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「昔の文学作品って読む意味あんの?」という人ほど読んでほしい『辰巳センセイの文学教室』


 進捗どうですか。マイストリート岡田です。

 5月のGWが明け、昨年から準備を進めていた新作『辰巳センセイの文学教室』が発売となりました。なんと上下巻同時発売です。

『辰巳センセイの文学教室』は、辰巳祐司という国語科の教師を中心に、3年間の高校生活内で起こる様々な事件を描いていく物語。
「炎上姫」とあだ名される生徒・円城咲耶からの恋慕を躱しつつ、近づきつつ……といった恋物語も描かれていきます。

 ストーリーの大きな特徴は、事件が描かれるメインパートとは別に、文学作品を扱う国語の授業パートが挟まるところ。

 辰巳センセイの授業が進んでいくたびに、教科書で読んだあの文学作品の、読み取れていなかった描写や、作品の解釈が説明されていき……それが事件の重要人物の心情ともリンクしていくのです。

 一章に登場するのは森鴎外の『舞姫』
 ドイツに留学した主人公・豊太郎が、エリスという少女と出会い、彼女との関係に葛藤していく物語。
 優柔不断でヘタレな豊太郎が、好いた女性であるエリスを選ばず、バッドエンドに突き進んでしまうので、女性の教師からは評判が悪い……というような教師側の事情も描かれつつ、辰巳センセイはまた異なった解釈の仕方や、作者である森鴎外のことにも触れていきます。

 恋愛か仕事か、どちらかを選ばなければいけない葛藤の中で、人はどんな選択をするのか。それが、高校で起こったある事件とも重なっていきます。文学作品で描かれていた心の動きが、現代でも当てはまる。その精緻な心理描写が美しいのです。

 この「一章 舞姫の時間」は、声優の小見川千明さんによって、前編が朗読として公開中です! これから読んでみようと思っている人も、小説を読んでから、という人も、ぜひ聴いてほしい迫真の朗読になっています。

「我を救ひ玉へ、君。金をば薄き給金を析きて還し参らせん。縦令我身は食はずとも。それもならずば母の言葉に。」

 このような『舞姫』の文語体が、朗読でものすごくかっこよく表現されています。


 続く章は『羅生門』『竹取物語』『山月記』『こころ』と、名作文学を扱っていきます。高校生活の事件を描くので、SNS時代の「いじめ」や、「児童虐待」「性自認」といった問題も扱っていき、加えて辰巳祐司という人間が抱えている秘密にも迫っていくのです。

 現在の国語(現代文)では、文学作品を排除するような変更が行われているそうです。けれど、物語が読者に与える経験というのは、世界の見え方すら変わるものだと思っています。

 実際のところ日本近代文学は、現代人からするとストーリーや作品全体の意図が咀嚼しにくく、読んでも理解できない部分も多いでしょう。けれど、『辰巳センセイの文学教室』を読んだあとであれば、文章で書かれている人々の心理や、文の行間、作品が書かれた背景まで見通すことができます。

 僕も『こころ』を読み返したのですが、「中 両親と私」の部分が、なんだか刺さってしまったのですよね(父親が病気で臥せ、そこに「私」が帰省し、田舎の雰囲気に嫌な気持ちになる章)。

 本作で、身近な物事と文学作品の重なりを知ることで、『舞姫』も『羅生門』も『竹取物語』も『山月記』も『こころ』も、またひと味違った楽しみ方ができること間違いなしです。

 著者が現役の教師ということもあり、高校の描写はリアリティがあり、特に職員室でのやりとりは生々しさすら感じてしまいます。実際、教師としての経験したことがモデルになっていることも多いそうなのですよ。

 そういった裏話は、朗読を担当した小見川千明さんとの対談動画で明かされています。


 ということで、『辰巳センセイの文学教室』上下巻が好評発売中です。
 著者の企画で感想募集もしております。作品を読んで、「ここが良かった!」「ここに共感した!」ということを[#辰巳センセイ読んだ]でお寄せください。

 


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