナーのあとで』が大ヒットが象徴的でした。イラストを用いてキャラクターを見せる小説がランキングに上がってきます。イラストを手掛けた中村佑介はライトノベルに用いられるイラストレーターとはジャンルが異なりますが、こういったイラストが小説のカバーで多く見られるようになっていきます。

『神様のカルテ』のカスヤナガトや、綾崎隼と組んで作品を出していたワカマツカオリなど、スタイリッシュなイラストが好んで使われるようになります。

『5分で読める! ひと駅ストーリー』でイラストを手掛けたげみは、その多くのライト文芸のイラストを手掛けるようになっていきます。「ライト文芸」全体のイラストのテイストを決めていった存在かもしれないですね。

 2014年の富士見L文庫や2015年の集英社オレンジ文庫の参入から、女性向けの作品群が多くなっていくようになったと感じています。

 これらのレーベルは、KADOKAWAだと角川ビーンズ文庫、ビーズログ文庫、ルビー文庫、集英社だとコバルト文庫(+ケータイ小説レーベルのピンキー文庫)で書いていた作家を起用しており、少女小説やケータイ小説の文化を受け継いだ作品を出していきました。

 少女小説、ケータイ小説的な要素も、ライト文芸には取り入れられていっています。

 現在では「中華風後宮もの」や、「平安陰陽師もの」、「難病もの」、「切ない恋愛」というジャンルは、継続して人気があります。

 こうして「ライト文芸」の市場形成を追っていくと、ライトノベルという分野から飛び出してきた作品・作家群があり、一般文芸の中からもキャラクター性の強い作品・作家にはイラストが使われる、という流れが合流しているように思います。

 そして、悲しくも徐々に勢いが衰えていった少女小説やケータイ小説といった作品を書いていた作家たちも取り入れて、新たな市場として作り上げられていったようにも思います。

 僕が考えでは、「ライト文芸」というのは、ライトノベルの持っているパッケージングの手法や、シリーズ展開、キャラクターのアピールを一般文芸の中にも持ち込み、ライトノベルと一般文芸の間に新たな市場を形成したのだと思っています。

 ライト文芸は書店では一般文芸の文庫の棚に置かれることになります。2000年代を通して数を増やし続けたライトノベルとは、別の棚を手に入れて、ライトノベルを読んで育ったけれど、ライトノベルからは卒業していたような読者層も呼び込むことになっていきます。


 そういった流れを考えると、「ライト文芸」の括りの中に入ってきがちな、Web発の異世界ライトノベル(いわゆるなろう系)は「ライト文芸」の範疇からは外れるのかな、とも思っています。

 対象とする読者層も、掲載された文化的な流れも、書店で置かれる棚も異なります。編集者としても「ライト文芸」とWeb発異世界ものは異なる分野だと認識しています。


 アルファポリスでは「ライト文芸」と「キャラ文芸」は別のものとして定義していますね。

キャラ文芸は

最近の傾向では、喫茶店や洋食屋、古書店や骨董屋などを舞台にした物語、あるいは妖怪やもののけなどが登場するいわゆる「あやかし」モノ、性格にクセのある探偵が登場するライトミステリーなどがこのジャンルに該当します。

ライト文芸は

学生時代の一幕を瑞々しい感性で切り取った青春小説、死や別れを題材にした感動小説、家族や友人をテーマにした物語、特定の職業やスポーツを描いた物語などがこれにあてはまります。

 この区分は、僕の感覚的にも合っています。最近「ライト文芸」がわからなくなってきたのも、「キャラクターや舞台設定がライトノベル寄りのもの」と、「一般文芸作品に親しいけれどパッケージングはイラスト」というもので、読者層も異なるな、と感じていたからです。

 このあたりまだ感覚的なことしか言えないので、自分でももうすこし考えながら、その文化的な背景や読者の求めるものなど探っていければと思います。


■参考


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